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顧客が期待しているのは大成功だ :カスタマーサクセスの10原則③

カスタマーサクセスの教科書として知られる通称「青本」↓
カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 
 
 その第3原則が「顧客が期待しているのは大成功だ」です。
 
上記の本は、「10の原則」がチェックリスト的に使えて実務的に非常に使いやすいです。
以下では、本の内容を紹介・補足しつつ、その実務上の意味合いについて考えたいと思います。
 

※他の原則も書いています。このシリーズの目次はこちら↓

【目次】カスタマーサクセス「青本」10の原則 逐条解説的まとめ - B-log

 

なぜ「大成功」が必要なのか

まず、なぜ顧客は大成功を求めているのか?
この点については、本のエグゼクティブサマリーの以下の記載が端的に表しています。
 

顧客はあなたのソリューションを、その特徴や機能を使うために買うわけではない。顧客があなたのソリューションを買うのは(そして金を払ってあなたとの関係を始めるのは)事業目標を達成したいからだ。  

顧客は成功するために月額料金を払い続けているから、ということですね。

 

大成功に向かう道のりに必要な3つの理解

そして青本は、大成功に向かう顧客の道のりを支援するために、顧客について以下の3つを理解しなくてはならないとします。
①顧客はどうやって成功を測っているのか
②その指標から判断すると、顧客は成功しているのか
③成功への過程で、顧客はどんな期待をしているか

 

上記のうち①②は、比較的わかりやすいと思います。
 
しかし③は異質で、狭い意味での「成功」「成果」というよりCX・UX(顧客体験)といった方がしっくりくる項目だと感じる方も少なくないと思います。。
 
ここで、本で言っている「成功」の意味が、
CS (Customer Success) = CO (Customer Outcomes) + CX (Customer eXperience)
 という考え方に立っていると捉えると、非常にわかりやすくなります*1
 
例えば、売上拡大を目的としたSFAやMAのようなプロダクトを想定します。
そのプロダクトを活用することによって顧客が売上予算を110%達成できているとしたら、一見大成功です。Customer Outcomeは十分。
しかし、その過程で「ものすごく使いにくくて、軌道に乗るまで10ヶ月かかった」「実は今もデータの名寄せに営業管理の人がものすごい苦労している」となってくると、ちょっと雲行きが怪しくなってきます。Customer Experienceが悪い。多くの顧客はそんなに手間をかけたくない。
 
すなわち、
顧客に「大成功」と言わせるには、十分な成果を届けるだけでなく、そこに至るカスタマージャーニーが、顧客が得る成果に対して十分リーズナブルではなくてはならない、
ということです。
 

幻滅期を生まないカスタマージャーニー

続いて青本が触れるのは「幻滅期を生まないカスタマージャーニー」です。

幻滅期については、以下の記載がわかりやすい。

実は、顧客を成功に導くには、製品が優れているだけでは十分ではない、会社が契約を得られるのは、営業部門が顧客に利益を与えられる成果物を販売して、ビジョンを描き「ソリューションから大きな見返りが得られる」という期待値を設定する大仕事をやってのけたからだ。
販売後、迅速に何らかの価値をもたらさなければ、経営陣が売上に盛り上がっている間にも勢いが失われて、ガートナー社が幻滅期と呼ぶ溝に落ち込んでしまうかもしれない。 
 
セールスは、契約のために顧客の期待を煽ります(これはこれで正しい)。
 
あまり細かい導入プロセスとか、そこで顧客にかかる負担とかは語らない。顧客は、すぐにでも理想のアウトカムを得られると思いがちです。
「よし、契約した。で、いつ我々の大成功はやって来るの?」のノリです。
 
でも、放っておいてもそんなすぐ成果は出ない。なので、契約の少し後に、期待価値と実感価値に差が広がる幻滅期が来るわけです。
 
一度幻滅させてからリカバリするのではなく、顧客に道のりを示しつつ、小さな成果を共に得て、幻滅期を回避しながら大成功へ行きましょう、というのが本の主張です。
ここでも、CS=CX+COという方程式の考え方があらわれています。
 

大成功への道のりを進む

青本では他に
  • 定期的に進捗を確認する
  • 成功は目的地ではなく、旅路だ
  • 理論上は理論と現実の間に差はないが、現実には差がある
の3つが強調されています。
これは、これまで述べてきたところを理解できていれば、その延長線で理解できます。
 
つまり、
  • 成功への道のりは成果を積み重ねる必要があるから「定期的に進捗を確認する」必要がある。
  • そして、CS=CX+COの式の通り、「成功は目的地ではなく、旅路だ」と言える。
  • とはいえ、その旅路は「理論上は理論と現実の間に差はないが、現実には差がある」。
  • なので、旅路の途中で現実には色々な問題が発生するけど、立ち向かって解決しないといけない。問題を放置しても問題は逃げてくれず、逃げるのは顧客だ(この表現アメリカっぽくて好き。笑)

というわけです。

 

まとめ

以上、まとめるとこんな感じです。
  • 顧客は大成功を求めている。
  • 幻滅期を発生されず、顧客を大成功に導くには、以下を理解する必要がある
    • ①顧客はどうやって成功を測っているか
    • ②その指標から判断すると、顧客は成功しているのか
    • ③成功への過程で、顧客はどんな期待をしているか
  • そして、成功は目的地ではなく旅路であることを理解し、定期的に進捗を確認しながら、理論どおり行かず発生する問題と正面切って戦って初めて、顧客は大成功が得られる。
 

考察 :結局「大成功」とは何だったのか。

青本の内容に沿ったまとめは以上で、以下は考察です。
 
この章の「大成功」は、原著では"wildly successes"です。
 
「顧客が期待しているのは大成功だ」というタイトルから、「顧客の期待を大幅に上回る成果を出せ」みたいな話を期待して読み始めた人は、私だけではないはずです。
が、そんな話は全然出てこなくて混乱したのも、私だけではないと思います。
 
で、大成功って何だったの?と。
 
個人的には、この理解をブレイクスルーしたのが、
CS (Customer Success) = CO (Customer Outcomes) + CX (Customer eXperience)
の考え方でした。
 
本もこの考え方に則っていることは、大成功のために以下を理解する必要があると指摘していることからもわかります。
①顧客はどうやって成功を測っているのか
②その指標から判断すると、顧客は成功しているのか
③成功への過程で、顧客はどんな期待をしているか

 

 
実際、カスタマーサクセスを進める中で成果指標偏重で議論がされることもたまにあります。
でも、顧客体験・カスタマージャーニーもとっても大切。
 
大成功とは、顧客に期待する成果と最高の顧客体験ををセットで提供すること、ということかと思います。
 

 

※他の原則についてはこちら↓

 

 

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 

 

*1:この方程式は、青本の著者であるニック・メータ氏がCEOを務めるGainsight社のサイトにおいても示されており、本も同様の考え方であると推察されます:The Essential Guide to Company-wide Customer Success | Gainsight

顧客とベンダーは何もしなければ離れる :カスタマーサクセス10の原則②

カスタマーサクセスの教科書として知られる通称「青本」↓
カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 
 
その第2原則が「顧客とベンダーは何もしなければ離れる」です。
 
上記の本は、「10の原則」がチェックリスト的に使えて実務的に非常に使いやすいのですが、
以下では、本の内容を紹介・補足しつつ、その実務上の意味合いについて考えたいと思います。
 

※他の原則も書いています。このシリーズの目次はこちら↓

【目次】カスタマーサクセス「青本」10の原則 逐条解説的まとめ - B-log

 

なぜ、この原則が重要なのか

タイトル通り「放っておくと離れるから」につきます。
そして、それがチャーン(解約)につながるからです。
 
青本内の著者による補足説明の、以下の記載が非常にわかりやすいです。
 
たとえ最高の顧客が相手であっても、最初と同じ程度の価値を保つことは、または相手にそう感じさせることは非常に難しい。
大多数にとって、フェイスブックの価値が最も高く感じられるのは利用し始めてから最初の数カ月だ。
 

具体的な対応策

青本のこの章は、構造が一瞬わかりにくいのですが、顧客を離れさせない秘訣は
  • 危険信号を探せる施策を決めておくこと
  • 危険信号を発見したら、データに基づいて行動すること
だとしています。
 
そして、よくある解約理由(ないしその危険信号)として、
以下を例示して、対応策も紹介しています。
  • 金銭的リターンや事業価値が得られない
  • 実装が遅れたり完全に止まっている
  • プロジェクトスポンサーやパワーユーザーがいなくなる
  • 製品定着率が低い
  • 別のソリューションを利用している会社に買収された
  • 製品の機能が足りない
  • 新たなトップが方向性や戦略を変えつつある
  • 品質の低さや性能の問題に影響されている
  • 製品が自社にとって適切な解決策でないことがわかった
  • 人的要因
 

考察:実際の運用はハイタッチ/ロータッチで異なりそう

本の内容に沿ったまとめは以上で、以下は考察です。
 

ハイタッチ/ロータッチ/テックタッチで実務は大きく分かれる

大前提として、顧客とベンダーは「何もしなければ離れる」のであって、必要な介入を手厚くできれば、両者は離れません。
 
だけど、全部のビジネス・顧客で手厚い介入はできません。だから、カスタマーサクセスでは、ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの概念が使われるのです。
「顧客とベンダーは何もしなければ離れる」 は、この3つのタッチモデルに合わせて考えるとわかり易いです。
 

ハイタッチでは、ある種シンプル

ハイタッチだと、話はシンプルです。ハイタッチが本当に実現できていれば、「何もしなければ」という状況に、そもそもならないからです。
ただし、ハイタッチを行うようなビジネス・顧客では、トップの意向や戦略転換で顧客のロイヤリティが一気に下がるようなこともあります。そこの対応力には結構差があります。
危険信号をキャッチするのは比較的容易、ただ対応は地力の差が出る、ということです。
この辺は本の中でも「著者による補足」として言及されているところです。
 

ロータッチ・テックタッチでの実務的な対応が重要

「顧客とベンダーは何もしなければ離れる」の原則がより重要になるのはロータッチやテックタッチの場合です。
 
そもそも、ロータッチやテックタッチでは、接触回数が少ないため、接触自体によって顧客の心理ロイヤリティも保ちにくいし、危険信号も見落とされがちです。(かといって、ベタベタ接点作るとビジネスとしてペイしなくなるし、ウザがられる)
 
そこで、解約理由(ないしその危険信号)のパターン思考が有効になります。
過去のデータから主な解約理由とそこに至る経路をパターン化して定義できれば、「顧客とベンダーが離れる」現象の早期で治療が可能になるからです。
 
業務ソフトを例に、具体例で説明します。
ある業務ソフトで乗り換えによる解約を検討している顧客は、データ移行のためにエクスポート機能のヘルプを見るはずです。
その製品の解約理由の上位に「乗り換え」があるなら、「データエクスポートのヘルプを見た」というのは、まさに「危険信号」です。
なので、データエクスポートのヘルプを見たユーザーに、なんらかの手を打つことが解約抑止に効く可能性があります。
ただし、データエクスポートしようとした時点で、手遅れな気もします。
だとしたら、その一つ前、もう一つ前と遡って行動や信号を特定すればいい。これはヘルプページ閲覧者のログを遡ったり、インタビューをすることでわかります。
 
このような感じで、主な解約類型ごとに顧客の「解約に至るカスタマージャーニー」を描き、その重要な分岐に計測の仕組みと対策を入れることで、顧客とベンダーが離れるのを防ぐことが可能です(個人的に「死のカスタマージャーニーマップ」などと呼んでいました)。
 
この辺描くのは難しいのですが、今だと、機械学習で解約リスクをスコアリングするなんて仕組みも全然可能かつ有効ですね。
 

まとめ

顧客とベンダーは何もしなければ離れる。
とはいえ、大量の顧客を抱えるビジネスでベタベタ接点も作れない。
なので、メトリクス駆動で、絶妙なタイミングの接点を作ることがカスタマーサクセス(というよりこれはもう単に解約抑止と呼んだ方がしっくりくる)では大切なようです。
 

 

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 
サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル

サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル

 
サブスクリプション・マーケティング――モノが売れない時代の顧客との関わり方

サブスクリプション・マーケティング――モノが売れない時代の顧客との関わり方

 

 

正しい顧客に販売しよう  :カスタマーサクセス10の原則①

カスタマーサクセスの教科書として知られる通称「青本」↓
カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 
この本の第一原則が「正しい顧客に販売しよう」です。
 
上記の本は、「10の原則」がチェックリスト的に使えて実務的に非常に使いやすいです。
以下では、本の内容を紹介・補足しつつ、「正しい顧客に売ろう」の実務上の意味合いについて考えたいと思います。
 

※他の原則も書いています。このシリーズの目次はこちら↓

【目次】カスタマーサクセス「青本」10の原則 逐条解説的まとめ - B-log

  

なぜ、「正しい顧客に販売しよう」なのか

そもそも、なぜ「正しい顧客に販売」しなくてはならないのか。
端的に言うと、第一の理由は「チャーンの元になるから」です。
 
このことは、補足説明の冒頭の
「チャーンの90%は販売時に起きる」
という表現に集約されます。
 
ただし、これは正しい顧客に売る理由の一つにすぎません。
さらなる理由は、間違った顧客に売ることによるコストの増大です。
こちらも補足説明を引用します。
 
間違った顧客に販売することによってかかるコストは甚大だ。間違った顧客へのオンボーディングは大変なものになり、部署内の時間も能力も消耗する。また、製品部門への要求も大きくなりがちだ。オンボーディングが終われば、負担はカスタマーサクセス部門に映る。カスタマーサクセス部門がこれまでにない使用事例を慌てて構築・実行してから顧客に使い方のトレーニングを行わなければならない分、苦労はさらに大きくなる。そうこうしているうちに、90日ごの更新を前に警報がなる。危険な顧客の「命を助ける」ために結成されるSWAT部隊には、幹部も数人参加せざるを得ない。
 
実際、「間違った顧客」に売ることによって、プロダクト側に負担をかける事例というのは、日本でも非常に多いと感じます。
例えば、
  • 目先の売上確保のため、間違った顧客が重要顧客になる
  • 更新の条件として、結構無茶な(プロダクト全体の設計を無視した)改善要望が来る
  • でもどうにか更新させたいから、開発サイドが頑張って実装してくれる
  • 結果、製品の裏側の構造が複雑になっていき、小さな改善が効かなくなってくる
  • それでも売り上げ・顧客数を維持するために、間違った顧客に値引きしてでも売る
みたいな無限ループに陥っているSaaS、あると思います。
 
すなわち
  • 解約の抑制
  • コスト・機会損失の抑制
の2点から、「正しい顧客」に販売することがとても大切、ということです。
 
 

「正しい顧客」とは

「正しい顧客」の定義

青本だと少し分かりにくいのですが、一番端的な記載は、以下です。
 
本当にその契約が正しいと言えるのは、顧客がPMFに当てはまっている場合だけだ。
 
つまり、「正しい顧客 = PMFを満たす顧客」ということです。
 
ここで"PMF"とは、プロダクトマーケットフィットのことです。
本書ではプロダクトマーケットフィットを「市場が自社製品を受け入れられている状態」としています。
 
この「プロダクトマーケットフィット」は、スタートアップ界隈の方にはおなじみですが、それ以外の方には、本書の上記説明だけだと少しわかりにくい気がします。
 
PMFに当てはまっている場合」とは、思い切って要約すると
この文脈では「顧客が抱える課題と商品が提供する解決策が、ちゃんと合致している場合」くらいの意味です。
プロダクトマーケットフィット自体が実に奥深い概念なので、もし初見に近い場合、いくつか周辺知識を補足した方でもがいい気がします。
参考になりそうな資料としては、↓あたりでしょうか。

「正しい顧客」の探し方

一般的な定義が分かったとして、「じゃ具体的に正しい顧客って?」を自分のビジネスに落とす段階で苦労する方も多いと思います。
この点について、青本では以下のように語られています。
 
顧客があなたの既存製品に適合しているかどうかを見極めるとき、その顧客の使用事例や事業分野、業界、規模などを基準に含めるべきだろうか。どの顧客をターゲットにするか、または(場合によっては)どの顧客の優先順位を下げたり完全に諦めたりするかを決める際には、現在の顧客基盤や事業内容を分析した結果を基準とすべきか、または現在は対応していないが対応可能な幅広い市場の規模を分析した結果を基準とすべきだろうか。最終的にはどの要素も少しずつ入るはずだが、CEOは正しい顧客をターゲットにすることも含めて、PMFの達成に社内一丸となって取り組まないといけない。

 

すなわち、
  • 事業分野、業界、規模などは『正しい顧客』の基準となり得る。
  • 色々な要素が少しずつ入る。
  • ただいずれにせよPMFが大切。
という説明です。
 
ひたすらPMFを追求して下さいという解説です。
個人的には、実務上は以下のようなデータを見て決めることが多いような気がします。
  • (商品設計が正しいプロセスに則っている前提で)商品設計時に定義している顧客像
  • 「継続率」が特に高い顧客属性のデータ
  • 「シェア」や「受注率」や「オンボーディング率」が特に高い顧客属性のデータ
1つめがPMFの定義そのもので、あと2つが結果論としてPMFを評価するイメージですね。
 
 

しかし成長企業では、顧客を拡大しなくてはならないことも

ただし、「『正しい顧客』にこだわってばかりじゃ今期の予算達成できないよ」という現場の声が聞こえてきそうです。
 
見落とされがちですが、青本でも以下のような記載があります。
 
理想の世界なら、会社は理想的な顧客だけに販売すればいい。だがもちろん、成長企業には収益を伸ばさないといけないという途方もないプレッシャーがあるものだ。そのため、効果的に成長するには、理想的な顧客の定義を拡大せざるを得ない場合もある。
 
例えば、「正しい顧客」の定義からは少し離れる顧客に対して「●●キャンペーン」とか名前つけて値引き販売することで売上や顧客数を揃えに行く、というのは実際によく見る光景です。
 
つまり、実務上は、「正しい顧客」の理想形にとどまっていることはできないということです。
 
ただし、「正しい顧客」を拡大した場合でも、やるべきことはあります。
それは、顧客のデータを常に追跡することです。
例えば、拡大された「正しい顧客」を区別し、その後の顧客の動き(オンボーディング率、システム利用状況、解約率など)をウォッチし続けられる仕組みを有していれば「正しい顧客」拡大の解約への影響、プロダクトの必要な修正点、あるいは着実にオンボーディングするための施策などが明確に議論できるようになります。
 
 

組織横断の「正しい顧客」の共通認識が必要

そして、青本が繰り返し強調しているのは「正しい顧客」の組織をまたいだ共通認識です。
組織構造についても考える必要がある。組織全体が正しい顧客に販売できるように足並みが揃っているか、そうでないかを考えなくてはならない。
正しい顧客に「販売」するわけですから、正しい顧客の認識は当然セールス部門やマーケティング部門にもなくてはなりません。
 
そして、「正しい顧客」の定義がプロダクトマーケットフィットなのですから、当然製品部門ともこの認識は共有されるべきということです。
 
 
 

まとめ

まとめると、以下の通りです。
 
  • 正しい顧客に売るべき。なぜなら、解約の抑制につながり、コスト・機会損失の抑制にもつながるから
  • 「正しい顧客」とは、プロダクトマーケットフィットに適合する顧客である。
  • 成長企業では、「正しい顧客」を拡大しなくてはならないことも多いが、その場合もちゃんとデータで追跡すべき。
  • 「正しい顧客」については、組織横断で共通認識が必要である。
 
本の内容に沿ったまとめは以上で、以下は考察です。 
 

考察:実務の中での「『正しい顧客』の拡大」

青本を(特にジュニアな)CSのメンバー読むと、一番よくある問題提起が
「うちは正しい顧客に売ってない。ダメなんじゃないか」 です。
これはこれで、正しいし、ものすごく大切。
 
でも、青本の著者はそんなことが起きるのは百もご承知なワケです。
そこから一歩踏み出して建設的な問題解決をしたい。
 
以下詳述していきます。
 

「『正しい顧客』の拡大」は、成長企業にとって避け難い事象

「正しい顧客に売ろう」のなかで、個人的に重要だと思うのが「『正しい顧客』の拡大」の概念についての記載です。
 
成長企業と呼ばれる会社に「中の人」として携わってきた身からすると「正しい顧客の定義を拡大せざるを得ないこともある」という趣旨の以下の記載は、多くの経験を持ってわかりすぎます。
理想の世界なら、会社は理想的な顧客だけに販売すればいい。だがもちろん、成長企業には収益を伸ばさないといけないという途方もないプレッシャーがあるものだ。そのため、効果的に成長するには、理想的な顧客の定義を拡大せざるを得ない場合もある。 
「正しい顧客に売るべき」なんてことは、一定成長する企業なら分かってることが多い気がします。
だけど、成長企業には成長し続けなくてはならないというプレッシャーがあり、そのプレッシャーの中で正しい顧客の拡大は不可避的に起こりがちです。
 

しかも、なし崩し的に起こりがち

正しい顧客の拡大が不可避としても、
理想論としては「『正しい顧客』の拡大」を起こす瞬間に、ちゃんとマーケットプロダクトフィットを確認しながら進んでいけば良いように思います。
 
しかし、実際に「『正しい顧客』の拡大」が起きる瞬間というのは、往々にしてなし崩し的です
「今期売上ちょっと足りない」瞬間に「『正しい顧客』の拡大」は起こりがちで、そんな手順を踏む余裕なんてありません。
 

なし崩し的な「『正しい顧客』の拡大」に積極的に対応すべき

かくして「『正しい顧客』の拡大」はなし崩し的に起こりがちです。
とすると「それを前提に、ビジネス全体をいかにうまくマネジメントするか」が大切になる気がします。
 
カスタマーサクセスの観点でいうと、正しい顧客以外が入ってきたときに
  • この人たちは正しい顧客じゃないからオンボーディングできない
  • この集団は正しい顧客じゃないからChurn Rateが高い
とか言うことは簡単です。
 
しかし、正しい顧客の拡大が不可避とすると、そこから一歩進んで対応することがカスタマーサクセスチームには求められる気がするのです。
 
例えば
  • この顧客は元々想定していないから確かにオンボーディングしづらい。でも、〜〜という機能さえあればあとはこちらの運用提案でどうにかできるイメージがある。プロダクト側でどうにかしてくれないか?
  • 最近セールスが元々想定していないX業界の顧客にたくさん売ってくる。確かに目先の数字的にそれは分かるんだけど、どうせ正しい顧客を拡大するなら業界Yの方が筋がいいと思う。業界Xの顧客は、今の「正しい顧客」の要求とは相入れない要求をしてくるが、業界Yならそんなことはない。機能を追加すればイケるイメージがある。しかも実はたまに紛れ込んでくる業界Zの顧客も類似の課題を抱えている。業界Yと業界Z合わせればXと同じくらいの市場規模があるはずだ。
みたいな。
 
ここで求められるのは、正しい顧客以外も正しくないなりに類型化&構造化して(現在のプロダクトと整合性を保ちながら)対策を練るスキルだと思います。
 
こういう動きを設計するのは、本来的にはプロダクマネージャー/オーナーとかプロダクトマーケティングマネージャーと呼ばれる人の仕事かもしれません。
ただ、カスタマーサクセスから(目の前の顧客だけでなく)隣接市場までも洞察して上記のような「『正しい顧客』の拡大」のストーリーを「積極的に仕掛ける」ことができたらと思うと、とても素敵なことだと思うのです。
 
そもそもSaaSないしサブスクプロダクトの多くは、実態としては複数の機能(製品と言い換えてもいい)の複合体です。
複数の機能の複合体であるがゆえに、「正しい顧客」以外にも売れるし売りたくなる局面ってあると思うのです。
 
成長企業において「『正しい顧客』の拡大」は不可避です。しかも、それはなし崩し的に起こりがち。
その瞬間に、カスタマーサクセスとして文句をいうことは簡単です。
でも、そうではなくて、どうこの局面を乗り切っていくのか、正しい顧客以外も正しくないなりに類型化&構造化して対策を建設的に提案する姿勢とスキルが、カスタマーサクセスには求められるんじゃないかなぁ、なんて思うわけです。

 

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

カスタマーサクセス――サブスクリプション時代に求められる「顧客の成功」10の原則

 
サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル

サブスクリプション――「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル

 
サブスクリプション・マーケティング――モノが売れない時代の顧客との関わり方

サブスクリプション・マーケティング――モノが売れない時代の顧客との関わり方

 
リーン・スタートアップ

リーン・スタートアップ

 
Running Lean ―実践リーンスタートアップ (THE LEAN SERIES)

Running Lean ―実践リーンスタートアップ (THE LEAN SERIES)

 
リーン顧客開発 ―「売れないリスク」を極小化する技術 (THE LEAN SERIES)

リーン顧客開発 ―「売れないリスク」を極小化する技術 (THE LEAN SERIES)

 

 

 

【初心者向け】機械学習をビジネスにつなげる「評価指標」の解説と活用事例

 
本記事は、機械学習が初めての方でも「『評価指標』が何となくわかった気になること」をゴールとします。
 
機械学習における評価指標とは、「どんなモデルを良しとするかのモノサシ」です。
評価指標は、ビジネスと機械学習の成果を結び付けるとても大切な概念です。
しかし、横文字や数式が出てきて、理解を諦めてしまう方も多い気がします。
 
しかし、「評価指標」をちゃんと理解しておかないと「精度9割なのに全く使えない」なんてモデルができてしまうこともあります。
これを避けるため、文系・ビジネスサイド・機械学習初めてのような方を念頭に、機械学習の「評価指標」をなるべく丁寧に解説したいと思います。
 
長いので先に要約すると、こんな感じです。
f:id:f-bun:20190208173648p:plain
 
 

 

(関連エントリ)

 

これだけ理解すれば大丈夫

今回は、機械学習の中でも「分類」と呼ばれる、「売れる/売れない」のような結果のカテゴリを予測するようなケースについて説明します。
 
先に結論を言うと、以下3(+1)つを理解すれば、なんとなく会話はできるようになります。
  • 正答率 Accuracy
  • 適合率 Precision
  • 再現率 Recall
  • (応用編として、F値 F-measure)

前提知識

機械学習(というか数学・統計)の世界では、
「予測が当たった/外れた」の組み合わせを、下図のように分割して名前をつけています。

f:id:f-bun:20190205215051p:plain

・・・が、この絵の時点で混乱する方もいると思います。 

 

シンプルなケース:コピー機の飛び込み営業

そこで、シンプルな例として、ある製品が「売れる/売れない」を予測するモデルを想定します。
 
<ケース> コピーの飛び込み営業
  • コピー機の飛び込み営業
  • どの会社が「売れる」のか「売れない」のかを、機械学習で予測する
  • 過去1年間のデータを使って、予測&答え合せをしてみる
実際の結果は2パターンで「売れる」「売れない」。
予測も当然に2パターンで「売れる」「売れない」。
 
で、予測結果と実際(答え)の組み合わせを表にすると、こう分類できます。
 

f:id:f-bun:20190208173151p:plain



」が正解「×」が不正解ですね。
 
もしわかりにくい方は、インフルエンザの検査も基本的に同じなので
「売れる」→ インフル
「売れない」→インフルじゃない
で置き換えてください。ちなみにこうなります。

f:id:f-bun:20190208174112p:plain
 

なんとなく理解すればOKです。
前提知識は以上です。
 
 

具体的な評価指標と使用場面

冒頭述べたとおり、「評価指標」とは、どんなモデルがいいのか、を測るものさしです。
私のような文系ビジネスサイドがなんとなく思い浮かべる「精度」みたいなものだと思ってください。
ところが、文系が思い浮かべる「精度」には実は何パターンかある、というのがミソです。
 

要約

重複しますが、とりあえず理解するのは以下だけで大丈夫です。
  • 正答率 Accuracy
  • 適合率 Precision
  • 再現率 Recall
  • (応用編として、F値 F-measure)
それぞれについて
---------
-定義
-例えばどういうこと?
-どんな時に使うの?
-弱点は?
---------
あたりを説明していきます。
 
 

正答率 Accuracy

正答率とは
正答率(Accuaracy)とは、「全部のうち、正解したものの率」です。 
 
絵に表すとこんな感じ

f:id:f-bun:20190208173506p:plain

 
例えば
  • 全部で100件
  • 売れると30件予測 → そのうち4件で実際売れた
  • 逆に売れないと予測したのは70件 → そのうち69 件は実際売れなかった(1件は予測に反して売れた)
ならば、正答率は73%(=(4+69)÷100)です。
 
すなわち全体に占める
・予測も実際も『買う』 もしくは
・予測も実際も『買わない』
の割合です。
 
どんな時に使うの?
買う/買わない に偏りがない場合などに使う基本形だそうです。
実際、一見これで問題なさそうですよね。
 
・・・でも、今回のケースでは、使えません。
 
 
弱点は?
正答率は、今回のケースでは、そのまま使えません。
 
だって、とびこみ営業でコピー機買う会社なんて、5%もないから。
そうすると、「全員買わない」と予測すれば「正答率」は95%以上になってしまいます。
 
機械学習を使って、コピー機が売れるかどうか予測できるようになりました!なんと『正答率95%』です!そのモデルによると、、、どこも売れません! 」
とか言われても、ビジネス上は何の役にも立ちません。
 
そこで登場するのが「適合率」です。
 

適合率 Precision

適合率とは
適合率(Precision)とは、今回のケースだと「『売れる』と予測したうち、実際『売れる』人の割合」です。
 
すなわち、絵で表すとこんな感じ。

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例えばこういうこと
  • 売れると30件予測 → そのうち4件で実際売れた
  • 逆に売れないと予測したのは70件 → そのうち69 件は実際売れなかった(1 件は予測に反して売れた)
というケースであれば、適合率は13%(=4÷30)です。
 
「売れる」と予測した先が30件で変わらないなら、
実際売れるのが15件なら、適合率は50%(=15÷30)、
実際売れるのが24件なら、適合率は80%(=24÷30)と高まっていきます。
 
どんな時に使うの?
基本的には「打率を高めたい」時に使います。
裏を返すと、「売れると思ったのに、行ってみたら売れなかったリスト」を極小化するということです。
 
例えば、セールスパーソンの急な退職が続いて、訪問できる件数が限られているなら、
なるべく無駄打ちは少なくしたいはずです。
「ムダ打/ハズレを減らしたい」「打率を高めたい」「リソースが限られている」ケースなどでは、「適合率」は使えそうです。
 
今回のコピー機飛び込み販売のケースでも、「適合率」は結構良さそうです。
 
 
弱点は?
ところが、まだ問題があります。
なぜなら超厳選リストを作ってしまう恐れがあるからです。
 
例えば、
  • 顧客リストが1,000件
  • そこからの契約獲得件数目標が100件
というケースを想定します。そこで
  • 売れると予測した先:10件
  • そのうち実際売れる先:9件
ならば、適合率は90%になります。
確かに適合率は高い。
 
でも、 契約獲得目標が100件なので、あと91契約取らなくちゃいけない。
「残ったリストは990件は売れないと思います!」とか機械学習様に言われても、セールスとしてはアタックするっきゃない。
これじゃ、「機械学習を使ってセールスのアタックリスト作ってます」って世界はとっても遠い。
 
そこで登場するのが「再現率」です。
 

再現率 Recall

再現率とは
再現率(Recall)とは、今回のケースでいうと「実際売れる人全体のうち、事前に売れると予測できた人」です。
すなわち、絵で表すとこんな感じ。

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例えば
  • 売れると30件予測 → そのうち4件で実際売れた
  • 逆に売れないと予測したのは70件 → そのうち69 件は実際売れなかった(1件は予測に反して売れた)
だったら、再現率は、80%(=4÷5)です。
 
ちなみに、実際数字いじってみるとわかりますが、
適合率と再現率はトレードオフの関係(どちらかを上げれば、どちらかが下がる関係)にあります。 
 
どんな時に使うの?
「取りこぼしを最小化したい」時に使えそうです。
 
再現率を高めるということは、
「売れないと思ってアタックしなかったけど、もし行ってたら売れた先」を極小化する指標だからです。
 
「絶対的に獲得件数を増やしたい」「取りこぼしを最小化したい」「リソースや顧客へのアプローチ方法はたくさんある」
みたいなケースで使えそうです。
 
弱点は?
ただ、再現率だけを見るのも問題があります。
全員「売れる」と予測すれば、当然再現率は100%になるからです。
空振りの回数が増えるってことですね。 これまた機械学習の意味なし。
 

応用編:F値・重み付けF値  F-measure

F値とは
応用編ですが、適合率と再現率がトレードオフの関係にあるので、そのバランスをとる「F値」という指標もあります。
数式的には、こんな感じです。

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要は「適合率と再現率の調和平均」です。
・・って言われて分かる方は、この記事読んでいないと思います。笑
 
なので、思い切って「どんな時に使うのか」と「弱点」だけ理解すればいいと思います。
 
どんな時に使うの?
「バランスとってよ」です。
ただ、再現率と適合率をどのバランスで取って欲しいかは、ビジネスによって異なるので、この比重を変えた「重み付けF値」なるものもあります。
ただ、私はこの辺は理解する必要ないと思います。
「『バランスとってよ』って考え方あるんだな」くらいで十分だと思います。
 
弱点は
「バランスとってよ」なので、基本的に良さそうです。
「重み付けF値」なるものなら、さらに良さそうです。
 
ただ、ビジネス実務においては「バランスどこで取るか」って、状況によって結構変わります
なので、比率が固定のF値(重み付けF値)だけをみると、失敗することもあるんじゃないかな、と思います。
 

実際使える一覧表

以上、4つの「評価指標」について解説してきました。まとめるとこんな感じになります。

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ただ、それぞれの評価指標には弱点があります。
なので、状況に応じた使い分けが必要です。
 
また、実際の評価指標はこれ以外にも色々あります。
ただ、「ビジネス上のリクエストを正確にデータサイエンティストに伝える」という意味だと、上記4つ(ないしF値除いた3つ)をしっかり理解しておく方が、圧倒的に重要だと思います。
 
逆に、これさえ理解できていれば「適合率は0.4くらいを死守してほしい。その中で、再現率を限界まで高めてほしい。そんな感じでいける?」みたいな会話ができるようになります。
  
私と同じく機械学習に苦しむ文系ビジネスサイドの方のお役にたてば幸いです。
 
『AIって何? 』『機械学習って?』をもう少し勉強したい方は、こちらの本が大変オススメです。 

マニュアル作成のシンプルな3つのコツ :「わかる」「探せる」「更新しやすい」

この記事の内容

良いマニュアルを決めるたった3つの要素

仕事をしていると、引き継ぎなど様々な場面で「マニュアル」と呼ばれるものに、ちょくちょく出くわすと思います。
 
オペレーションを含むコンサルをしていると色々な会社の「マニュアル」を見る機会があるのですが、良いマニュアルと悪いマニュアルが如実にある。
 
これを分ける要素は、たった3つだと思っています。
 
すなわち、
  • わかる
  • 探せる
  • 更新しやすい
たったこれだけ。
 

要素その1:わかる

 
業務マニュアルは、理解できるものでなくてはなりません。
目的に照らして、当然です。
 
しかし、実務上はこれを満たしていないマニュアルが山ほどあるのです。
 
例えば、
とりあえず業務フローで図示していて「なんかいい感じ」だけど、業務フローの記述ルールがめちゃくちゃなケース。
結局手順が全然わからない。
そもそも業務フローって、見慣れない人には難解極まりない。わけわからんフローで描かれるなら、文字いっぱいで箇条書きにでもしてくれた方がよっぽどマシです。
 

要素その2:探せる

 
そもそも、業務マニュアルは(多くの作り手の意図に反して)、最初から最後まで通読されることはほとんどありません。
あったとしても、せいぜい引き継ぎのタイミングで一回ザクっと読まれるだけです。
あとは実務の局面局面で
「あれ、これってどうやるんだっけ?」と、該当箇所だけを読む使い方の方が圧倒的に多い。
 
マニュアルは、字引きとして使われることの方が多い。
 
なので、良いマニュアルは必要な箇所を「探せる」ことが必須です。
 
そのため、目次や見出しに工夫はもちろん、
業務を発生サイクル(毎日やること/月サイクルで月初にやること とか)ごとにまとめるなどの工夫が、必要になります。
 

要素その3:更新しやすい

 
「業務は、時間の経過を経て変化する」
これは、マニュアル作成者が忘れがちな現実です。
 
業務は変化するので、マニュアルは常に更新され続ける必要があります。
 
更新しにくいマニュアルは
更新しにくい→更新されない→内容が古くなる→使われない というループに陥ります。
結果、最初はどんなに良い内容でも「役に立たない」マニュアルになります。
 
具体的に「更新しやすい」には2つ種類があります。
①更新必要箇所が、すぐ探せる
これは要素その2「探せる」と基本的に同義です。
一つのことに関する記載が、一箇所にまとめてあると、よりベターです。
 
②誰でも更新できるツール・やり方で作られている
これは実務で見落とされがちな要素です。
例えば、Excel・Word文化の組織で、おしゃれにwikiesaでマニュアル作ったところで、全く更新されません。
あるいは、凝った「お絵かき」をしても、後続の人はいじりにくい。
 
結果として、後続の人が更新してくれない、なんて残念なマニュアルをよく見ます。
 

3つをいいバランスで、実現させる

ここで難しいのが
要素その1:わかる
要素その3:更新しやすい
が、ある局面では、トレードオフになりがちだということです。
 
そして、実務上は「わかる」が重要視されすぎるので、
「わかる」を追求しすぎて、細かい記述や図解に寄りすぎて、「更新しにくい」マニュアルがよく見られます。
 
これを正しくやり切るノウハウは、色々あるのですが
まぁ、実際は「いいバランスで」くらいに考えておく、というのが現実解だと思います。
 
何れにせよ、マニュアルは「わかる」だけでは使われません。
「探せる」「更新しやすい」を意識して作成されるべき、というのが持論です。
 

インタビューが盛り上がる、たった3つの言葉

インタビューは有効。だから良いモノにしたい。

企画系の仕事していると、何か課題が発生したり、プロジェクトが始まりそうなタイミングで
 
「とりあえずヒアリングさせてもらっていいですか?」
 
みたいな局面、出くわしますよね。
 
私は、元コンサルで、今も経営企画のような仕事をしているので
「聞く側」として参加することが、圧倒的に多いのですが
たまに、インタビューが全然盛り上がらないタイプの方いますよね。
 
インタビューは、仮説構築・検証のために、とても有益な手法です。
どうせやるなら、いい情報を引き出したい。
 
 

「例えば」「つまり」「他に」の三言でいい:シンプルなコツ

 
コンサル時代に教わった偉大な教えなのですが、
インタビューのとき、困ったら
「例えば」「つまり」「他に」のどれかだけ言ってればいい。
 
 
例えば、こんな感じです。
 
「今の営業組織の課題はなんですか?」
「マネジメントが機能していないことですね」
 
「なるほど。例えば?」
「いや、マネジャーがKPIをちゃんと見てないんですよ。メンバーの商談数を把握していないマネージャーだっているし、結局成果を見て『頑張れ』とか言っているだけになってる」
 
つまり、マネジメント、特にKPI管理ができていないってことですね。」
「そうそう。だって、まともな帳票もないじゃないですか。」
 
「確かに、見たことないかもしれませんね。
 ちなみに、他に課題に感じることはありますか?」
「最近、引き合いの質が下がっている気がしますね。
 マーケチームが頑張って色々な引き合いを取ってきてくれているけど、全然熱くない引き合いが多い。
 結果として、対応するメンバーのモチベーションが落ちてきている気がします。」 

 

つまり、
  • 抽象を具体に落とす「例えば」
  • 具体から抽象へ昇華させる「つまり」
  • ヌケモレや議論の局地化を防ぐ「他に」
という、たった3つの言葉で、インタビューをコントロールできると。
 
 

「なぜ」は落選

この教えの一つのミソは、「なぜ」を敢えて(?)落選させているところだと思います。
 
 
私の解釈では、理由は2つあって
  1. 「なぜ」は、放っておいても大体聞くという経験則
  2. むしろ、「なぜ」を聞きすぎる結果、詰問ぽくなって目的を達しないインタビューが存在するという経験則
だと思っています。
 
「なぜ」が重要なのは超前提。
むしろ控えめでいいくらいだよね、ということ。
 
 

シンプルだから使いやすい

 
世の中に、インタビュー手法に関するノウハウは溢れています。
・まず、対象者の選定方法はカクカクシカジカで。
・準備にあたっては、アジェンダと目的を共有し、対面法の場合は・・・
・冒頭は、アイスブレイクとして・・・
・グループインタビューとデプスインタビューは、気をつけるポイントが違って・・
 
・・・覚えてられない。
 
そんな時に3つだけ
「例えば」
「つまり」
「他に」
手元のノートに書いてインタビューに臨むと、意外とうまく行ったりします。
 

高い目標を絶対達成する人は「1件1件をみる」

 

商品企画やマーケティング、ちょっとしたプロダクトオーナーの仕事も結構やってきました。
前年比1.5倍!2倍!いや3倍だー!みたいな目標も、多少はやってきました。
 
1.5倍とか3倍いう目標だと、今の延長線上には答えがないことが多いので、戦略から大きく見直したりして、どうにか達成しようと頑張ります。
いろいろやる中で気づいた共通原則の一つは、(戦略を見直したりもするんだけど)
「絶対達成する人は『1件1件自分で見る』というオプションを持っている」
です。
 

戦略の正しさは前提

そもそも、これだけ情報が氾濫する時代で、マーケティング戦略とか方向性のゆるい意味での正しさというのは、前提に近いです。
 
超イケてる戦略というのはそんなに出くわさないけど、「大きく間違ってなさそうな戦略」なら大体誰でもたどり着く
 
じゃ、何で差がつくのか。シンプルに実行能力です。
 

仕組みは大切。でも仕組みだけじゃ勝てない。

仕組みは大切

実行能力の構成要素は、シンプルにいうと「オペレーション」と「人材」です。
戦略だけでは差別化が難しいので、オペレーションや人材(狭い意味での人材に加えて組織や日々のマネジメント)設計までできるマーケターはやっぱり強い。
 
そして、オペレーションや人材の問題は
「仕組みで解決する」
というのが定石。ここくらいまでは共通認識だと思います。
 

でも、仕組みだけではダメ

ただ、「仕組みを構築してもうまくいかないケース」を実務上はたくさん見てきました。
 
仕組みが良いのに売れないケース
例えば、セールス戦略を大きく変えて、ターゲットを変えて前年比2倍の成果を狙うマーケティング戦略を立てる。
それにあたっては、定量・定性面から膨大な仮説検証をして、新しいSTPにしたがって、WebマーケティングのワードやLPを変える、それに合わせて営業資料を変える。SFAの入力フォームも変える。
 
でも、売れない。
 
そういうプロダクトオーナーは、大体、商談を「1件1件」ちゃんと見ていない。
「いやいや、俺は見ている」という人も多いと思います。
でも、セールスからの二次情報に頼ってませんか?20件くらいしか見てないんじゃないですか?
 

突き抜ける人は一つ一つみる

本当に突き抜けた成果を出す人は、100件くらいだったら全部自分でディレクションすることができる。
一つ一つちゃんと見に行くから、仕組みに設計者の魂が篭る。
なので、仕組みの設計が多少甘くても、趣旨通りに運用される。
そもそも、完璧な仕組みの構築なんて無理なんだから、魂を吹き込むことの方が、ずっと大事。
 

一つ一つ見ると戦略も磨かれる

そして、少し逆説的ですが一つ一つ細かく見た方が、大きな戦略も良くなることが多いです。
 
これは2つパターンがあります。
 
1つ目は、自分自身が一次情報に触れる中で「あれ、これは想定していなかったな」みたいな気づきが生まれ、そこから拡大して戦略が修正されるケースです。
最初は「あれ」という小さな違和感から、もう一度データを見直してみて「やっぱり」という確信に変わり、戦略修正してやってみたら成果が出て「よっしゃ」となる過程は、ミクロからマクロが繋がる瞬間で、めちゃくちゃ楽しい瞬間でもあります。
 
2つ目は、現場からのフィードバックの精度が上がるケースです。
一つ一つ見るということは、現場との対話に他なりません。
「これはどうなってるの?」の問いから
「なるほど、今回の施策はこういう目的だから、こういう時はこうしていいよ」
「確かに、こういうケースは想定できていなかったね。ちょっとルール修正するね。」
といった風な会話が積み重ねられていくことになります。
これをやっていくうち、戦略の背景にある意図や論理構造が、なんとなく現場にも憑依していきます。
また、「この人は、是々非々で成果を求めている」ということが現場に伝わるようになります。
背景や意図が伝わると、現場と「戦略にとって重要なインプット」の判断軸が揃います。
「是々非々で成果を求めている」ことが伝わると、必要な情報を物怖じせずにあげてくれるようになります
 
こうなってくると、戦略のPDCAの速度・精度が上がり、成果は雪だるま式に増えていきます。
 
 

マクロとミクロを行った来たりする

もちろん、シニアマネージャーになって、自分で全部マイクロマネジメントするのは問題です。というか無理です。
 
ただ、最後の最後、現実を動かすのは1件1件の商談の積み重ねでしかない。
とはいえ、1件1件の徹底は、仕組みだけでは実際は限界があるので、ミドルマネージャーを活用して魂を吹き込まなくてはならない。
 
また、1件1件の商談を指導する営業マネージャーに「そうじゃなくて、仕組みとしてさ・・」みたいな愚痴を言う管理サイドの人がたまにいます。
でも、管理・事業両方やってきている身としては「確かに仕組みは大切。でも、1件1件徹底されていく泥臭い工程も同じくらい大切。」だと思うのです。さらに言うと、100商談くらいまでは「1件1件徹底」だけでどうにかなると思っています。
 
マクロに分析して、最後はミクロで1件1件見る。
そのあとは、マクロとミクロを自在に行ったり来たりする。
 
最後は、1件1件見られる人が、本当は強いと思うのです。
 

 

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