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顧客とベンダーは何もしなければ離れる :カスタマーサクセス10の原則②

カスタマーサクセスの教科書として知られる通称「青本」↓
カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 
 
その第2原則が「顧客とベンダーは何もしなければ離れる」です。
 
上記の本は、「10の原則」がチェックリスト的に使えて実務的に非常に使いやすいのですが、
以下では、本の内容を紹介・補足しつつ、その実務上の意味合いについて考えたいと思います。
 

※他の原則も書いています。このシリーズの目次はこちら↓

【目次】カスタマーサクセス「青本」10の原則 逐条解説的まとめ - B-log

 

なぜ、この原則が重要なのか

タイトル通り「放っておくと離れるから」につきます。
そして、それがチャーン(解約)につながるからです。
 
青本内の著者による補足説明の、以下の記載が非常にわかりやすいです。
 
たとえ最高の顧客が相手であっても、最初と同じ程度の価値を保つことは、または相手にそう感じさせることは非常に難しい。
大多数にとって、フェイスブックの価値が最も高く感じられるのは利用し始めてから最初の数カ月だ。
 

具体的な対応策

青本のこの章は、構造が一瞬わかりにくいのですが、顧客を離れさせない秘訣は
  • 危険信号を探せる施策を決めておくこと
  • 危険信号を発見したら、データに基づいて行動すること
だとしています。
 
そして、よくある解約理由(ないしその危険信号)として、
以下を例示して、対応策も紹介しています。
  • 金銭的リターンや事業価値が得られない
  • 実装が遅れたり完全に止まっている
  • プロジェクトスポンサーやパワーユーザーがいなくなる
  • 製品定着率が低い
  • 別のソリューションを利用している会社に買収された
  • 製品の機能が足りない
  • 新たなトップが方向性や戦略を変えつつある
  • 品質の低さや性能の問題に影響されている
  • 製品が自社にとって適切な解決策でないことがわかった
  • 人的要因
 

考察:実際の運用はハイタッチ/ロータッチで異なりそう

本の内容に沿ったまとめは以上で、以下は考察です。
 

ハイタッチ/ロータッチ/テックタッチで実務は大きく分かれる

大前提として、顧客とベンダーは「何もしなければ離れる」のであって、必要な介入を手厚くできれば、両者は離れません。
 
だけど、全部のビジネス・顧客で手厚い介入はできません。だから、カスタマーサクセスでは、ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの概念が使われるのです。
「顧客とベンダーは何もしなければ離れる」 は、この3つのタッチモデルに合わせて考えるとわかり易いです。
 

ハイタッチでは、ある種シンプル

ハイタッチだと、話はシンプルです。ハイタッチが本当に実現できていれば、「何もしなければ」という状況に、そもそもならないからです。
ただし、ハイタッチを行うようなビジネス・顧客では、トップの意向や戦略転換で顧客のロイヤリティが一気に下がるようなこともあります。そこの対応力には結構差があります。
危険信号をキャッチするのは比較的容易、ただ対応は地力の差が出る、ということです。
この辺は本の中でも「著者による補足」として言及されているところです。
 

ロータッチ・テックタッチでの実務的な対応が重要

「顧客とベンダーは何もしなければ離れる」の原則がより重要になるのはロータッチやテックタッチの場合です。
 
そもそも、ロータッチやテックタッチでは、接触回数が少ないため、接触自体によって顧客の心理ロイヤリティも保ちにくいし、危険信号も見落とされがちです。(かといって、ベタベタ接点作るとビジネスとしてペイしなくなるし、ウザがられる)
 
そこで、解約理由(ないしその危険信号)のパターン思考が有効になります。
過去のデータから主な解約理由とそこに至る経路をパターン化して定義できれば、「顧客とベンダーが離れる」現象の早期で治療が可能になるからです。
 
業務ソフトを例に、具体例で説明します。
ある業務ソフトで乗り換えによる解約を検討している顧客は、データ移行のためにエクスポート機能のヘルプを見るはずです。
その製品の解約理由の上位に「乗り換え」があるなら、「データエクスポートのヘルプを見た」というのは、まさに「危険信号」です。
なので、データエクスポートのヘルプを見たユーザーに、なんらかの手を打つことが解約抑止に効く可能性があります。
ただし、データエクスポートしようとした時点で、手遅れな気もします。
だとしたら、その一つ前、もう一つ前と遡って行動や信号を特定すればいい。これはヘルプページ閲覧者のログを遡ったり、インタビューをすることでわかります。
 
このような感じで、主な解約類型ごとに顧客の「解約に至るカスタマージャーニー」を描き、その重要な分岐に計測の仕組みと対策を入れることで、顧客とベンダーが離れるのを防ぐことが可能です(個人的に「死のカスタマージャーニーマップ」などと呼んでいました)。
 
この辺描くのは難しいのですが、今だと、機械学習で解約リスクをスコアリングするなんて仕組みも全然可能かつ有効ですね。
 

まとめ

顧客とベンダーは何もしなければ離れる。
とはいえ、大量の顧客を抱えるビジネスでベタベタ接点も作れない。
なので、メトリクス駆動で、絶妙なタイミングの接点を作ることがカスタマーサクセス(というよりこれはもう単に解約抑止と呼んだ方がしっくりくる)では大切なようです。
 

 

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