LTVの公式と「LTVが高すぎる」問題への対応
LTVが高すぎる問題
で、LTVには公式があり、
LTV = ARPPU(平均単価) / r(解約率)
という式が一般的に受け入れられ、広く使われています。
が、この数式を使うとLTVが直感的に高く出すぎることがあると思います。
例えば月額3万円のサービスでLTV400万円とか、ホントかしら?みたいな。
その事象がなぜ起きるのか、どう対処すべきかについてまとめました。
超要約すると、
「『LTV = ARPPU / r』って、100年続けるユーザーも含んで計算しちゃってるけどいいんだっけ?」
という話です。
そもそもLTVの公式が 平均単価 / 解約率 である理由
話の前提として、LTV = ARPU / r という式がなぜ成立するのかを解説したいと思います。
(数学苦手な人はサクッと読み飛ばしてもらってOKです)
LTV=ARPPU / r という式は、
今のユーザー数をU
解約率をr
とした時に、N年後の顧客数を
初項:U
公比:1-r
の等比数列とみて、
「それが(最後の一人が辞めるまで)無限に繰り返された場合」を想定して作られています。
これ、数式でも説明できるのですが、
数式苦手な方にもわかりやすいイメージとして、
実際スプレッドシートでの計算を使って説明してみたいと思います。
事例でイメージする
というわけで、わかりやすいイメージとして、
- 顧客数1,000
- 年額1万円
- 年間解約率10%
のサービスを考えます。
*なお、LTVは正確には利益ベースの数字だと思うのですが、ややこしくなるので「売上」ベースで(いわば顧客の生涯売上)話をしていきます。
今年の累計売上
初年度は、顧客数1,000人、年間売上は1千万円(=1万円×1,000人)。超簡単。
表にするとこんな感じ↓
1年後の累計売上
年間解約10%を想定してますので、
1年後は、当初1,000人いたのが10%辞める→90%残るので、会員数が900人になります。
なので単年の売上は、9百万円(=1万円×900人)。
表にするとこんな感じ↓
初年度からの累計売上は、19百万円(=10百万円+9百万円)。
10年後の累計売上
これを10年後まで繰り返していくとこんな感じ
*四捨五入していないので、売上に端数が出てます(理論上の期待売上なので、これで正しい)遠い遠い未来の累計売上
そしてこれをずーーっと繰り返していくと、こんな感じになります。
上の表の60年後あたりをみると
会員が0になるまで繰り返せば、c.累計売上が100百万円に近づいていくのが、なんとなく理解いただけると思います。
そして、期待累計売上を最初のユーザー数(1,000)で割れば、1ユーザーあたりの平均期待売上が出ますので、LTVは100百万円/1,000=10万円となり、
10万円(=1万円÷10%)に近づいていくのが、なんとなく理解いただけると思います。
なぜ、LTVが高くなりすぎるのか
でも、一度立ち止まって考えたいのが、この表で顧客数が「0」になるまでの期間です。
さっきの事例で考えてみます。
30年後でも、42顧客残っている計算でLTV出してますね。
50年後でも、5顧客残っている。
この人たちからの収益も含めて平均として「LTV」を出しているわけです。
でもでも、ここでさらにもう一度立ち止まって考えていただきたいのです。
- (toCサービス)50年後生きてる人っています?
- (toBサービス)50年後も生き残ってる顧客企業ってどれだけあります?
- 「50年間以上ずっと同じ解約率が続く」っていう前提を置いてますけど、御社のサービスはその自信あります?競争環境って変わるんじゃないですか?てか、10年後でさえ正直怪しくないですか?
- SaaSの代表例として、10年後もSalesforceの解約率って同じだと思います?
というわけで、LTV = ARPU / r という公式は
- 一部顧客の継続期間が、顧客の物理寿命を超えちゃうという嘘
-
「未来永劫同じ解約率が続く」という仮定の強引さ
の2点において、実務で使うには強引すぎると思うのです。
LTV=ARPPU / r に代わる方法
じゃあ、どうすんねん?という話なのですが、実務的には2つあると思っています。
解決策1:Payback Periodや係数を使う
そもそも、LTVを使うケースの多くはCAC(契約獲得単価)の許容ラインを出す時だと思います。
そういったケースでは、
CACはLTVの1/3以下
とか
Payback Period (=average CAC / avarage MRR(*Gross Margin%))
みたいな水準感を使って判断をしていけば、LTVを直接的に論じる必要が無くなります。
*MRR :Monthly Recurring Revenue
解決策2:計算範囲を絞る
とはいえ、経営者とかに「うちってLTVどれくらいなの?」って聞かれることあると思います。自分も知りたいし。
先に結論を示すと、そういう時は、こう答えるのがいいと思います。
- 一般的な式に当てはめると、XXX万円くらいです。ただし、それだと50年とか続けるユーザーも含んでいます。
- なので、例えば妥当なラインで今の解約率が10年続くと仮定すると、XXX万円くらいの収益が向こう10年間でミニマム期待できます。
- ちなみに、5年(もしくは20年)換算なら、こんな感じになります。
つまり、「10年間は、解約率とか変わらないと見ていいよね。」と、経過年数の範囲を指定してあげるのです。
ずっと使ってきた表を使って説明するとこんな感じ↓
上記の表で、
5年後までのユーザーあたり期待売上なら46,856円(46,855,900円/1,000ユーザー)
10年後までのユーザーあたり期待売上なら68,819円(68,8181,940円/1,000ユーザー)
という感じです。
(実際はもっと続く人がいるので、上記はミニマム)
数学的にいうと「等比数列の項数を現実的な範囲で定義してあげれば良い」ということになります。
さらにいうと、上記の表で経過年数ごとの解約率を変えて計算することもできますね。
例えば、
- 1年目は20%辞める
- 2-5年目は10%辞める
- 6年目以降のユーザーは5%しか辞めない
みたいな。
まとめ
以上、
「『LTV = ARPPU / r』って、100年続けるユーザーも含んで計算しちゃってるけどいいんだっけ?」
という話でした。(わかりやすさのため正確には利益ベースで語るべきところ売上ベースにしているのはご容赦ください)
最後に少し補足すると、
何度も登場させた表を見ていただければ分かる通り、LTVの伸びは、時間の経過とともにだんだん緩やかになっていくので、100年続けるユーザーを観念しても全体への影響は軽微という見方は十分成立します。
でも、単価とChurn Rate次第では大きな影響が出るし、100年までいかなくとも10年後の競争環境って想像つかないと思うんですよね。
それにも関わらず、無自覚的にLTV = ARPPU / r という公式をドヤって使うのはよろしくないんじゃないかと思うのです。