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本当に拡張可能な差別化要因は製品だけだ :カスタマーサクセス10の原則⑥

カスタマーサクセスの教科書として知られる通称「青本」↓
カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 

 

その第6原則が「本当に拡張可能な差別化要因は製品だけだ」です。
 
上記の本は、「10の原則」がチェックリスト的に使えて実務的に非常に使いやすいのですが、
以下では、本の内容を紹介・補足しつつ、その実務上の意味合いについて考えたいと思います。
 

※他の原則も書いています。このシリーズの目次はこちら↓

【目次】カスタマーサクセス「青本」10の原則 逐条解説的まとめ - B-log

 

 

なぜ、この原則が大切なのか。

端的にいうと
  • SaaSで製品は、一度作れば何百回でも提供できて
  • 顧客の成功を実現するのは、最後は製品そのものだから
の2点です。
 
正直、青本の中でもこの章は特に分かりにくいです。
が、例えば、著者による補足説明の下記から上述の2点が読み取れます。
 
会社全体の中で本当の意味で拡張可能なのは、製品だけだ。確かに、会社のどの部分も効率を高めればある程度の規模の拡張に耐え得るのだが、あなたが作る製品はどれも、いったん作ったら何百万人のユーザーに何百回も使われる可能性を秘めている。「一度作ってたくさん届ける」は、うまくいけば利益を生み出す秘訣なのだ。
最優先すべきなのは製品部門である。その一番の理由は、享受したい大成功へと続く唯一の道が製品であるという点だ。

 

 

どうやって差別化された製品にするのか

では、どうやって差別化した製品を作っていくのか。
本に書いてあることを大雑把に引用すると
 
 
この一言に尽きます。
 
その手段として、様々な方法を青本は紹介しているのですが、特にキーとなるシステムとしてPAC、COPを掲げています。
 

●PACとは

PACとは、製品諮問機関(Product Advisory Council)です。
PACの主要な活動として、以下のようなものが例示されています。
 
PACの内容は少しわかりづらいのですが、青本のビジョン・ベネフィットがわかりやすいです
 
ビジョン:製品諮問機関(PAC)とは、構造的相互的なプラットフォームだ。ここで顧客がフィードバックすると、今後の製品の方向性に影響を与えるという形でかいやの製品管理部門に協力することになる。
 
ベネフィット:PACは顧客基盤全体の代表として活動している。活動を通して、常に製品は顧客の長期的・短期的いずれのニーズにも適合し続けるため、更新率が上がるだけでなく、製品やサービスへの投資額も増えるし、他者にも推薦してもらいやすくなる。

 

PACは製品部門が管轄するものの、PACに参加する顧客にも役割と責任を明記すべきとします。
例えば、「会合への参加」や、「プロジェクトに適した設計の発見や試用への参加」などが、顧客に対する役割・責任として求められます。
 

COPとは

COPとは、実践コミュニティ(Community of Practice)です。
 
青本では、PACは製品部門が主となるのに対して、COPは「製品に関する事業プロセス、ビジネス手法、課題をテーマとした意見交換の場」であり、「様々な事業分野の相手とつながる協働フォーラム」だとしています。
 
以上のような形で顧客参加型プログラムを回し、顧客のフィードバックを全社に浸透させていくことで
「本当に拡張可能な差別化要因」である製品を洗練されたものにしていくべき、としています。
 
 

考察

本の内容に沿ったまとめは以上で、以下は考察です。
 
正直、青本の中でもこの章は一番わかりにくいと思っています。
 
内容をシンプルに示すと
  • 本当に顧客に成功をもたらすのは製品
  • 良い製品を生み出すには顧客の声が欠かせない
  • なので、顧客参加型プログラムとかを駆使しつつ、カスタマーサクセス部門と製品部門はフィードバックループを形成しなくてはならない
ということかな、と。
 
逆に、よくあるアンチパターンは「コミュニケーションしかしないCS部門」だと思います。
例えば、「お客様窓口」的な組織を、カスタマーサポート→CRM→カスタマーサクセスと、名前変えてきただけのような組織。
「結局コミュニケーション部隊でしょ」となりがち。
 
そんな部門だと、例えば、以下のような状態になりがちです。
  • VOC管理さえされてない
  • VOCはただのロングリストで、製品部門に的確に届ける仕組みがない。「正しい顧客」からのものがどれかもわからない。
  • VOCを製品部門に届けても、それがどういう優先順位で決まるのかのルールやリリース管理の仕組みがない
  • 顧客参加型のプログラムやエンゲージメントマネジメントなんて存在しない
  • カスタマーエクスペリエンス・・製品とは関係ないでしょ?
 
ここまで行かなくても、本当の意味で顧客接点部門と製品部門が、がっちり噛み合っている組織は多くないと思います。
 
例えば、カスタマーサポートやCRMを背景として作られたカスタマーサクセス部門は、特にそうなりがちです。
新しい組織でも、製品をローンチして一定の規模が出てビジネスが複雑になってくると、カスタマーサクセスと製品が離れがち。
 
そんな状況下で、この原則を貫く部門には、高い調整力とコミットメント、実行力が求められます。
しかし、そもそもの顧客接点部門はそれをミッションとして定義さえしていないことも多い。
 
だからこそ、一見当たり前に見える「製品は大切。それを磨くのは顧客。」をもう一度強調するために、この原則が必要があるのだ、と個人的には思っています。
 

※他の原則についてはこちら↓

 

 

 

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 
バリュー・プロポジション・デザイン 顧客が欲しがる製品やサービスを創る

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サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル

サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル

 

 

 
 
 
 

ロイヤルティ構築に、もう個人間の関係はいらない :カスタマーサクセス10の原則⑤

カスタマーサクセスの教科書として知られる通称「青本」↓
カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 

 

その第5原則が「ロイヤルティ構築に、もう個人間の関係はいらない」です。
 
上記の本は、「10の原則」がチェックリスト的に使えて実務的に非常に使いやすいのですが、
以下では、本の内容を紹介・補足しつつ、その実務上の意味合いについて考えたいと思います。
 

※他の原則も書いています。このシリーズの目次はこちら↓

【目次】カスタマーサクセス「青本」10の原則 逐条解説的まとめ - B-log

 

 
 

なぜ、ロイヤルティ構築に個人間の関係はいらないのか

カスタマーサクセスとロイヤルティの関係

 
話の前提として、カスタマーサクセスと「ロイヤルティ」の関係を整理したいと思います。
本書の第1章で、ロイヤルティは以下のように説明されています。
 
カスタマーサクセス とは、つまるところロイヤルティだ 
一般的には、2種類のロイヤルティがあるというのが定説だ。心理ロイヤルティと行動ロイヤルティである。
実は、カスタマーサクセスとは、心理ロイヤルティを生み出すための手段なのである。 

 

なぜ、ロイヤルティ構築に個人間の関係はいらないのか

青本のこの章は、タイトルづけが不親切だと思っています。
 
実際言っているのは
「ロイヤルティ構築に、もう個人間の関係はいらない」
というより
「ロイヤルティ構築を個人の関係でやるのは無理。代わりに体系化されたプログラムが必要」
だと思います。
 
エグゼクティブサマリーにも、以下のような記述があります。
 

現在は、ベンダーにとって顧客とやりとりできる体系的プログラムの構築は欠かせない。多くの会社では、顧客基盤の中で最大の割合を占める顧客に対して同サービスを提供するかが切迫した問題となっている。関係構築の手段として人手がかかるものではなく、テクノロジー寄りの方法を採ることが求められているのだ。「顧客の最も大きな層」とは、ここの年間支払額という点での価値は高くなくても、全体の成長に対しては大きな役割を果たしている層のことである。

 

体系化されたプログラムで達成できるから(そして個人間の関係ではやりきれないくらい顧客が広がるから)特にSaaSのようなビジネスでは個人間の関係は必須ではない、ということです。
 

この原則は、ハイタッチに適用されない

もう一つ重要なのは、この原則はハイタッチには適用されないということです。
著者による補足にも、以下のような記載があります。
 
実は、原則⑤はハイタッチ層の顧客にはまず適用されない。定義からして、個人的な関係を構築するのがハイタッチ客だからだ。

 

 

プログラムを強化する方法

そして、体系的なプログラムを強化するために、以下のような手順を紹介しています。
 
  • 自社の事業に合った指標で顧客をセグメント化する
  • セグメント毎に顧客カバレッジモデルを決める
  • 対象モデル毎に顧客とのやりとりの指針を作る
  • 顧客とやりとりする頻度を決める
  • 強固なロイヤルコミュニティを構築して顧客同士を結び付ける
 
いくつか用語の補足します。
  • 「セグメント化」は、多くの場合ARR(つまり収益性)で分類されます。要は大口・中堅・小規模と顧客を分けることです。ここまでは多くの日本企業でもやっている。
  • カバレッジモデル」は、要はハイタッチ/ロータッチ/テックタッチのどのモデルを採用するか、という話です。
 
 
 

考察 :体系的なCXプログラムを提供しよう

個人的には、この原則のタイトルはポジティブに「体系的なCXプログラムを提供しよう」とかが良いと思ってます。
SaaSにおいては、個人間の関係じゃなくて体系的なプログラムで成功に導くことが大切」というのが、この原則の言いたいところだからです。
 
そして「体系的なプログラム」、実際作ってみると結構難しいです。
 
手順は、本に書いてある通りなのですが、その中身がイケてないものになりがち。
例えばオンボーディングプログラム一つにしても、顧客毎の色々な変数を考慮しながら、「いい感じの最大公約数」をとって、ベースを構築しなくてはならない。
「全員セミナーを受けさせる」「四半期毎に訪問する」とかいう意思決定は簡単なのですが、中身がスカスカだと、CXの毀損にしかなりません。
この辺のグランドデザインこそが、旧来のセールスや受け身のカスタマーサポートではなくカスタマーサクセスという仕事の役割であり、腕の見せ所のなのかな、と思います。

 

 

※他の原則についてはこちら↓

 

 

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 

  

サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル

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サブスクリプション・マーケティング――モノが売れない時代の顧客との関わり方

サブスクリプション・マーケティング――モノが売れない時代の顧客との関わり方

 

 

 

「マーケティング」の2つの意味 :フレームワークの前に押さえたい基礎知識

要約

マーケティング」という用語は世の中にあふれていますが、結構わかりにくいです。
この理由の1つが、大きく2つの意味で『マーケティング』が使われているのに、それをちゃんと教えてくれる少ないからだと思っています。
 
先に結論を述べるとマーケティングには
1.大コトラー主義的「マーケティング」の定義
市場と向き合う活動「全部」的な意味合い。
 
2.狭義の「マーケティング」の定義
市場からセールスの対象となる「見込み顧客を見つけてくる」「集客」という意味合い。
 
という2つの意味合いがあります。
つまり、雑に要約するとこんな感じ↓

f:id:f-bun:20190305171051p:plain

2つの「マーケティング
結構雑な要約ではありますが、
マーケティング」の仕事を初めてやるとき、この違いをわかっていないと、ヤケドします。
一定の経験・知識があれば超常識なのですが、意外とこの違いを正面から説明してくれる人って少ない気がしています。
 

市場と向き合う活動「全部」 :コトラーマーケティングの意味

 
マーケティングとは、個人や集団が、製品および価値の創造と交換を通じて、そのニーズやウォンツを満たす社会的・管理的プロセスである。

 

コトラーが定義したマーケティングは上記です。
これは、市場と向き合う企業のプロセス全般を指します。
 
マーケティングの究極の目標は、セリング(販売)を不要にすることだ
というドラッカーの定義も、これに近いですね。
アメリカのマーケティング協会とかの定義もこっち寄り。
 
PESTとか、5 Forcesとか3C、4Pなんてフレームワークはこの意味の「マーケティング」をマネジメントするためのフレームワークです。

なんか抽象的で分かりづらいですね。
でも大丈夫。
一言で言うと、「なんか『市場と向き合う企業活動全部』みたいなこと言ってんだな」で十分です。
 

「見込み顧客を見つけてくる」 :狭義のマーケティング

もう一つの意味の「マーケティング」は、もっと狭い意味です。
 
こんな感じの絵、見たことありませんか?
こういうプロセスの一工程として位置づけられる「マーケティング」もあります。
 
この役割は、一言でいうと「見込み顧客を作ること」。
もっと極端にいうと「集客」とか「セールスのアタックリストを作ること」です。セールスの前工程ですから。
 
こっちは、とってもわかりやすい。
 
MA(Marketing Autmation)とか、Webマーケの「マーケティング」は、大雑把に言って、この意味での「マーケティング」の役割であることが多いです。
 

2つの「マーケティングの違い」

つまり、2つのマーケティングの意味合いを雑に図で表すとこういうことです。
 

f:id:f-bun:20190305171051p:plain

2つの「マーケティング

だいぶシンプルになりました。
 
 

なぜ、わかりにくいのか

これだけの話が、なぜわかりにくいのでしょうか。
 
世の中的には、「マーケティング」と言ったら、狭い意味でのマーケティング(=集客)を指していることは非常に多いです。特にIT・ベンチャー界隈だとなおさら。
 
だけど、ググると出てくるのは大コトラー主義的な「企業プロセスの全部」的な定義ばかり。
 
すなわち、
実際  :(企業プロセスの一部である)「集客」だけ
ググると:企業プロセス全部 
ってギャップで混乱する人が多い。
 
このギャップが、「マーケティング」の理解を困難にしている一番の理由だと思うのです。
 
じゃあ、実際は「集客」なのに、「企業プロセス全部」という定義ばかりが世の中に氾濫しているのか。
理由は2つあると思います。
コトラーさんの定義の方が威厳があるから(無視するとアホだと思われそうだから)
②「全部」とか言っちゃった方がかっこいいから。
てか、それくらいの話だと思ってます。
 
確かにコトラーが使っている意味で、「マーケティング」を企画・統括しているマーケティング部もたくさん存在します(個人的には、製造業とか古い会社に多いイメージ)。
しかし、実際上は「集客」の意味での「マーケティング部」もたくさんあります。
 

まとめ

コトラー的な意味合いでの「マーケティング」は高尚なので、ちゃんと理解するのは一部の人で良いと思います(この記事も、相当雑に要約してます)。
なので、「マーケティングって何?」と聞かれたら、私はこう答えたい。
 
  • 実は、2つの異なる意味で使われている。
  • 1つ目、かつWeb・ベンチャー界隈で圧倒的に多くの場合は「集客」「見込み顧客を(Webとかセミナーとかで)作ること」みたいな意味。セールスの前工程。
    • うちの組織もこっちの意味。
  • 2つ目は、「市場と向き合う企業活動全般」みたいな意味。
    • こっちは、理解できなければそれでOK。理解したければコトラーとか自分で読む気概を持ってください。

 

 

  

この1冊ですべてわかる 新版 マーケティングの基本

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コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント基本編 第3版

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絶えずカスタマーヘルスを把握・管理する :カスタマーサクセスの10原則④

カスタマーサクセスの教科書として知られる通称「青本」↓

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 

 

その第4原則が「絶えずカスタマーヘルスを把握・管理する」です。
 
上記の本は、「10の原則」がチェックリスト的に使えて実務的に非常に使いやすいのですが、
以下では、本の内容を紹介・補足しつつ、その実務上の意味合いについて考えたいと思います。
 

※他の原則も書いています。このシリーズの目次はこちら↓

【目次】カスタマーサクセス「青本」10の原則 逐条解説的まとめ - B-log

 

なぜ「カスタマーヘルス」が必要なのか

一言で言うと、「予測と管理に必要だから」です。
 
青本ではこの問いに対して、「セールスの幹部による案件管理」となぞらえて、以下のように説明されています。
 
要するに予測と管理だ。
(中略)
これは顧客の将来の行動(更新、アップセル、チャーンなどの危険な状態)を示す日々の指標であり、自部署を日々管理できるものだ。CSMがチャーンやリテンション率を算出するまでに12ヶ月も待つ必要はないのである。

  

つまり、更新、アップセルなどの目的に対して、プロアクティブ(カスタマーサクセスとカスタマーサポートの最大の違いの一つ)に動くためには、カスタマーヘルスという概念が必要だということです。
 

カスタマーヘルスとは何か

本の中に直接的に定義した記載はないのですが、カスタマーヘルスに取り組む理由から、更新・アップセルなどの目的に対しての先行的な指標がカスタマーヘルスとなることがわかります。
 
本の中では、「どの会社も別物なのだから1つの方法で解決できるわけではない」としつつも、カスタマーヘルス全体の判定に使えるものとして、以下を例示しています。
 
  • 製品定着率
  • カスタマーサポート
  • 調査結果
  • マーケティングへの関与ど
  • コミュニティへの参加度
  • 契約金額の増減
  • 自立度
  • 支払い履歴
  • 幹部との関係性
 
以上のような項目を洗い出しながら、絞り込んだりして、カスタマーサクセスを定義しようとする取り組みそれ自体も価値があるものだとされています。
 

「管理」「把握」「絶えず取り組む」

そして、原則の残りの要素は「管理」「把握」「絶えず取り組む」です。
 
ここはそれほど複雑ではありません。
カスタマーヘルスは「管理」されなくてはならない。つまり、眺めているだけではダメで、目的(契約更新やアップセルなど)のために、点数を上げる行動に繋げなくてはならない。
その超前提としてカスタマーヘルスは「把握」されなくてはならない。
そして、成功に導くためには、「絶えず」カスタマーヘルスの改善に取り組み続けなくてはなくてはならない。
という話です。
 
 

考察 :実務上のカスタマーヘルス定義

青本の内容に沿ったまとめは以上で、以下はおまけです。 
 
この原則を自分のビジネスで適用しようとすると、「カスタマーヘルススコアを具体的に何にするか」に迷うと思います。が、本では「どの会社も別物なのだから1つの方法で解決できるわけではない」として、例示をするにとどまっています。
 
様々な情報を見ると、以下のような観点が重要なようです。
 
目的志向
「更新率(解約率)」「顧客単価」あたりが、カスタマーサクセスの上位指標だとすると、カスタマーヘルスはこれらの要素となっている(ヘルススコアが改善すれば、継続率/顧客単価が改善する)という関係に関係にならなくてはなりません。
 
先行指標
「解約率」などをプロアクティブにコントロールするために、カスタマーヘルスを把握するのですから、カスタマーヘルスは先行指標でなくてはなりません。
 
データ志向
一定の歴史を持つビジネスなら、カスタマーヘルス指標と上位指標との紐付きは、基本的にデータ分析によって検証することが可能です。「機能XとYを利用すれば、8割は解約しない」みたいな。
ですので、カスタマーヘルス指標と上位指標の紐付きはデータによって裏付けられる必要があります。
 
重点志向
カスタマーヘルスの指標は無限にありますが、それらが全て同等の重要さを持つことは稀です。
上位指標に合わせてカテゴライズしながら、重み付けして把握・管理する必要があります。
個人的には、コントロールしきれないなら、思い切って「すごく効く1つか2つの指標にフォーカスする」というマネジメントが有効な局面も多いように思います。
 
 
とにかく上位指標との紐付けが重要で、そこだけ理解できれば設計はうまくいくのかな、なんて思ったりします。
 
私がこれまで関わってきたビジネスでは、「圧倒的に解約予測に効く1-2の指標」が存在し、それ以外はあくまで「従」みたいなケースが多かったです。
 

ヘルススコア設計については別にまとめました

 

 

顧客が期待しているのは大成功だ :カスタマーサクセスの10原則③

カスタマーサクセスの教科書として知られる通称「青本」↓
カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 
 
 その第3原則が「顧客が期待しているのは大成功だ」です。
 
上記の本は、「10の原則」がチェックリスト的に使えて実務的に非常に使いやすいです。
以下では、本の内容を紹介・補足しつつ、その実務上の意味合いについて考えたいと思います。
 

※他の原則も書いています。このシリーズの目次はこちら↓

【目次】カスタマーサクセス「青本」10の原則 逐条解説的まとめ - B-log

 

なぜ「大成功」が必要なのか

まず、なぜ顧客は大成功を求めているのか?
この点については、本のエグゼクティブサマリーの以下の記載が端的に表しています。
 

顧客はあなたのソリューションを、その特徴や機能を使うために買うわけではない。顧客があなたのソリューションを買うのは(そして金を払ってあなたとの関係を始めるのは)事業目標を達成したいからだ。  

顧客は成功するために月額料金を払い続けているから、ということですね。

 

大成功に向かう道のりに必要な3つの理解

そして青本は、大成功に向かう顧客の道のりを支援するために、顧客について以下の3つを理解しなくてはならないとします。
①顧客はどうやって成功を測っているのか
②その指標から判断すると、顧客は成功しているのか
③成功への過程で、顧客はどんな期待をしているか

 

上記のうち①②は、比較的わかりやすいと思います。
 
しかし③は異質で、狭い意味での「成功」「成果」というよりCX・UX(顧客体験)といった方がしっくりくる項目だと感じる方も少なくないと思います。。
 
ここで、本で言っている「成功」の意味が、
CS (Customer Success) = CO (Customer Outcomes) + CX (Customer eXperience)
 という考え方に立っていると捉えると、非常にわかりやすくなります*1
 
例えば、売上拡大を目的としたSFAやMAのようなプロダクトを想定します。
そのプロダクトを活用することによって顧客が売上予算を110%達成できているとしたら、一見大成功です。Customer Outcomeは十分。
しかし、その過程で「ものすごく使いにくくて、軌道に乗るまで10ヶ月かかった」「実は今もデータの名寄せに営業管理の人がものすごい苦労している」となってくると、ちょっと雲行きが怪しくなってきます。Customer Experienceが悪い。多くの顧客はそんなに手間をかけたくない。
 
すなわち、
顧客に「大成功」と言わせるには、十分な成果を届けるだけでなく、そこに至るカスタマージャーニーが、顧客が得る成果に対して十分リーズナブルではなくてはならない、
ということです。
 

幻滅期を生まないカスタマージャーニー

続いて青本が触れるのは「幻滅期を生まないカスタマージャーニー」です。

幻滅期については、以下の記載がわかりやすい。

実は、顧客を成功に導くには、製品が優れているだけでは十分ではない、会社が契約を得られるのは、営業部門が顧客に利益を与えられる成果物を販売して、ビジョンを描き「ソリューションから大きな見返りが得られる」という期待値を設定する大仕事をやってのけたからだ。
販売後、迅速に何らかの価値をもたらさなければ、経営陣が売上に盛り上がっている間にも勢いが失われて、ガートナー社が幻滅期と呼ぶ溝に落ち込んでしまうかもしれない。 
 
セールスは、契約のために顧客の期待を煽ります(これはこれで正しい)。
 
あまり細かい導入プロセスとか、そこで顧客にかかる負担とかは語らない。顧客は、すぐにでも理想のアウトカムを得られると思いがちです。
「よし、契約した。で、いつ我々の大成功はやって来るの?」のノリです。
 
でも、放っておいてもそんなすぐ成果は出ない。なので、契約の少し後に、期待価値と実感価値に差が広がる幻滅期が来るわけです。
 
一度幻滅させてからリカバリするのではなく、顧客に道のりを示しつつ、小さな成果を共に得て、幻滅期を回避しながら大成功へ行きましょう、というのが本の主張です。
ここでも、CS=CX+COという方程式の考え方があらわれています。
 

大成功への道のりを進む

青本では他に
  • 定期的に進捗を確認する
  • 成功は目的地ではなく、旅路だ
  • 理論上は理論と現実の間に差はないが、現実には差がある
の3つが強調されています。
これは、これまで述べてきたところを理解できていれば、その延長線で理解できます。
 
つまり、
  • 成功への道のりは成果を積み重ねる必要があるから「定期的に進捗を確認する」必要がある。
  • そして、CS=CX+COの式の通り、「成功は目的地ではなく、旅路だ」と言える。
  • とはいえ、その旅路は「理論上は理論と現実の間に差はないが、現実には差がある」。
  • なので、旅路の途中で現実には色々な問題が発生するけど、立ち向かって解決しないといけない。問題を放置しても問題は逃げてくれず、逃げるのは顧客だ(この表現アメリカっぽくて好き。笑)

というわけです。

 

まとめ

以上、まとめるとこんな感じです。
  • 顧客は大成功を求めている。
  • 幻滅期を発生されず、顧客を大成功に導くには、以下を理解する必要がある
    • ①顧客はどうやって成功を測っているか
    • ②その指標から判断すると、顧客は成功しているのか
    • ③成功への過程で、顧客はどんな期待をしているか
  • そして、成功は目的地ではなく旅路であることを理解し、定期的に進捗を確認しながら、理論どおり行かず発生する問題と正面切って戦って初めて、顧客は大成功が得られる。
 

考察 :結局「大成功」とは何だったのか。

青本の内容に沿ったまとめは以上で、以下は考察です。
 
この章の「大成功」は、原著では"wildly successes"です。
 
「顧客が期待しているのは大成功だ」というタイトルから、「顧客の期待を大幅に上回る成果を出せ」みたいな話を期待して読み始めた人は、私だけではないはずです。
が、そんな話は全然出てこなくて混乱したのも、私だけではないと思います。
 
で、大成功って何だったの?と。
 
個人的には、この理解をブレイクスルーしたのが、
CS (Customer Success) = CO (Customer Outcomes) + CX (Customer eXperience)
の考え方でした。
 
本もこの考え方に則っていることは、大成功のために以下を理解する必要があると指摘していることからもわかります。
①顧客はどうやって成功を測っているのか
②その指標から判断すると、顧客は成功しているのか
③成功への過程で、顧客はどんな期待をしているか

 

 
実際、カスタマーサクセスを進める中で成果指標偏重で議論がされることもたまにあります。
でも、顧客体験・カスタマージャーニーもとっても大切。
 
大成功とは、顧客に期待する成果と最高の顧客体験ををセットで提供すること、ということかと思います。
 

 

※他の原則についてはこちら↓

 

 

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 

 

*1:この方程式は、青本の著者であるニック・メータ氏がCEOを務めるGainsight社のサイトにおいても示されており、本も同様の考え方であると推察されます:The Essential Guide to Company-wide Customer Success | Gainsight

顧客とベンダーは何もしなければ離れる :カスタマーサクセス10の原則②

カスタマーサクセスの教科書として知られる通称「青本」↓
カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 
 
その第2原則が「顧客とベンダーは何もしなければ離れる」です。
 
上記の本は、「10の原則」がチェックリスト的に使えて実務的に非常に使いやすいのですが、
以下では、本の内容を紹介・補足しつつ、その実務上の意味合いについて考えたいと思います。
 

※他の原則も書いています。このシリーズの目次はこちら↓

【目次】カスタマーサクセス「青本」10の原則 逐条解説的まとめ - B-log

 

なぜ、この原則が重要なのか

タイトル通り「放っておくと離れるから」につきます。
そして、それがチャーン(解約)につながるからです。
 
青本内の著者による補足説明の、以下の記載が非常にわかりやすいです。
 
たとえ最高の顧客が相手であっても、最初と同じ程度の価値を保つことは、または相手にそう感じさせることは非常に難しい。
大多数にとって、フェイスブックの価値が最も高く感じられるのは利用し始めてから最初の数カ月だ。
 

具体的な対応策

青本のこの章は、構造が一瞬わかりにくいのですが、顧客を離れさせない秘訣は
  • 危険信号を探せる施策を決めておくこと
  • 危険信号を発見したら、データに基づいて行動すること
だとしています。
 
そして、よくある解約理由(ないしその危険信号)として、
以下を例示して、対応策も紹介しています。
  • 金銭的リターンや事業価値が得られない
  • 実装が遅れたり完全に止まっている
  • プロジェクトスポンサーやパワーユーザーがいなくなる
  • 製品定着率が低い
  • 別のソリューションを利用している会社に買収された
  • 製品の機能が足りない
  • 新たなトップが方向性や戦略を変えつつある
  • 品質の低さや性能の問題に影響されている
  • 製品が自社にとって適切な解決策でないことがわかった
  • 人的要因
 

考察:実際の運用はハイタッチ/ロータッチで異なりそう

本の内容に沿ったまとめは以上で、以下は考察です。
 

ハイタッチ/ロータッチ/テックタッチで実務は大きく分かれる

大前提として、顧客とベンダーは「何もしなければ離れる」のであって、必要な介入を手厚くできれば、両者は離れません。
 
だけど、全部のビジネス・顧客で手厚い介入はできません。だから、カスタマーサクセスでは、ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの概念が使われるのです。
「顧客とベンダーは何もしなければ離れる」 は、この3つのタッチモデルに合わせて考えるとわかり易いです。
 

ハイタッチでは、ある種シンプル

ハイタッチだと、話はシンプルです。ハイタッチが本当に実現できていれば、「何もしなければ」という状況に、そもそもならないからです。
ただし、ハイタッチを行うようなビジネス・顧客では、トップの意向や戦略転換で顧客のロイヤリティが一気に下がるようなこともあります。そこの対応力には結構差があります。
危険信号をキャッチするのは比較的容易、ただ対応は地力の差が出る、ということです。
この辺は本の中でも「著者による補足」として言及されているところです。
 

ロータッチ・テックタッチでの実務的な対応が重要

「顧客とベンダーは何もしなければ離れる」の原則がより重要になるのはロータッチやテックタッチの場合です。
 
そもそも、ロータッチやテックタッチでは、接触回数が少ないため、接触自体によって顧客の心理ロイヤリティも保ちにくいし、危険信号も見落とされがちです。(かといって、ベタベタ接点作るとビジネスとしてペイしなくなるし、ウザがられる)
 
そこで、解約理由(ないしその危険信号)のパターン思考が有効になります。
過去のデータから主な解約理由とそこに至る経路をパターン化して定義できれば、「顧客とベンダーが離れる」現象の早期で治療が可能になるからです。
 
業務ソフトを例に、具体例で説明します。
ある業務ソフトで乗り換えによる解約を検討している顧客は、データ移行のためにエクスポート機能のヘルプを見るはずです。
その製品の解約理由の上位に「乗り換え」があるなら、「データエクスポートのヘルプを見た」というのは、まさに「危険信号」です。
なので、データエクスポートのヘルプを見たユーザーに、なんらかの手を打つことが解約抑止に効く可能性があります。
ただし、データエクスポートしようとした時点で、手遅れな気もします。
だとしたら、その一つ前、もう一つ前と遡って行動や信号を特定すればいい。これはヘルプページ閲覧者のログを遡ったり、インタビューをすることでわかります。
 
このような感じで、主な解約類型ごとに顧客の「解約に至るカスタマージャーニー」を描き、その重要な分岐に計測の仕組みと対策を入れることで、顧客とベンダーが離れるのを防ぐことが可能です(個人的に「死のカスタマージャーニーマップ」などと呼んでいました)。
 
この辺描くのは難しいのですが、今だと、機械学習で解約リスクをスコアリングするなんて仕組みも全然可能かつ有効ですね。
 

まとめ

顧客とベンダーは何もしなければ離れる。
とはいえ、大量の顧客を抱えるビジネスでベタベタ接点も作れない。
なので、メトリクス駆動で、絶妙なタイミングの接点を作ることがカスタマーサクセス(というよりこれはもう単に解約抑止と呼んだ方がしっくりくる)では大切なようです。
 

 

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

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サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル

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サブスクリプション・マーケティング――モノが売れない時代の顧客との関わり方

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正しい顧客に販売しよう  :カスタマーサクセス10の原則①

カスタマーサクセスの教科書として知られる通称「青本」↓
カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 
この本の第一原則が「正しい顧客に販売しよう」です。
 
上記の本は、「10の原則」がチェックリスト的に使えて実務的に非常に使いやすいです。
以下では、本の内容を紹介・補足しつつ、「正しい顧客に売ろう」の実務上の意味合いについて考えたいと思います。
 

※他の原則も書いています。このシリーズの目次はこちら↓

【目次】カスタマーサクセス「青本」10の原則 逐条解説的まとめ - B-log

  

なぜ、「正しい顧客に販売しよう」なのか

そもそも、なぜ「正しい顧客に販売」しなくてはならないのか。
端的に言うと、第一の理由は「チャーンの元になるから」です。
 
このことは、補足説明の冒頭の
「チャーンの90%は販売時に起きる」
という表現に集約されます。
 
ただし、これは正しい顧客に売る理由の一つにすぎません。
さらなる理由は、間違った顧客に売ることによるコストの増大です。
こちらも補足説明を引用します。
 
間違った顧客に販売することによってかかるコストは甚大だ。間違った顧客へのオンボーディングは大変なものになり、部署内の時間も能力も消耗する。また、製品部門への要求も大きくなりがちだ。オンボーディングが終われば、負担はカスタマーサクセス部門に映る。カスタマーサクセス部門がこれまでにない使用事例を慌てて構築・実行してから顧客に使い方のトレーニングを行わなければならない分、苦労はさらに大きくなる。そうこうしているうちに、90日ごの更新を前に警報がなる。危険な顧客の「命を助ける」ために結成されるSWAT部隊には、幹部も数人参加せざるを得ない。
 
実際、「間違った顧客」に売ることによって、プロダクト側に負担をかける事例というのは、日本でも非常に多いと感じます。
例えば、
  • 目先の売上確保のため、間違った顧客が重要顧客になる
  • 更新の条件として、結構無茶な(プロダクト全体の設計を無視した)改善要望が来る
  • でもどうにか更新させたいから、開発サイドが頑張って実装してくれる
  • 結果、製品の裏側の構造が複雑になっていき、小さな改善が効かなくなってくる
  • それでも売り上げ・顧客数を維持するために、間違った顧客に値引きしてでも売る
みたいな無限ループに陥っているSaaS、あると思います。
 
すなわち
  • 解約の抑制
  • コスト・機会損失の抑制
の2点から、「正しい顧客」に販売することがとても大切、ということです。
 
 

「正しい顧客」とは

「正しい顧客」の定義

青本だと少し分かりにくいのですが、一番端的な記載は、以下です。
 
本当にその契約が正しいと言えるのは、顧客がPMFに当てはまっている場合だけだ。
 
つまり、「正しい顧客 = PMFを満たす顧客」ということです。
 
ここで"PMF"とは、プロダクトマーケットフィットのことです。
本書ではプロダクトマーケットフィットを「市場が自社製品を受け入れられている状態」としています。
 
この「プロダクトマーケットフィット」は、スタートアップ界隈の方にはおなじみですが、それ以外の方には、本書の上記説明だけだと少しわかりにくい気がします。
 
PMFに当てはまっている場合」とは、思い切って要約すると
この文脈では「顧客が抱える課題と商品が提供する解決策が、ちゃんと合致している場合」くらいの意味です。
プロダクトマーケットフィット自体が実に奥深い概念なので、もし初見に近い場合、いくつか周辺知識を補足した方でもがいい気がします。
参考になりそうな資料としては、↓あたりでしょうか。

「正しい顧客」の探し方

一般的な定義が分かったとして、「じゃ具体的に正しい顧客って?」を自分のビジネスに落とす段階で苦労する方も多いと思います。
この点について、青本では以下のように語られています。
 
顧客があなたの既存製品に適合しているかどうかを見極めるとき、その顧客の使用事例や事業分野、業界、規模などを基準に含めるべきだろうか。どの顧客をターゲットにするか、または(場合によっては)どの顧客の優先順位を下げたり完全に諦めたりするかを決める際には、現在の顧客基盤や事業内容を分析した結果を基準とすべきか、または現在は対応していないが対応可能な幅広い市場の規模を分析した結果を基準とすべきだろうか。最終的にはどの要素も少しずつ入るはずだが、CEOは正しい顧客をターゲットにすることも含めて、PMFの達成に社内一丸となって取り組まないといけない。

 

すなわち、
  • 事業分野、業界、規模などは『正しい顧客』の基準となり得る。
  • 色々な要素が少しずつ入る。
  • ただいずれにせよPMFが大切。
という説明です。
 
ひたすらPMFを追求して下さいという解説です。
個人的には、実務上は以下のようなデータを見て決めることが多いような気がします。
  • (商品設計が正しいプロセスに則っている前提で)商品設計時に定義している顧客像
  • 「継続率」が特に高い顧客属性のデータ
  • 「シェア」や「受注率」や「オンボーディング率」が特に高い顧客属性のデータ
1つめがPMFの定義そのもので、あと2つが結果論としてPMFを評価するイメージですね。
 
 

しかし成長企業では、顧客を拡大しなくてはならないことも

ただし、「『正しい顧客』にこだわってばかりじゃ今期の予算達成できないよ」という現場の声が聞こえてきそうです。
 
見落とされがちですが、青本でも以下のような記載があります。
 
理想の世界なら、会社は理想的な顧客だけに販売すればいい。だがもちろん、成長企業には収益を伸ばさないといけないという途方もないプレッシャーがあるものだ。そのため、効果的に成長するには、理想的な顧客の定義を拡大せざるを得ない場合もある。
 
例えば、「正しい顧客」の定義からは少し離れる顧客に対して「●●キャンペーン」とか名前つけて値引き販売することで売上や顧客数を揃えに行く、というのは実際によく見る光景です。
 
つまり、実務上は、「正しい顧客」の理想形にとどまっていることはできないということです。
 
ただし、「正しい顧客」を拡大した場合でも、やるべきことはあります。
それは、顧客のデータを常に追跡することです。
例えば、拡大された「正しい顧客」を区別し、その後の顧客の動き(オンボーディング率、システム利用状況、解約率など)をウォッチし続けられる仕組みを有していれば「正しい顧客」拡大の解約への影響、プロダクトの必要な修正点、あるいは着実にオンボーディングするための施策などが明確に議論できるようになります。
 
 

組織横断の「正しい顧客」の共通認識が必要

そして、青本が繰り返し強調しているのは「正しい顧客」の組織をまたいだ共通認識です。
組織構造についても考える必要がある。組織全体が正しい顧客に販売できるように足並みが揃っているか、そうでないかを考えなくてはならない。
正しい顧客に「販売」するわけですから、正しい顧客の認識は当然セールス部門やマーケティング部門にもなくてはなりません。
 
そして、「正しい顧客」の定義がプロダクトマーケットフィットなのですから、当然製品部門ともこの認識は共有されるべきということです。
 
 
 

まとめ

まとめると、以下の通りです。
 
  • 正しい顧客に売るべき。なぜなら、解約の抑制につながり、コスト・機会損失の抑制にもつながるから
  • 「正しい顧客」とは、プロダクトマーケットフィットに適合する顧客である。
  • 成長企業では、「正しい顧客」を拡大しなくてはならないことも多いが、その場合もちゃんとデータで追跡すべき。
  • 「正しい顧客」については、組織横断で共通認識が必要である。
 
本の内容に沿ったまとめは以上で、以下は考察です。 
 

考察:実務の中での「『正しい顧客』の拡大」

青本を(特にジュニアな)CSのメンバー読むと、一番よくある問題提起が
「うちは正しい顧客に売ってない。ダメなんじゃないか」 です。
これはこれで、正しいし、ものすごく大切。
 
でも、青本の著者はそんなことが起きるのは百もご承知なワケです。
そこから一歩踏み出して建設的な問題解決をしたい。
 
以下詳述していきます。
 

「『正しい顧客』の拡大」は、成長企業にとって避け難い事象

「正しい顧客に売ろう」のなかで、個人的に重要だと思うのが「『正しい顧客』の拡大」の概念についての記載です。
 
成長企業と呼ばれる会社に「中の人」として携わってきた身からすると「正しい顧客の定義を拡大せざるを得ないこともある」という趣旨の以下の記載は、多くの経験を持ってわかりすぎます。
理想の世界なら、会社は理想的な顧客だけに販売すればいい。だがもちろん、成長企業には収益を伸ばさないといけないという途方もないプレッシャーがあるものだ。そのため、効果的に成長するには、理想的な顧客の定義を拡大せざるを得ない場合もある。 
「正しい顧客に売るべき」なんてことは、一定成長する企業なら分かってることが多い気がします。
だけど、成長企業には成長し続けなくてはならないというプレッシャーがあり、そのプレッシャーの中で正しい顧客の拡大は不可避的に起こりがちです。
 

しかも、なし崩し的に起こりがち

正しい顧客の拡大が不可避としても、
理想論としては「『正しい顧客』の拡大」を起こす瞬間に、ちゃんとマーケットプロダクトフィットを確認しながら進んでいけば良いように思います。
 
しかし、実際に「『正しい顧客』の拡大」が起きる瞬間というのは、往々にしてなし崩し的です
「今期売上ちょっと足りない」瞬間に「『正しい顧客』の拡大」は起こりがちで、そんな手順を踏む余裕なんてありません。
 

なし崩し的な「『正しい顧客』の拡大」に積極的に対応すべき

かくして「『正しい顧客』の拡大」はなし崩し的に起こりがちです。
とすると「それを前提に、ビジネス全体をいかにうまくマネジメントするか」が大切になる気がします。
 
カスタマーサクセスの観点でいうと、正しい顧客以外が入ってきたときに
  • この人たちは正しい顧客じゃないからオンボーディングできない
  • この集団は正しい顧客じゃないからChurn Rateが高い
とか言うことは簡単です。
 
しかし、正しい顧客の拡大が不可避とすると、そこから一歩進んで対応することがカスタマーサクセスチームには求められる気がするのです。
 
例えば
  • この顧客は元々想定していないから確かにオンボーディングしづらい。でも、〜〜という機能さえあればあとはこちらの運用提案でどうにかできるイメージがある。プロダクト側でどうにかしてくれないか?
  • 最近セールスが元々想定していないX業界の顧客にたくさん売ってくる。確かに目先の数字的にそれは分かるんだけど、どうせ正しい顧客を拡大するなら業界Yの方が筋がいいと思う。業界Xの顧客は、今の「正しい顧客」の要求とは相入れない要求をしてくるが、業界Yならそんなことはない。機能を追加すればイケるイメージがある。しかも実はたまに紛れ込んでくる業界Zの顧客も類似の課題を抱えている。業界Yと業界Z合わせればXと同じくらいの市場規模があるはずだ。
みたいな。
 
ここで求められるのは、正しい顧客以外も正しくないなりに類型化&構造化して(現在のプロダクトと整合性を保ちながら)対策を練るスキルだと思います。
 
こういう動きを設計するのは、本来的にはプロダクマネージャー/オーナーとかプロダクトマーケティングマネージャーと呼ばれる人の仕事かもしれません。
ただ、カスタマーサクセスから(目の前の顧客だけでなく)隣接市場までも洞察して上記のような「『正しい顧客』の拡大」のストーリーを「積極的に仕掛ける」ことができたらと思うと、とても素敵なことだと思うのです。
 
そもそもSaaSないしサブスクプロダクトの多くは、実態としては複数の機能(製品と言い換えてもいい)の複合体です。
複数の機能の複合体であるがゆえに、「正しい顧客」以外にも売れるし売りたくなる局面ってあると思うのです。
 
成長企業において「『正しい顧客』の拡大」は不可避です。しかも、それはなし崩し的に起こりがち。
その瞬間に、カスタマーサクセスとして文句をいうことは簡単です。
でも、そうではなくて、どうこの局面を乗り切っていくのか、正しい顧客以外も正しくないなりに類型化&構造化して対策を建設的に提案する姿勢とスキルが、カスタマーサクセスには求められるんじゃないかなぁ、なんて思うわけです。

 

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

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