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「値上げ」とカスタマーサクセス :LTV向上の一番シンプルな方法

 
カスタマーサクセス(Customer Success)とは、主に月額課金系のビジネスで、顧客を成功に導く一連の活動や組織を指します。
IT・Web界隈(月額課金(サブスクリプション)が多い)で、ここ数年よく使われる概念です。なんとなく、ここ1-2年で、WebやIT系の人にとっては必修科目になった感があります。
 
2018年の通称青本カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則」を境に、ネット上や本でも色々な情報が出てくるようになりました。
 
が、一つ重要なのにあまり語られていない手段がある気がします。
それは「値上げ」です。
 
(LTVの公式を確認したい方はこちらの記事をご参照ください↓)

f-bun.hatenablog.com

 

 

基本的には「LTVの向上」がカスタマーサクセスの目的

 
そもそも、自社のビジネス目線で見ると、カスタマーサクセスの目的は「LTVの向上」に尽きます
(理念的にはもっと美しいものなので異論もありそうだけれど、控えめに言ってLTV向上がカスタマーサクセスの「とても重要な目的であること」を否定はできない)
 
その意味では、カスタマーサクセスの前の概念(?)である「CRM」なんかも目的は一緒。
カスタマーサクセスが画期的だったのは、以下の3点だと思います。
  • サブスクリプションSaaSが本当に増えてきたという時代背景とマッチしたこと
  • 「顧客の成功」と「自社の成功」を重ね合わせるという、「三方よし」的なコンセプト
  • ある程度体系化されて実践可能な方法論とセットで提供されたこと(しかもそれがマーケ・インサイドセールス・セールス・CSという”The MODEL"みたいな超汎用的な全体像と一緒に提供されたこと)
いずれせよ、CRMと呼ばれた時代から、その活動の最重要目的(の一つ)はLTVの向上です。
 

LTVの要素である、単価を簡単に上げる方法が値上げ

サブスクリプションにおけるLTVの計算式は
 
LTV = a.平均単価(ARPU) × b.平均継続期間
 
ですね。
 
カスタマーサクセスの教科書的方法論では、「a.平均単価」を上げるためにアップセルやクロスセルが検討されます
(実務としてはアップセルやクロスセルは難しいし、そこまで到達していなカスタマーサクセス部隊も多いと思います。)
 
でも素直に考えたら、単価アップの方法って、まず値上げが検討されても良くないですか?
アップセル・クロスセルは後な気がする。
 
ところが、カスタマーサクセスで「値上げ」という選択肢を本気で出して検討できる人は、そこまで多くない。
 

なんで値上げしないの?

 
直接的な理由は、多分シンプルです。
「顧客の成功」ってキレイな理念を大上段に掲げておいて、「値上げ」ってなんか出しにくいから。 
基本的にそれだけの話。
 
間接的な理由は、他にも考えられます。
  
まず、組織的には、
「カスタマーサクセス大切」と掲げているとはいえ、実際のところカスタマーサクセス部門が値上げを起案するほどの大きな権限持っている会社は多くない。
 
ビジネス(金儲け)的にも、
  • レピュテーションリスクが怖い
  • 将来のアップセル・クロスセル基盤を失う
という理屈から、「値上げ」は避けられるべき選択肢のように見えます。
 
 
でもでも、私は下品だと言われようと問いたい。
  • そもそも御社の「月額3万円」って、今もホントに妥当ですか?
  • 料金体系100名-500名で同じに設定しちゃってますけど、そこに属する顧客の支払い能力や製品から受けるベネフィットって一緒ですか?
  • 頑張ってフィードバックループ回して、オンボーディングやサポートも綺麗にして、付加価値は(場合によって維持費も)昔より上がってるのに、価格は同じでいいんですか?
  • そのアップセル・クロスセル製品、パッケージに入れて値上げしちゃった方が売上も上がるんじゃないですか?売れるかわからないアップセルにしちゃうより、パッケージにした方が世の中へのインパクトも大きく出せるんじゃないですか?
 
ちゃんと儲けて再投資するってのは、会社が世の中を良くしていく上で大切だと思います。
 
そのための手段として「値上げ」というのはもっと検討・研究されてもいいと思うのです。
 
例えば、
  • 具体的なプライシングの仕方
  • (ハイタッチはいいとして)ロータッチやテックタッチにどう値上げをコミュニケーションしていくか
とか、もっと研究されてもいいと思うのですが、あんまり聞いたことがない。
 
 

正面切って、清濁併せ呑んで値上げは議論されるべき

ちょっと値上げを煽る書き方をしましたが、
実は私、実経験があります。
 
サブスクリプションビジネスの「中の人」として、数倍(!)という結構強烈な値上げを経験したことがあるんです。しかもCS担当として。
 
イメージとしては、「携帯の月額5千円が2万円に」とか想像してもらえばわかりやすいと思います(もちろんガラケースマホみたいな付加価値向上はしました。が、ガラケーのプランを一切残さなかった)。
 
今よりもっと未熟な時代で、現場回すのに手一杯でした。
でも「自分のやっていることは正しいのか」と、働く価値観を本当に強く揺さぶられる経験でした。
 
その経験も踏まえ(中の人であった以上、その是非についてここで述べるのは控えたいのですが)、
一般論としては
  • 「値上げ」は絶対的な禁じ手ではないし
  • 値上げした方が、総合的には世の中に良いインパクトが出るケースもある

と思います。

 

そして同様に一般論として、
顧客はもちろん関係者に強烈な痛みを伴うことが多い打ち手が「値上げ」であるということも言えると思います。
 
さらに、実は経営者は値上げというオプションを心のどこかで考えていることも多い気がする。
 
そうである以上、
正面切って清濁併せ呑んで(結論として呑まなくてもいいけど)値上げについて建設的な議論・検討がなされるといいなぁ、と思います。
 
(プライシングの参考文献↓。そもそも4Pの一要素なのに「プライシング」って議論されなさすぎだと思う)

 

マッキンゼー プライシング (The McKinsey anthology)

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