カスタマーサクセスの教科書として知られる通称「青本」↓
カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則
- 作者: ニック・メータ,ダン・スタインマン,リンカーン・マーフィー,バーチャレクス・コンサルティング
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2018/06/06
- メディア: 単行本
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その第3原則が「顧客が期待しているのは大成功だ」です。
上記の本は、「10の原則」がチェックリスト的に使えて実務的に非常に使いやすいです。
以下では、本の内容を紹介・補足しつつ、その実務上の意味合いについて考えたいと思います。
この記事の目次は下記の通りです。
なぜ「大成功」が必要なのか
まず、なぜ顧客は大成功を求めているのか?
この点については、本のエグゼクティブサマリーの以下の記載が端的に表しています。
顧客はあなたのソリューションを、その特徴や機能を使うために買うわけではない。顧客があなたのソリューションを買うのは(そして金を払ってあなたとの関係を始めるのは)事業目標を達成したいからだ。
顧客は成功するために月額料金を払い続けているから、ということですね。
大成功に向かう道のりに必要な3つの理解
①顧客はどうやって成功を測っているのか②その指標から判断すると、顧客は成功しているのか③成功への過程で、顧客はどんな期待をしているか
上記のうち①②は、比較的わかりやすいと思います。
しかし③は異質で、狭い意味での「成功」「成果」というよりCX・UX(顧客体験)といった方がしっくりくる項目だと感じる方も少なくないと思います。。
ここで、本で言っている「成功」の意味が、
CS (Customer Success) = CO (Customer Outcomes) + CX (Customer eXperience)
という考え方に立っていると捉えると、非常にわかりやすくなります*1。
例えば、売上拡大を目的としたSFAやMAのようなプロダクトを想定します。
そのプロダクトを活用することによって顧客が売上予算を110%達成できているとしたら、一見大成功です。Customer Outcomeは十分。
しかし、その過程で「ものすごく使いにくくて、軌道に乗るまで10ヶ月かかった」「実は今もデータの名寄せに営業管理の人がものすごい苦労している」となってくると、ちょっと雲行きが怪しくなってきます。Customer Experienceが悪い。多くの顧客はそんなに手間をかけたくない。
すなわち、
顧客に「大成功」と言わせるには、十分な成果を届けるだけでなく、そこに至るカスタマージャーニーが、顧客が得る成果に対して十分リーズナブルではなくてはならない、
ということです。
幻滅期を生まないカスタマージャーニー
続いて青本が触れるのは「幻滅期を生まないカスタマージャーニー」です。
幻滅期については、以下の記載がわかりやすい。
実は、顧客を成功に導くには、製品が優れているだけでは十分ではない、会社が契約を得られるのは、営業部門が顧客に利益を与えられる成果物を販売して、ビジョンを描き「ソリューションから大きな見返りが得られる」という期待値を設定する大仕事をやってのけたからだ。販売後、迅速に何らかの価値をもたらさなければ、経営陣が売上に盛り上がっている間にも勢いが失われて、ガートナー社が幻滅期と呼ぶ溝に落ち込んでしまうかもしれない。
セールスは、契約のために顧客の期待を煽ります(これはこれで正しい)。
あまり細かい導入プロセスとか、そこで顧客にかかる負担とかは語らない。顧客は、すぐにでも理想のアウトカムを得られると思いがちです。
「よし、契約した。で、いつ我々の大成功はやって来るの?」のノリです。
でも、放っておいてもそんなすぐ成果は出ない。なので、契約の少し後に、期待価値と実感価値に差が広がる幻滅期が来るわけです。
ここでも、CS=CX+COという方程式の考え方があらわれています。
大成功への道のりを進む
青本では他に
の3つが強調されています。
- 定期的に進捗を確認する
- 成功は目的地ではなく、旅路だ
- 理論上は理論と現実の間に差はないが、現実には差がある
これは、これまで述べてきたところを理解できていれば、その延長線で理解できます。
つまり、
- 成功への道のりは成果を積み重ねる必要があるから「定期的に進捗を確認する」必要がある。
- そして、CS=CX+COの式の通り、「成功は目的地ではなく、旅路だ」と言える。
- とはいえ、その旅路は「理論上は理論と現実の間に差はないが、現実には差がある」。
- なので、旅路の途中で現実には色々な問題が発生するけど、立ち向かって解決しないといけない。問題を放置しても問題は逃げてくれず、逃げるのは顧客だ(この表現アメリカっぽくて好き。笑)
というわけです。
まとめ
以上、まとめるとこんな感じです。
-
顧客は大成功を求めている。
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幻滅期を発生されず、顧客を大成功に導くには、以下を理解する必要がある
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①顧客はどうやって成功を測っているか
-
②その指標から判断すると、顧客は成功しているのか
-
③成功への過程で、顧客はどんな期待をしているか
-
-
そして、成功は目的地ではなく旅路であることを理解し、定期的に進捗を確認しながら、理論どおり行かず発生する問題と正面切って戦って初めて、顧客は大成功が得られる。
考察 :結局「大成功」とは何だったのか。
青本の内容に沿ったまとめは以上で、以下は考察です。
この章の「大成功」は、原著では"wildly successes"です。
「顧客が期待しているのは大成功だ」というタイトルから、「顧客の期待を大幅に上回る成果を出せ」みたいな話を期待して読み始めた人は、私だけではないはずです。
が、そんな話は全然出てこなくて混乱したのも、私だけではないと思います。
で、大成功って何だったの?と。
個人的には、この理解をブレイクスルーしたのが、
CS (Customer Success) = CO (Customer Outcomes) + CX (Customer eXperience)
の考え方でした。
本もこの考え方に則っていることは、大成功のために以下を理解する必要があると指摘していることからもわかります。
①顧客はどうやって成功を測っているのか②その指標から判断すると、顧客は成功しているのか③成功への過程で、顧客はどんな期待をしているか
実際、カスタマーサクセスを進める中で成果指標偏重で議論がされることもたまにあります。
でも、顧客体験・カスタマージャーニーもとっても大切。
大成功とは、顧客に期待する成果と最高の顧客体験ををセットで提供すること、ということかと思います。
※他の原則についてはこちら↓
カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則
- 作者: ニック・メータ,ダン・スタインマン,リンカーン・マーフィー,バーチャレクス・コンサルティング
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THE MODEL(MarkeZine BOOKS) マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス
- 作者: 福田康隆
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2019/01/30
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*1:この方程式は、青本の著者であるニック・メータ氏がCEOを務めるGainsight社のサイトにおいても示されており、本も同様の考え方であると推察されます:The Essential Guide to Company-wide Customer Success | Gainsight