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ハードデータの指標でカスタマサクセスを進める :カスタマーサクセス10の原則⑨

カスタマーサクセスの教科書として知られる通称「青本」↓
カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 

 

その第9原則が「ハードデータの指標でカスタマーサクセスを進める」です。
 
上記の本は、「10の原則」がチェックリスト的に使えて実務的に非常に使いやすいのですが、
以下では、本の内容を紹介・補足しつつ、その実務上の意味合いについて考えたいと思います。
 

※他の原則も書いています。このシリーズの目次はこちら↓

【目次】カスタマーサクセス「青本」10の原則 逐条解説的まとめ - B-log

 

ヘルススコアについてはこちらもまとめました。

 

なぜ、ハードデータでカスタマーサクセスを進めるのか

 
一言でいうと、管理・改善が可能になるからです。
 
ただし、これにはいくつか前提があります。
青本では、カーネギーメロン大学ソフトウェア工学研究所によるフレームワークを引用して、プロセス・組織には
  • レベル①:初期段階
  • レベル②:反復できる段階
  • レベル③:定義された段階
  • レベル④:管理された段階
  • レベル⑤:最適化された段階
の5つの段階にがあるとします。
 
そして、レベル①の初期段階については、以下のように説明します。
 
レベル①初期段階では、業務は個人の英雄的な取り組みによって進められ、プロセスや反復性についてはほぼ考慮されない。
CSMの目標は、「顧客が成功するように、そして必ず更新するようにどんなことでもしろ!」に近いものだ。

 (悲しいかな、このレベル①の段階、大変心当たりがあります。。)

 
しかしそれでは長くは持たないのでその後、
  • レベル②:反復できる段階
  • レベル③:定義された段階
に進む。そして、③まで完了して「レベル④:管理された段階」に挑戦する段階で、本原則であるハードデータによる計測が必要になる、としています。
 

どうやって、ハードデータでカスタマーサクセスを進めるのか

この問いに関する青本の答えは非常にシンプルで、3つの視点と具体的な指標の例を示しています。
すなわち、以下の視点が提供されています。
  • 顧客とユーザーの行動
    • 指標の例)
      • NPS
      • ログイン数とログアウト数
      • 特定の製品機能/プラットフォームの利用状況
  • カスタマーサクセスマネージャーの活動
    • 指標の例)
      • 顧客とのやり取りにおける種類ごとの頻度
      • CSMが対応したサポートチケットの数
      • リスク識別の瞬時性
      • リスク低減活動の有効性
  • 事業の成果
    • 指標の例)
      • 総リテンション
      • 純リテンション
      • 収益増加率
      • 顧客リテンション率
      • NPS
 
これらのうち、顧客とユーザーの行動の指標については、注意点として「顧客側のユーザーの行動は顧客が生み出す事業価値の代用物でしかない」ことが挙げられています。
「ログインするためにソフトウェアを購入する人などいない」という、著者の一人であるニック・メータの言葉は秀逸です。
 
以上の視点と例を参考にすれば、多くの組織で指標の定義はできるかと思います。
 

考察 :段階を踏んだ上でのハードデータ・オペレーション構築は事業拡大の鉄則

本原則の注意点は、上記でも触れた通り、本原則はカスタマーサクセスのプロセスが反復・定義された後に取り組むべき課題ということです。
 
もちろん、それ以前の段階においてもできないことはありませんが、「勝ちパターン」が確立されていない中での、指標はあまり的を射ることはありません。
的を外してもすぐに見直せればいいのですが、一度数字が定義されると、不思議なもので自己目的化されがち。
なので、一定の勝ちパターンが確立して組織化されたカスタマーサクセスにおいて、この原則は適用されるべきです。
 
ハードデータの指標による計測のメリットは、著者による補足の中にある1on1のBefore-Afterが秀逸です。
 
まず、ハードデータの指標による計測の前
  • 顧客の活動は全般的にどういう状況か。
  • チャーンのリスクが高い顧客はいるか。
  • 過去60日間にわたってX社の課題に取り組んできたが、前進しているだろうか。
  • Y社でチャーンが発生した。何か別の対応は可能だっただろうか。
  • 困っていることはあるか。

 

ハードデータによる計測後、こう変わる。
  • あなたの全顧客に対するヘルススコアの平均は、部署の他のメンバーより6点低い。点数を下げている要因は、上層部との関係のようだ。まずは最も点数の低い顧客から、この状況を変える計画を立てよう。
  • 今後90日間に更新期限が来る顧客のうち、チャーンのリスクが高い対象が3件ある。対象顧客それぞれに対する実行計画を見直そう。
  • あなたのアップセル率は2番目のCSMより10パーセントも高い。驚くべき結果だ。全員が君のレベルに近づけるように、あなたのノウハウをスライド3枚程度にまとめて、次回のミーティングで共有してくれないだろうか。

 

なんか、通信教育とかセミナーの宣伝みたいですが。笑
 
経験上、事業・組織がスケールされる段階で人材の力に頼りすぎりと限界がきます。
そうではなく、ハードなオペレーションで物事を解決する姿勢はとても大切です。そして、これはカスタマーサクセスに限らず事業のあらゆる領域で同じ。
 
他方で、これを本当に徹底して更新し続けられる組織はばかりではない。
徹底度合いで割と差が出る原則なのかな、と思います。
 
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経営は「実行」〔改訂新版〕

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