B-log

コンサル→ベンチャー。ビジネス系のネタ。

「ロジカルな解決策が動かない」はロジカルじゃない

 
コンサル出身者の端くれで、今は事業会社で働いていることもあり、コンサルから事業会社に転職したての人から
 
「ロジカルに出した正しい結論なのに、現場が全然動かない。」
 
みたいなことを、言われることがあります。
 
セットで「現場はロジックじゃ動かないからねぇ」みたいな言説がついてくることが多いです。
いつも、適当なこと言ってお茶を濁すのですが、個人的には「ちょっと違うんじゃないかなぁ」と思っています。
 
端的に言うと「ロジカルな解決策が動かない」という話自体が、結果論としてロジカルじゃない気がしています。
 
とても面倒臭く、わかりにくい話をします。
 

「ロジカル」「論理的」 の定義

そもそも「論理的」とは、シンプルに定義すると
  • 原因と結果、もしくは結論と理由の関係において
  • 抜け漏れなく(できればダブりもなく)
  • その繋がりを確からしく説明すること
ということです。
 

「動かない解決策」は、結果論としてロジカルじゃない。

「ロジカルに出した正しい結論なのに、現場が全然動かない。」
は、以下の意味でロジカルじゃないと思っています。
 

「実行できる」の論証が必要

まず、ビジネス実務においては、与えられている問いが「『実行できる』〇〇の解決策を探せ。」と、実行可能性を前提にしています。
 
とすると、実行できない(理論上は可能でも、実務上の実行を担保されていない)解決策は、問いに対する答えの要件を満たせていない、というのが私の考えです。
 
(「実行の実務的担保は、コンサルや経営企画の仕事じゃない。」という主張は、確かに傾聴に値します。でも、究極の究極、実行されないと、そのビジネス全体の価値提供先に対してはバリューにならない。てか、一円も儲からないもん。よって「実行可能性は前提」というのが私の「価値観」です)
 
というわけで、「ロジカルな解決策」であるためには、「実行できる」という結論に対する理由を説得的に示す必要があります。
 
(ま、こんなまどろこしい説明せずとも経営企画室やコンサルのアウトプットで質の高いものは、できるかできないがギリギリの線を突きつつも、「できそう!やってみたい!」となるようなワクワク感とか仕組みがセットになっていますよね。)
 

でも「実行できる」の論証は難しい

「実行できる」を論証するには、「すべき」を説得的に示す必要があることが多い
かくして、ビジネスの解決策を示すには「実行できる」の論証が必要です。
しかし、「実行できる」の論証は難しい。
なぜなら、現場(ここではミドルマネージャーくらいまで含む)に対して「これをすべき」を説得的に示す必要があるからです。
 
この「すべき」が曲者です。
 
ちょっと面倒くさい話をします。
 
「すべき」の論証はとても難しい
そもそも命題には2つ種類があります。
  • sein命題(「である」の命題)
  • sollen命題(「すべき」の命題)
seinとsollenはドイツ語で、英語に直すと"be"と"should"です。
 
そして、重要な話として「すべき」命題は、どんなに事実(「である」命題)を積み上げても、超厳密には論証できない。
 
わかりやすく言うと
「この店のカツカレーよりサラダの方が、カロリーが低い」は、論証できるけど
「ランチにはサラダを食べるべき」は、どんなに事実を積み上げても、厳密には論証できない。
 
「ランチにはサラダを食べるべき」を論証するには、
「カロリー摂取は控えるべき」「痩せるべき」とかいう、「すべき」命題をまた前提にしなきゃいけないんだけど
今度はその「痩せるべき」を論証するために・・の無限ループで絶対に論証できない。
 
「いや、俺不健康でもうまいもん食って死にたい」と言われたら終わり。
 
ロジックじゃなくて、意志の力によってしか打破されない。
価値論争、神学論争、比較不能な価値の迷路に陥るわけです。
 
というわけで、「すべき」命題は、厳密には論証不可能です。
 
実務として「すべき」を説得的に示すことは可能だけど、ベースとなる個人の判断軸は複雑
とはいえ、実務的なレベルにおいて「すべき」命題を説得的に示すことは可能です。
「すべき」の前提となる「判断軸」や「価値観」を、関係者にとって受け入れられる形で定義(≠論証)することが必要です。
 
例えば、「痩せた方がいい」が、受け手の主観において異論なければ、
「ランチにはサラダを食べるべき」は説得的に示せる。
 
ただし、個人が何かする/しないの判断軸は、会社の何かする/しないの判断軸と厳密に重なることはありません。
さらに、その判断軸は、マトリックスで判断できるような二次元じゃなくてはなく、かつイチゼロのデジタルな判断でもない。
ものすごく多層構造・多次元での総合考慮が行われています。
 
例えば、
「痩せてモテたいけど、美味しいものは食べたい。あ、あとお金はあんまりかけたくなくて、会社から遠くないところがいい。ついでに、本当はランチくらいのんびりできるところで食べたいなぁ。贅沢を言うと、昨日肉たくさん食べたから肉は避けたいな。全部程度問題だから、どれを何割重視するとかはないんだけど・・。」
みたいな。笑
 
それを、
  • こうすれば会社が儲かる(あるいは評価制度がこうなっている)。
  • 使用人は会社が儲かる方向(あるいは評価制度に)従うべき。
  • そして、それは実際に可能である。
  • だから、使用人であるお前はこうすべき。
と短絡的なロジックで説得しようとするから、うまくいかないのです。
 
 
 

短絡的なロジックへの反論の具体例

  • こうすれば会社が儲かる(あるいは評価制度がこうなっている)。
  • 使用人は会社が儲かる方向(あるいは評価制度に)従うべき。
  • そして、それは実際に可能である。
  • だから、使用人であるお前はこうすべき。
という短絡的なロジックで説得しようとした時に、具体的に現場からよくある反論を考えたいと思います。
 
「こうすれば儲かる」「実現可能」に対する反論
まず
  • こうすれば会社が儲かる
  • そして、それは実際に可能である。
に対しては、現場ならではの視点での反論があると思います。
 
例えば、「(お前は知らないかもしれないけど)実際現場はこんな感じになってるから、実行できないし、かえって損するよ」的な。
これは、解決策のロジックのMECEさに対する反論に他なりません。
ゆえに、丁寧に耳を傾けた上で、解決策のロジックに、現場の視点を内包していけばいいだけです。既に内包していれば、それを丁寧に説明すればいいだけです。
 
ただし、ここで注意すべき点があります。
それは、現場が丁寧に説明してくれるとは限らないので、しっかりと耳を傾けなくてはならないということ。
なのに、それに耳も傾けずに表層的な言葉尻だけで
「(私が考えた結論を拙い言葉で反論してくるなんて)ロジカルじゃない」と否定してしまうのは、以ての外です。
そして、こういうケースが意外と多いと思います。
 
「会社が儲かるからやるべき」に対する反論
  • 使用人は会社が儲かる方向(あるいは評価制度に)従うべき。
への現場からの反論はちょっと複雑です。
 
なぜなら
  • 個人が何かする/しないの判断軸は、会社の何かする/しないの判断軸と厳密に重なることはない。
  • だけど、表立って会社の判断基準と違う判断基準を主張しにくい
  • しかもその判断軸は、マトリックスで判断できるような二次元じゃなくて、ものすごく多層構造・多次元での判断が行われている。
という3点から、正面切ってキレイに言語化された反論になることは少ないからです。
 
その結果として、本当は単に「やりたくない」場合でも、
表面的には「うまくいくわけない」みたいな形で反論として出てくることが多いです。
 
例えば、
(俺もサラリーマンだし会社が儲かる方向に動かなくちゃいけないのはわかる。でも、正直これをやると部下のXXは反対しそうだなぁ。あいつとはいい関係を保ち続けたいんだよな。あと、子供も小さいから俺も早く帰りたいしなぁ。とはいえ、そんなの部長に言うのもアレだしなぁ。やりたくないなぁ・・。報告書のデータ、正直細かくてよく理解できてないんだよなぁ、、。てか、今回の施策ってよく考えたら2年前に失敗したアレに似てない?そうだな、うん、似てる気がする。まぁ、今回の方が緻密に練られてるのは間違えないけど)2年前にやった施策と同じです。コンサルに2千万も払って。そんなんじゃ儲からないと思います。
みたいな。
 
 
これを言葉通り受け取って、カッコ内の思考に思いを巡らせず、「根拠がない、ロジカルじゃない」と断罪してしまうというのも、私は正しくないと思います。
この辺の「深み」を理解しないと、現場は説得できないのです。
 
(もちろん、こういう面倒臭いこと言わなくても動く現場はたくさんあるわけで、そういう方々は素敵だと思うのです)
 

翻って「ロジカルな解決策が動かない」は・・

以上を踏まえ、悪意溢れる補足をしながら「ロジカルな解決策が動かない」を言い換えると
  • (会社の判断軸をベースにした)ロジックで(すべき命題が原理的に論証不可能という自覚さえないまま)
  • (今自分が言語化できている情報の範囲では、確からしいというレベルにおいて)正しい結論を出しているのに、
  • 現場が全然動かない。(私が考えられなかった切り口や、個人の判断軸については預かり知らないもん!)
ということだと思います。
 
それは、お前が見えている範囲でロジカルに見えるだけで、お前が見ている範囲は世界の表層だよ、と。
 
 

じゃ、どうすんねん

結局「ロジカルな解決策が動かない」は、
「形式的には」ロジカルに見えるかもしれないが、「中身的には」他の可能性の考慮にモレがあったり、因果関係が弱かったりすることがほとんどです。
特に、現場の意思決定の構造や、現場で起きる複雑怪奇な事象を変数として考慮しきれていないことが多い。
 
それに対して、現場の事実や価値観を可能な限り一つ一つ吸い上げて、
一つ一つを変に切り捨てず、立体的な思考をすることで、「ロジカルな解決策が動かない」は相当な確率で回避できると思います。程度問題ですが。
 
そして最後は、「できそう!やってみたい!」と、それぞれの判断軸や価値観に沿った素敵なビジョンとして提示していくと、さらにうまく回るイメージがあります。
他にも、事業会社の中にいるなら「俺はやる!お前はどうする?」と、自分が先にコミットしちゃうことで相手の意思決定に強烈な軸を作りに行くとか(あんまりやると嫌われる)、色々なやり方もありますよね。
 
いずれにせよ、こういう複雑怪奇な意思決定に対して「ロジカルじゃない」と切り捨てるのではなく、「私のロジックが至らなかった」と反省的に考える姿勢が、実務を前に進めるためには求められると思うのです。

「値上げ」とカスタマーサクセス :LTV向上の一番シンプルな方法

 
カスタマーサクセス(Customer Success)とは、主に月額課金系のビジネスで、顧客を成功に導く一連の活動や組織を指します。
IT・Web界隈(月額課金(サブスクリプション)が多い)で、ここ数年よく使われる概念です。なんとなく、ここ1-2年で、WebやIT系の人にとっては必修科目になった感があります。
 
2018年の通称青本カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則」を境に、ネット上や本でも色々な情報が出てくるようになりました。
 
が、一つ重要なのにあまり語られていない手段がある気がします。
それは「値上げ」です。
 
(LTVの公式を確認したい方はこちらの記事をご参照ください↓)

f-bun.hatenablog.com

 

 

基本的には「LTVの向上」がカスタマーサクセスの目的

 
そもそも、自社のビジネス目線で見ると、カスタマーサクセスの目的は「LTVの向上」に尽きます
(理念的にはもっと美しいものなので異論もありそうだけれど、控えめに言ってLTV向上がカスタマーサクセスの「とても重要な目的であること」を否定はできない)
 
その意味では、カスタマーサクセスの前の概念(?)である「CRM」なんかも目的は一緒。
カスタマーサクセスが画期的だったのは、以下の3点だと思います。
  • サブスクリプションSaaSが本当に増えてきたという時代背景とマッチしたこと
  • 「顧客の成功」と「自社の成功」を重ね合わせるという、「三方よし」的なコンセプト
  • ある程度体系化されて実践可能な方法論とセットで提供されたこと(しかもそれがマーケ・インサイドセールス・セールス・CSという”The MODEL"みたいな超汎用的な全体像と一緒に提供されたこと)
いずれせよ、CRMと呼ばれた時代から、その活動の最重要目的(の一つ)はLTVの向上です。
 

LTVの要素である、単価を簡単に上げる方法が値上げ

サブスクリプションにおけるLTVの計算式は
 
LTV = a.平均単価(ARPU) × b.平均継続期間
 
ですね。
 
カスタマーサクセスの教科書的方法論では、「a.平均単価」を上げるためにアップセルやクロスセルが検討されます
(実務としてはアップセルやクロスセルは難しいし、そこまで到達していなカスタマーサクセス部隊も多いと思います。)
 
でも素直に考えたら、単価アップの方法って、まず値上げが検討されても良くないですか?
アップセル・クロスセルは後な気がする。
 
ところが、カスタマーサクセスで「値上げ」という選択肢を本気で出して検討できる人は、そこまで多くない。
 

なんで値上げしないの?

 
直接的な理由は、多分シンプルです。
「顧客の成功」ってキレイな理念を大上段に掲げておいて、「値上げ」ってなんか出しにくいから。 
基本的にそれだけの話。
 
間接的な理由は、他にも考えられます。
  
まず、組織的には、
「カスタマーサクセス大切」と掲げているとはいえ、実際のところカスタマーサクセス部門が値上げを起案するほどの大きな権限持っている会社は多くない。
 
ビジネス(金儲け)的にも、
  • レピュテーションリスクが怖い
  • 将来のアップセル・クロスセル基盤を失う
という理屈から、「値上げ」は避けられるべき選択肢のように見えます。
 
 
でもでも、私は下品だと言われようと問いたい。
  • そもそも御社の「月額3万円」って、今もホントに妥当ですか?
  • 料金体系100名-500名で同じに設定しちゃってますけど、そこに属する顧客の支払い能力や製品から受けるベネフィットって一緒ですか?
  • 頑張ってフィードバックループ回して、オンボーディングやサポートも綺麗にして、付加価値は(場合によって維持費も)昔より上がってるのに、価格は同じでいいんですか?
  • そのアップセル・クロスセル製品、パッケージに入れて値上げしちゃった方が売上も上がるんじゃないですか?売れるかわからないアップセルにしちゃうより、パッケージにした方が世の中へのインパクトも大きく出せるんじゃないですか?
 
ちゃんと儲けて再投資するってのは、会社が世の中を良くしていく上で大切だと思います。
 
そのための手段として「値上げ」というのはもっと検討・研究されてもいいと思うのです。
 
例えば、
  • 具体的なプライシングの仕方
  • (ハイタッチはいいとして)ロータッチやテックタッチにどう値上げをコミュニケーションしていくか
とか、もっと研究されてもいいと思うのですが、あんまり聞いたことがない。
 
 

正面切って、清濁併せ呑んで値上げは議論されるべき

ちょっと値上げを煽る書き方をしましたが、
実は私、実経験があります。
 
サブスクリプションビジネスの「中の人」として、数倍(!)という結構強烈な値上げを経験したことがあるんです。しかもCS担当として。
 
イメージとしては、「携帯の月額5千円が2万円に」とか想像してもらえばわかりやすいと思います(もちろんガラケースマホみたいな付加価値向上はしました。が、ガラケーのプランを一切残さなかった)。
 
今よりもっと未熟な時代で、現場回すのに手一杯でした。
でも「自分のやっていることは正しいのか」と、働く価値観を本当に強く揺さぶられる経験でした。
 
その経験も踏まえ(中の人であった以上、その是非についてここで述べるのは控えたいのですが)、
一般論としては
  • 「値上げ」は絶対的な禁じ手ではないし
  • 値上げした方が、総合的には世の中に良いインパクトが出るケースもある

と思います。

 

そして同様に一般論として、
顧客はもちろん関係者に強烈な痛みを伴うことが多い打ち手が「値上げ」であるということも言えると思います。
 
さらに、実は経営者は値上げというオプションを心のどこかで考えていることも多い気がする。
 
そうである以上、
正面切って清濁併せ呑んで(結論として呑まなくてもいいけど)値上げについて建設的な議論・検討がなされるといいなぁ、と思います。
 
(プライシングの参考文献↓。そもそも4Pの一要素なのに「プライシング」って議論されなさすぎだと思う)

 

マッキンゼー プライシング (The McKinsey anthology)

マッキンゼー プライシング (The McKinsey anthology)

 

 

 

【目次】カスタマーサクセス「青本」10の原則 逐条解説的まとめ

カスタマーサクセスの教科書として知られる通称「青本」 

この本は、日本においてSaaS界隈以外にも大きく「カスタマーサクセス」という概念を広めた本だと思います。

ふと思い立ち、自分の復習も兼ねて、10の原則について逐条解説的にまとめてみました。

 

10個書くの疲れました。笑 

(内容はちょっとずつ直していきたいと思います)

 

その他おすすめ書籍もまとめてみました 

こちらもどうぞ。

おまけで、こんなのも作りました。 

トップダウンかつ全社レベルで取り組む :カスタマーサクセス10の原則⑩

カスタマーサクセスの教科書として知られる通称「青本」↓
カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 

 

その第10原則が「トップダウンかつ全社レベルで取り組む」です。
 
上記の本は、「10の原則」がチェックリスト的に使えて実務的に非常に使いやすいのですが、
以下では、本の内容を紹介・補足しつつ、その実務上の意味合いについて考えたいと思います。
 

※他の原則も書いています。このシリーズの目次はこちら↓

【目次】カスタマーサクセス「青本」10の原則 逐条解説的まとめ - B-log

 

 

4つの伝えたいこと

本章において、筆者が伝えたいことは以下の4つだと明言されています。
①(本物の)カスタマーサクセス とは何か
②なぜカスタマーサクセスは避けて通れないのか
③カスタマーサクセスはどのように価値をもたらすのか
④どこから始めるべきか
 
以下では、この4つについて、内容を紹介していきたいと思います。
 

(本物の)カスタマーサクセスとは何か

 
青本のこの章では、歴史の中で多くの企業が力を入れてきた活動の核は
  • 製品を作ること
  • 製品を売ること
の2つしかなかったとします。
そしてカスタマーサクセスは、これらに次ぐ第三の核だ、としています。
 
カスタマーサクセス とは部署名のことだと思っている人もいるかもしれない。
だが、「営業」という言葉が単なる部署名と部署をまたがる活動の両方を表しているように、「カスタマーサクセス」も全社レベルの問題だ。
カスタマーサクセス活動においては、事業場のあらゆる問題を顧客の成功に基づいて構成し直すことになる。 
 
青本の冒頭で、カスタマーサクセスには「理念」「組織」「方法論」の3つの側面があると紹介していますが、「(本物の)カスタマーサクセス」は単なる「組織」ではない、ということですね。
 
そして、このことがカスタマーサクセスを一部門の話とせず、「トップダウンかつ全社レベルで取り組む」必要がある理由です。
 
なぜカスタマーサクセスは避けて通れないのか
青本は、カスタマーサクセスは「経済構造の抜本的な変革によってもたらされる当然の帰結」だとします。
 
なぜ当然の帰結なのか、青本のロジックを、雑に要約すると
  • グローバリゼーションとテクノロジーで新規参入の壁が低くなった。
  • その結果、新規参入者たちによってサブスクリプションのような課金モデルが生み出された。
  • 顧客から見ると、顧客が選択肢と選択権を持つようになった。
  • 選択権を持った顧客は、自分を成功に導いてくれるようベンダーに期待するし、そんなベンダーが勝ち残る。
ということです。
この辺は、実生活・仕事の中で実感値を持たれる方も多いのではないかと思います。
 

カスタマーサクセスはどのように価値をもたらすのか

青本では、カスタマーサクセスで得られる成果として、以下の3つを紹介しています。
  • 成長
  • 評価
  • 差別化
 

成長

 
成功した顧客はアドボケートやリファレンスグループとなって、新たな顧客の呼び水となってくれる

チャーンの影響はそこに穴の開いたバケツ

 

注:アドボケート(Advocate)とは、自社のブランドの推奨者。リファレンスグループとは「あの会社がSalesforce導入してうまくいっているみたいだし、ウチも検討しよう」と、他の顧客に対して(ポジティブな)参考となるグループ。
 
という表現の通り、カスタマーサクセスは自社にも成長をもたらします。
そもそも顧客と自社の成功を重ねるのがカスタマーサクセスの概念の基礎ですから、ここは解説不要かと思います。
 

評価

青本では、ある投資会社の報告書の中で、
サブスクリプションを行う上場企業が倍増していることとカスタマーサうせすやリテンションとの間には直接的な相関関係がある」

ドル更新率はサブスクリプションビジネスの評価における最も重要な指標だ 

と触れられていることが紹介されています。外部からも評価が高まるということです。

(とはいえ、上場を目指すような会社においては、もはやカスタマーサクセスは常識なので、ここも特に解説不要かと思います。)
 

差別化

そして「カスタマーサクセス管理は有効な差別化要因になりうる」としています。
確かに、カスタマーサクセスを高いレベルで実施しきれている会社は2019年現在多くありませんし、そういった会社については直接の顧客の一次体験はもちろん、SNSなどでもポジティブな発信がなされ、差別化メッセージとして強力になることは推察されます。
 
 

どこから始めるべきか

そして、本章の最後は実際トップダウンで全社レベルで取り組むには「どこから始めるべきか」です。
そのヒントとして、青本は以下を掲げています。
  • 成功を定義する
  • 成功に関して足並みを揃える
  • カスタマーサクセス部門の話に耳を傾ける
  • カスタマーサクセスを優先する
  • カスタマーサクセス部門に権限を与える
  • カスタマーサクセスを計測する
  • カスタマーサクセスを報告する
  • カスタマーサクセスに褒賞を与える
  • 会社を後押しする
  • 成功を祝う
 
実際の推進は、上記の様々な要素が密接に連動しながら進むことが多いと思います。
 
 

考察 :やっぱりトップダウン。下からやるときはどこからやるべきか。

10の原則最後は「トップダウンかつ全社レベルで取り組む」です。
(ちなみに、ニック・メータ氏やGainsight社の他の資料を見ると、この原則は最初に来たり最後に来たりします。いずれにせよ、強調したいということだとは思います。)
 
トップダウン×全社というのは、いかにもアメリカっぽいのですが、実際カスタマーサクセスに関してはやはり
トップダウンかつ全社」での取り組みが必要かな、と個人的に思います。
 
経験上、カスタマーサクセスが月次の売上に効いてくるのはそれなりに時間がかかります。
当然、例えばオンボーディング率の向上とかの中間指標はうまくいけば2-3ヶ月で上がると思いますが、年間契約とかの形態をとっていると、それが顧客数・売り上げにダイレクトに効いてくるのは早くてさらに1年後です。
その間、ちゃんとカスタマーサクセスに投資し続けなくてはならない。
 
また、カスタマーサクセスは多くの部署をまたぐ活動です。
セールスやプロダクト部門、カスタマーサポートなど、多くの部門と連携しながら進めなくてはならない。
新しい部門というのはなかなか推進力を持たないというのは世の常で、そういった意味でもトップダウンという錦の御旗が必要です。
 
だとすると、「現場としてはトップダウンで進めるために何から始めるか」だと思いますが、個人的には、現状の計測が良いと思っています。
第8原則:顧客の指標を深く理解する の通り、カスタマーサクセス周辺の指標はかなり整理されています。
まずは
  • MRR(もしくはARR) (顧客あたりの月額(ARRは年額)単価)
  • ChurnRate  (解約率)
  • LTV 
  • CAC  ・・・顧客あたりの獲得コスト
  • Unit Economics ・・・1顧客あたりの経済性(LTVとCACの割り算)
あたりを出して、トップにカスタマーサクセスの必要性をしっかり説くことが、スタートになるんじゃないかと思います。そこで練られた資料があれば、各部門トップへの説明にも使えますし。
 

 

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 

 

 

ハードデータの指標でカスタマサクセスを進める :カスタマーサクセス10の原則⑨

カスタマーサクセスの教科書として知られる通称「青本」↓
カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 

 

その第9原則が「ハードデータの指標でカスタマーサクセスを進める」です。
 
上記の本は、「10の原則」がチェックリスト的に使えて実務的に非常に使いやすいのですが、
以下では、本の内容を紹介・補足しつつ、その実務上の意味合いについて考えたいと思います。
 

※他の原則も書いています。このシリーズの目次はこちら↓

【目次】カスタマーサクセス「青本」10の原則 逐条解説的まとめ - B-log

 

ヘルススコアについてはこちらもまとめました。

 

なぜ、ハードデータでカスタマーサクセスを進めるのか

 
一言でいうと、管理・改善が可能になるからです。
 
ただし、これにはいくつか前提があります。
青本では、カーネギーメロン大学ソフトウェア工学研究所によるフレームワークを引用して、プロセス・組織には
  • レベル①:初期段階
  • レベル②:反復できる段階
  • レベル③:定義された段階
  • レベル④:管理された段階
  • レベル⑤:最適化された段階
の5つの段階にがあるとします。
 
そして、レベル①の初期段階については、以下のように説明します。
 
レベル①初期段階では、業務は個人の英雄的な取り組みによって進められ、プロセスや反復性についてはほぼ考慮されない。
CSMの目標は、「顧客が成功するように、そして必ず更新するようにどんなことでもしろ!」に近いものだ。

 (悲しいかな、このレベル①の段階、大変心当たりがあります。。)

 
しかしそれでは長くは持たないのでその後、
  • レベル②:反復できる段階
  • レベル③:定義された段階
に進む。そして、③まで完了して「レベル④:管理された段階」に挑戦する段階で、本原則であるハードデータによる計測が必要になる、としています。
 

どうやって、ハードデータでカスタマーサクセスを進めるのか

この問いに関する青本の答えは非常にシンプルで、3つの視点と具体的な指標の例を示しています。
すなわち、以下の視点が提供されています。
  • 顧客とユーザーの行動
    • 指標の例)
      • NPS
      • ログイン数とログアウト数
      • 特定の製品機能/プラットフォームの利用状況
  • カスタマーサクセスマネージャーの活動
    • 指標の例)
      • 顧客とのやり取りにおける種類ごとの頻度
      • CSMが対応したサポートチケットの数
      • リスク識別の瞬時性
      • リスク低減活動の有効性
  • 事業の成果
    • 指標の例)
      • 総リテンション
      • 純リテンション
      • 収益増加率
      • 顧客リテンション率
      • NPS
 
これらのうち、顧客とユーザーの行動の指標については、注意点として「顧客側のユーザーの行動は顧客が生み出す事業価値の代用物でしかない」ことが挙げられています。
「ログインするためにソフトウェアを購入する人などいない」という、著者の一人であるニック・メータの言葉は秀逸です。
 
以上の視点と例を参考にすれば、多くの組織で指標の定義はできるかと思います。
 

考察 :段階を踏んだ上でのハードデータ・オペレーション構築は事業拡大の鉄則

本原則の注意点は、上記でも触れた通り、本原則はカスタマーサクセスのプロセスが反復・定義された後に取り組むべき課題ということです。
 
もちろん、それ以前の段階においてもできないことはありませんが、「勝ちパターン」が確立されていない中での、指標はあまり的を射ることはありません。
的を外してもすぐに見直せればいいのですが、一度数字が定義されると、不思議なもので自己目的化されがち。
なので、一定の勝ちパターンが確立して組織化されたカスタマーサクセスにおいて、この原則は適用されるべきです。
 
ハードデータの指標による計測のメリットは、著者による補足の中にある1on1のBefore-Afterが秀逸です。
 
まず、ハードデータの指標による計測の前
  • 顧客の活動は全般的にどういう状況か。
  • チャーンのリスクが高い顧客はいるか。
  • 過去60日間にわたってX社の課題に取り組んできたが、前進しているだろうか。
  • Y社でチャーンが発生した。何か別の対応は可能だっただろうか。
  • 困っていることはあるか。

 

ハードデータによる計測後、こう変わる。
  • あなたの全顧客に対するヘルススコアの平均は、部署の他のメンバーより6点低い。点数を下げている要因は、上層部との関係のようだ。まずは最も点数の低い顧客から、この状況を変える計画を立てよう。
  • 今後90日間に更新期限が来る顧客のうち、チャーンのリスクが高い対象が3件ある。対象顧客それぞれに対する実行計画を見直そう。
  • あなたのアップセル率は2番目のCSMより10パーセントも高い。驚くべき結果だ。全員が君のレベルに近づけるように、あなたのノウハウをスライド3枚程度にまとめて、次回のミーティングで共有してくれないだろうか。

 

なんか、通信教育とかセミナーの宣伝みたいですが。笑
 
経験上、事業・組織がスケールされる段階で人材の力に頼りすぎりと限界がきます。
そうではなく、ハードなオペレーションで物事を解決する姿勢はとても大切です。そして、これはカスタマーサクセスに限らず事業のあらゆる領域で同じ。
 
他方で、これを本当に徹底して更新し続けられる組織はばかりではない。
徹底度合いで割と差が出る原則なのかな、と思います。
 
<関連>

 
 

 
 

 

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 

 

経営は「実行」〔改訂新版〕

経営は「実行」〔改訂新版〕

 

 

顧客の指標を深く理解する :カスタマーサクセス10の原則⑧

カスタマーサクセスの教科書として知られる通称「青本」↓
カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 

 

その第8原則が「顧客の指標を深く理解する」です。
 
上記の本は、「10の原則」がチェックリスト的に使えて実務的に非常に使いやすいのですが、
以下では、本の内容を紹介・補足しつつ、その実務上の意味合いについて考えたいと思います。
  
なお、本記事は、Churn Rate / MRRなどの自社ビジネスの指標の話です。

ヘルススコアについて知りたい方は、こちらの記事をどうぞ。

 

なぜ、顧客の指標の理解が大切なのか

顧客の指標とは

前提として、
この章でいう「顧客の指標」とは、「顧客の利益率」のような顧客の成功そのものを測る指標ではなく
  • 解約率
  • CMRR(既決月間定期収益)
のような、自社のビジネスに関する指標です。
 

なぜ、顧客の指標の理解が大切なのか

自社の成長に直結するからです。
青本の、以下の記述がわかりやすいです。
 
サブスクリプション型の会社が成功するには、収益の成長を堅持・加速できるか否かがチャーンやリテンションの内容次第であることを深く理解しておかなくてはならない。
サブスクリプション型の会社が初期段階に直面する最大の問題は、顧客をどうやって獲得するかだ。
しかし、会社が顧客増という難題を解決とするとすぐに、誰か -たいていCEOか財務担当- が会社の顧客数の合計と既決月間定期収益(CMRR:Contracted Monthly Recurring Revenue)が減少していることに気づくのである。
サブスクリプション型の会社が長期にわたって生き残るには、チャーンとリテンションの両方を深く理解する必要がある。

 

指標の構造や意図を深く理解することが、ビジネスの成長につながる、ということです。 

 

どうやって指標を深く理解するのか

青本では、以上のような考え方の下、チャーンとリテンションを定義・理解するステップとして、以下の5ステップを掲げています。
 
  1. 計測方法とCMRRの要素を定める
  2. 計測期間と頻度を定める
  3. CMRRの予想値とチャーンの種類を決める
  4. チャーンの疑いがある状態とチャーン間近の状態とを区別する方法を決める
  5. 会社の上層部が足並みをそろえて、チャーンとリテンションの基準となる定義と報告方法を固める
 
以上について、青本では詳細な手順が説明されていますが、日本において特にあまり馴染みがないのはCMRRの概念だと思います。
 
まず、前提としてMRR(Monthly Recurring Revenue)について説明します。
MRRとは、月ごとに繰り返し得られる収益のことです。月額課金制のビジネスの基本的な指標の一つです。
 
CMRRは、MRRの頭に”Contracted”をつけた指標です。

CMRR = MRR + 獲得済み案件 - 解約予定案件

です。
要は、CMRRは「将来の」MRRだと思うとわかりやすい。
 

f:id:f-bun:20190311163922p:plain

CMRR
 
 
以上のようなCMRRの構造がわかると、「計測期間と頻度を定める」以降のステップについては、比較的理解しやすいのではないかと思います。
 
(ステップ再掲)
  1. 計測方法とCMRRの要素を定める
  2. 計測期間と頻度を定める
  3. CMRRの予想値とチャーンの種類を決める
  4. チャーンの疑いがある状態とチャーン間近の状態とを区別する方法を決める
  5. 会社の上層部が足並みをそろえて、チャーンとリテンションの基準となる定義と報告方法を固める
 
 
青本の中では、「計測期間と頻度を定める」以降のステップについてもかなり詳細に解説されています。
ただ、本章で特に重要なのは、上記CMRRの概念の理解だと思います。
 
 

考察 :サブスク・SaaSの指標たち

前提扱いなのか、青本ではそこまで深く触れられていないのですが、
SaaSの指標は、既に一般的かつ体系的に、かなり高いレベルで整理されています。
 
例えば、以下のような指標たちです。
  • Churn Rate
  • Negative Churn
  • ARR, MRR
  • CMRR
  • Unit Economics
  • CAC
これらの指標は個別ではなく、セットで関係を覚えた方が絶対にいいです。
逆に、以上の指標の関係や自分のビジネスの現在値を答えられなかったら、黄色信号だと思った方がいい。
 
これらの指標と考え方は、相当洗練された方法論で、ほとんどのビジネスでそのまま適用が可能です。
この辺は、すでに日本でも様々なところで整理・紹介されています。
 
ということで、オススメの参考情報たち↓。
これを読むだけでも、結構「わかった気」になれる気がします。
 

タイムトゥバリューの向上にとことん取り組もう :カスタマーサクセス10の原則⑦

カスタマーサクセスの教科書として知られる通称「青本」↓

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 
その第7原則が「タイムトゥバリューの向上にとことん取り組もう」です。
 
上記の本は、「10の原則」がチェックリスト的に使えて実務的に非常に使いやすいのですが、
以下では、本の内容を紹介・補足しつつ、その実務上の意味合いについて考えたいと思います。

 

※他の原則も書いています。このシリーズの目次はこちら↓

【目次】カスタマーサクセス「青本」10の原則 逐条解説的まとめ - B-log

  

なぜ、タイムトゥバリューの向上が大切なのか

 
一言で言うと、「更新やアップセルに影響するから」です。
 
このことはセールスから製品導入に至る流れを想像するとわかりやすいです。
少し長いですが、青本本文の記載を引用します。
 
 営業の業務の大部分を占めるのは、潜在顧客に対して製品やソリューションを購入すれば確実にそこから価値が得られると納得させることだ。SaaSサブスクリプションの世界では、この価値を迅速にもたらすことがリテンションや収益拡大の鍵となる。約束されていた価値が得られていない(あるいは得られる前に)、更新や契約継続を選んだり、追加購入したりする顧客はいない。
 問題をわかりやすくするために極端な例で考えてみよう。12カ月の契約期間に対して、導入と運用に11カ月かかった場合と60日で完了した場合とでは、更新率はどちらが高いだろうか。
 
 
 

タイムトゥバリューを向上させる3つの秘訣

 
青本では、タイムトゥバリューを向上させる秘訣ととして、次の3つを掲げています。
 

具体的な成功の指標を決める

青本全体として「測定なくして管理なし」的な考え方なので、最初に「成功の指標を決める」が来るのは想像できた方も多いと思います。
 
ただ、この章で秀逸だと思うのは、顧客は「大枠の推進要因は挙げられても、具体的な指標は頭にないという顧客の方がずっと多い」と指摘している点です。
 
そういったケースへの対応策として、自分たちから
  • 指標のリストを見せて
  • 指標を決め
  • その基準値も決める
ことを青本は推奨しています。
 
そして、「この指標はオンボーディング部門にも伝えておくのが望ましい」とされています。
オンボーディングのキックオフMtgで顧客にこう確認すべき、とされているトーク例が秀逸です。
 
「お買い上げの時点では、従業員のオンボーディング期間を縮めることが重要な要素と伺いました。今もお変わりないでしょうか。でしたら、まずは現在のオンボーディング期間を確認させていただきます。」
 オンボーディングを開始していいのは、このように成功指標を明確に決めた後だ。

補足:上記引用でオンボーディングは2つの意味で使われています。

  • カギカッコ内の『オンボーディング』:顧客の新入社員が独り立ちするまでの期間(おそらく、この会話が従業員教育ツールか何かを想定しているのでしょう)

  • カギカッコ外の『オンボーディング』:自社が提供するサービスを顧客に使いこなさせるまでの一連のプロセス。SaaSにおけるオンボーディング。

 
こんなこと私も言われてみたい。
 

早い段階での価値達成に向けて何度も取り組む

指標が決まったら、次はその達成に向けて進むことになります。
 
その進め方について青本は、
価値達成への最速の道は、まず最も達成しやすい基準を満たすことだ
としています。
 
そして具体的なステップとしては
  • 第1段階:トレーニングとオンボーディング
  • 第2段階:潜在顧客のエンゲージメント
  • 第3段階(継続する):パフォーマンスの計測
の3つを掲げています。
 
そして、「第1段階のトレーニングとオンボーディングに集中してから」次のステップに進むべきとしています。
 
また、早い段階で価値達成する方法は他にもあるものの、「達成可能な小課題になるまで細かくしてから繰り返し取り組む」ことが大切だとしています。
 
 

すぐ調整する

タイムトゥバリューを上げる秘訣の最後は
「調整はすぐに行う。期待値が危機にさらされていることに気づいた瞬間に、すぐ行動に移す」
です。
これに関しては、以下の記述がわかりやすいです。
 
オンボーディング後数週間から数カ月におけるCSMの最優先課題は、顧客が定めた価値に必ず到達できるよう粘り強く取り組むことだ。それ以外の、従来のカスタマーサクセス業務(新機能の導入や四半期ビジネスレビューの実施など)はどれも、この最優先課題に比べれば二の次である。
  
以上のような秘訣を紹介して、本章は以下のように締めくくられています。

顧客が購入するのは、支払った金額をはるかに上回る価値がソリューションから得られると信じているからだ。だが、サブスクリプションビジネスでは、いつかそうなると言うことだけでは安心できない。顧客自身が価値の計測方法を把握できるように、そして更新連絡のずっと前の時点で指標が上向いていると感じられるように取り組まなくてはならないのである。

 

 

考察 :オンボーディングとは何なのか

 
青本の中でもこの章は非常に分かりやすく、実務的な示唆にあふれています。
 
上記でも紹介した、冒頭の「12カ月の契約期間に対して、導入と運用に11カ月かかった場合と60日で完了した場合」の比較は、「タイムトゥバリュー」の本質をよく表していると思います。
 
また、セットで語られることの多い「オンボーディング」についても、本章と合わせて読むことで理解が深まると思います。
「オンボーディング」の定義を作るとき、どうしても
  • XX機能を利用している状態
  • オンボーディングセミナーを受講し終わったこと
のような定義になりがちです。
でも、オンボーディングの本質はそうじゃない。
「顧客が価値を感じること」こそ、本当のオンボーディングに他ならない、ということが、本章を読むことで理解できるはずです。
 
 
さらに、第3原則「顧客が求めているのは、大成功だ」の中で語られる「顧客の幻滅期」についても、本章と合わせて読むことで理解が深まると思います。
 
実は、顧客を成功に導くには、製品が優れているだけでは十分ではない、会社が契約を得られるのは、営業部門が顧客に利益を与えられる成果物を販売して、ビジョンを描き「ソリューションから大きな見返りが得られる」という期待値を設定する大仕事をやってのけたからだ。
販売後、迅速に何らかの価値をもたらさなければ、経営陣が売上に盛り上がっている間にも勢いが失われて、ガートナー社が幻滅期と呼ぶ溝に落ち込んでしまうかもしれない。
 
タイムトゥバリューを短縮するには、結構な努力が必要です。
  • 顧客は、自分の中で成功の定義を持っているとは限らない
  • そのくせ、すぐに成功を求める
  • 成功への道のりは意外と複雑で、予想外のこともたくさん起こる
そんな障害を乗り越えるヒントが、青本のこの章には溢れていると思います。
 

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