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タイムトゥバリューの向上にとことん取り組もう :カスタマーサクセス10の原則⑦

カスタマーサクセスの教科書として知られる通称「青本」↓

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 
その第7原則が「タイムトゥバリューの向上にとことん取り組もう」です。
 
上記の本は、「10の原則」がチェックリスト的に使えて実務的に非常に使いやすいのですが、
以下では、本の内容を紹介・補足しつつ、その実務上の意味合いについて考えたいと思います。

 

※他の原則も書いています。このシリーズの目次はこちら↓

【目次】カスタマーサクセス「青本」10の原則 逐条解説的まとめ - B-log

  

なぜ、タイムトゥバリューの向上が大切なのか

 
一言で言うと、「更新やアップセルに影響するから」です。
 
このことはセールスから製品導入に至る流れを想像するとわかりやすいです。
少し長いですが、青本本文の記載を引用します。
 
 営業の業務の大部分を占めるのは、潜在顧客に対して製品やソリューションを購入すれば確実にそこから価値が得られると納得させることだ。SaaSサブスクリプションの世界では、この価値を迅速にもたらすことがリテンションや収益拡大の鍵となる。約束されていた価値が得られていない(あるいは得られる前に)、更新や契約継続を選んだり、追加購入したりする顧客はいない。
 問題をわかりやすくするために極端な例で考えてみよう。12カ月の契約期間に対して、導入と運用に11カ月かかった場合と60日で完了した場合とでは、更新率はどちらが高いだろうか。
 
 
 

タイムトゥバリューを向上させる3つの秘訣

 
青本では、タイムトゥバリューを向上させる秘訣ととして、次の3つを掲げています。
 

具体的な成功の指標を決める

青本全体として「測定なくして管理なし」的な考え方なので、最初に「成功の指標を決める」が来るのは想像できた方も多いと思います。
 
ただ、この章で秀逸だと思うのは、顧客は「大枠の推進要因は挙げられても、具体的な指標は頭にないという顧客の方がずっと多い」と指摘している点です。
 
そういったケースへの対応策として、自分たちから
  • 指標のリストを見せて
  • 指標を決め
  • その基準値も決める
ことを青本は推奨しています。
 
そして、「この指標はオンボーディング部門にも伝えておくのが望ましい」とされています。
オンボーディングのキックオフMtgで顧客にこう確認すべき、とされているトーク例が秀逸です。
 
「お買い上げの時点では、従業員のオンボーディング期間を縮めることが重要な要素と伺いました。今もお変わりないでしょうか。でしたら、まずは現在のオンボーディング期間を確認させていただきます。」
 オンボーディングを開始していいのは、このように成功指標を明確に決めた後だ。

補足:上記引用でオンボーディングは2つの意味で使われています。

  • カギカッコ内の『オンボーディング』:顧客の新入社員が独り立ちするまでの期間(おそらく、この会話が従業員教育ツールか何かを想定しているのでしょう)

  • カギカッコ外の『オンボーディング』:自社が提供するサービスを顧客に使いこなさせるまでの一連のプロセス。SaaSにおけるオンボーディング。

 
こんなこと私も言われてみたい。
 

早い段階での価値達成に向けて何度も取り組む

指標が決まったら、次はその達成に向けて進むことになります。
 
その進め方について青本は、
価値達成への最速の道は、まず最も達成しやすい基準を満たすことだ
としています。
 
そして具体的なステップとしては
  • 第1段階:トレーニングとオンボーディング
  • 第2段階:潜在顧客のエンゲージメント
  • 第3段階(継続する):パフォーマンスの計測
の3つを掲げています。
 
そして、「第1段階のトレーニングとオンボーディングに集中してから」次のステップに進むべきとしています。
 
また、早い段階で価値達成する方法は他にもあるものの、「達成可能な小課題になるまで細かくしてから繰り返し取り組む」ことが大切だとしています。
 
 

すぐ調整する

タイムトゥバリューを上げる秘訣の最後は
「調整はすぐに行う。期待値が危機にさらされていることに気づいた瞬間に、すぐ行動に移す」
です。
これに関しては、以下の記述がわかりやすいです。
 
オンボーディング後数週間から数カ月におけるCSMの最優先課題は、顧客が定めた価値に必ず到達できるよう粘り強く取り組むことだ。それ以外の、従来のカスタマーサクセス業務(新機能の導入や四半期ビジネスレビューの実施など)はどれも、この最優先課題に比べれば二の次である。
  
以上のような秘訣を紹介して、本章は以下のように締めくくられています。

顧客が購入するのは、支払った金額をはるかに上回る価値がソリューションから得られると信じているからだ。だが、サブスクリプションビジネスでは、いつかそうなると言うことだけでは安心できない。顧客自身が価値の計測方法を把握できるように、そして更新連絡のずっと前の時点で指標が上向いていると感じられるように取り組まなくてはならないのである。

 

 

考察 :オンボーディングとは何なのか

 
青本の中でもこの章は非常に分かりやすく、実務的な示唆にあふれています。
 
上記でも紹介した、冒頭の「12カ月の契約期間に対して、導入と運用に11カ月かかった場合と60日で完了した場合」の比較は、「タイムトゥバリュー」の本質をよく表していると思います。
 
また、セットで語られることの多い「オンボーディング」についても、本章と合わせて読むことで理解が深まると思います。
「オンボーディング」の定義を作るとき、どうしても
  • XX機能を利用している状態
  • オンボーディングセミナーを受講し終わったこと
のような定義になりがちです。
でも、オンボーディングの本質はそうじゃない。
「顧客が価値を感じること」こそ、本当のオンボーディングに他ならない、ということが、本章を読むことで理解できるはずです。
 
 
さらに、第3原則「顧客が求めているのは、大成功だ」の中で語られる「顧客の幻滅期」についても、本章と合わせて読むことで理解が深まると思います。
 
実は、顧客を成功に導くには、製品が優れているだけでは十分ではない、会社が契約を得られるのは、営業部門が顧客に利益を与えられる成果物を販売して、ビジョンを描き「ソリューションから大きな見返りが得られる」という期待値を設定する大仕事をやってのけたからだ。
販売後、迅速に何らかの価値をもたらさなければ、経営陣が売上に盛り上がっている間にも勢いが失われて、ガートナー社が幻滅期と呼ぶ溝に落ち込んでしまうかもしれない。
 
タイムトゥバリューを短縮するには、結構な努力が必要です。
  • 顧客は、自分の中で成功の定義を持っているとは限らない
  • そのくせ、すぐに成功を求める
  • 成功への道のりは意外と複雑で、予想外のこともたくさん起こる
そんな障害を乗り越えるヒントが、青本のこの章には溢れていると思います。
 

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