B-log

コンサル→ベンチャー。ビジネス系のネタ。

トップダウンかつ全社レベルで取り組む :カスタマーサクセス10の原則⑩

カスタマーサクセスの教科書として知られる通称「青本」↓
カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 

 

その第10原則が「トップダウンかつ全社レベルで取り組む」です。
 
上記の本は、「10の原則」がチェックリスト的に使えて実務的に非常に使いやすいのですが、
以下では、本の内容を紹介・補足しつつ、その実務上の意味合いについて考えたいと思います。
 

※他の原則も書いています。このシリーズの目次はこちら↓

【目次】カスタマーサクセス「青本」10の原則 逐条解説的まとめ - B-log

 

 

4つの伝えたいこと

本章において、筆者が伝えたいことは以下の4つだと明言されています。
①(本物の)カスタマーサクセス とは何か
②なぜカスタマーサクセスは避けて通れないのか
③カスタマーサクセスはどのように価値をもたらすのか
④どこから始めるべきか
 
以下では、この4つについて、内容を紹介していきたいと思います。
 

(本物の)カスタマーサクセスとは何か

 
青本のこの章では、歴史の中で多くの企業が力を入れてきた活動の核は
  • 製品を作ること
  • 製品を売ること
の2つしかなかったとします。
そしてカスタマーサクセスは、これらに次ぐ第三の核だ、としています。
 
カスタマーサクセス とは部署名のことだと思っている人もいるかもしれない。
だが、「営業」という言葉が単なる部署名と部署をまたがる活動の両方を表しているように、「カスタマーサクセス」も全社レベルの問題だ。
カスタマーサクセス活動においては、事業場のあらゆる問題を顧客の成功に基づいて構成し直すことになる。 
 
青本の冒頭で、カスタマーサクセスには「理念」「組織」「方法論」の3つの側面があると紹介していますが、「(本物の)カスタマーサクセス」は単なる「組織」ではない、ということですね。
 
そして、このことがカスタマーサクセスを一部門の話とせず、「トップダウンかつ全社レベルで取り組む」必要がある理由です。
 
なぜカスタマーサクセスは避けて通れないのか
青本は、カスタマーサクセスは「経済構造の抜本的な変革によってもたらされる当然の帰結」だとします。
 
なぜ当然の帰結なのか、青本のロジックを、雑に要約すると
  • グローバリゼーションとテクノロジーで新規参入の壁が低くなった。
  • その結果、新規参入者たちによってサブスクリプションのような課金モデルが生み出された。
  • 顧客から見ると、顧客が選択肢と選択権を持つようになった。
  • 選択権を持った顧客は、自分を成功に導いてくれるようベンダーに期待するし、そんなベンダーが勝ち残る。
ということです。
この辺は、実生活・仕事の中で実感値を持たれる方も多いのではないかと思います。
 

カスタマーサクセスはどのように価値をもたらすのか

青本では、カスタマーサクセスで得られる成果として、以下の3つを紹介しています。
  • 成長
  • 評価
  • 差別化
 

成長

 
成功した顧客はアドボケートやリファレンスグループとなって、新たな顧客の呼び水となってくれる

チャーンの影響はそこに穴の開いたバケツ

 

注:アドボケート(Advocate)とは、自社のブランドの推奨者。リファレンスグループとは「あの会社がSalesforce導入してうまくいっているみたいだし、ウチも検討しよう」と、他の顧客に対して(ポジティブな)参考となるグループ。
 
という表現の通り、カスタマーサクセスは自社にも成長をもたらします。
そもそも顧客と自社の成功を重ねるのがカスタマーサクセスの概念の基礎ですから、ここは解説不要かと思います。
 

評価

青本では、ある投資会社の報告書の中で、
サブスクリプションを行う上場企業が倍増していることとカスタマーサうせすやリテンションとの間には直接的な相関関係がある」

ドル更新率はサブスクリプションビジネスの評価における最も重要な指標だ 

と触れられていることが紹介されています。外部からも評価が高まるということです。

(とはいえ、上場を目指すような会社においては、もはやカスタマーサクセスは常識なので、ここも特に解説不要かと思います。)
 

差別化

そして「カスタマーサクセス管理は有効な差別化要因になりうる」としています。
確かに、カスタマーサクセスを高いレベルで実施しきれている会社は2019年現在多くありませんし、そういった会社については直接の顧客の一次体験はもちろん、SNSなどでもポジティブな発信がなされ、差別化メッセージとして強力になることは推察されます。
 
 

どこから始めるべきか

そして、本章の最後は実際トップダウンで全社レベルで取り組むには「どこから始めるべきか」です。
そのヒントとして、青本は以下を掲げています。
  • 成功を定義する
  • 成功に関して足並みを揃える
  • カスタマーサクセス部門の話に耳を傾ける
  • カスタマーサクセスを優先する
  • カスタマーサクセス部門に権限を与える
  • カスタマーサクセスを計測する
  • カスタマーサクセスを報告する
  • カスタマーサクセスに褒賞を与える
  • 会社を後押しする
  • 成功を祝う
 
実際の推進は、上記の様々な要素が密接に連動しながら進むことが多いと思います。
 
 

考察 :やっぱりトップダウン。下からやるときはどこからやるべきか。

10の原則最後は「トップダウンかつ全社レベルで取り組む」です。
(ちなみに、ニック・メータ氏やGainsight社の他の資料を見ると、この原則は最初に来たり最後に来たりします。いずれにせよ、強調したいということだとは思います。)
 
トップダウン×全社というのは、いかにもアメリカっぽいのですが、実際カスタマーサクセスに関してはやはり
トップダウンかつ全社」での取り組みが必要かな、と個人的に思います。
 
経験上、カスタマーサクセスが月次の売上に効いてくるのはそれなりに時間がかかります。
当然、例えばオンボーディング率の向上とかの中間指標はうまくいけば2-3ヶ月で上がると思いますが、年間契約とかの形態をとっていると、それが顧客数・売り上げにダイレクトに効いてくるのは早くてさらに1年後です。
その間、ちゃんとカスタマーサクセスに投資し続けなくてはならない。
 
また、カスタマーサクセスは多くの部署をまたぐ活動です。
セールスやプロダクト部門、カスタマーサポートなど、多くの部門と連携しながら進めなくてはならない。
新しい部門というのはなかなか推進力を持たないというのは世の常で、そういった意味でもトップダウンという錦の御旗が必要です。
 
だとすると、「現場としてはトップダウンで進めるために何から始めるか」だと思いますが、個人的には、現状の計測が良いと思っています。
第8原則:顧客の指標を深く理解する の通り、カスタマーサクセス周辺の指標はかなり整理されています。
まずは
  • MRR(もしくはARR) (顧客あたりの月額(ARRは年額)単価)
  • ChurnRate  (解約率)
  • LTV 
  • CAC  ・・・顧客あたりの獲得コスト
  • Unit Economics ・・・1顧客あたりの経済性(LTVとCACの割り算)
あたりを出して、トップにカスタマーサクセスの必要性をしっかり説くことが、スタートになるんじゃないかと思います。そこで練られた資料があれば、各部門トップへの説明にも使えますし。
 

 

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則