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非人事向け「等級制度」がサクッとわかった気になる (2)能力等級と役割等級

本記事は、非人事の人が「能力等級」と「役割等級」について「なんとなくわかった気になる」ことをゴールにしています。
 
 
別記事で説明した通り、「等級制度」は色々歴史があるのですが、その試行錯誤を経て
今ある等級制度の多くは
  • 能力等級
  • 役割等級
に集約されている気がします。感覚としては7-8割くらい。
 
なので本記事では、それぞれの等級制度について説明していきます。
 
先に雑に要約すると、
  • 能力等級と役割等級のそれぞれ中身は言葉のイメージ通りだが、「人基準」と「仕事基準」という大きな違いがある
  • この差は、マネージャーの昇格降格で具体化されやすい
  • 育成・能力開発には活用しやすいので、グレードに対応する能力をしっかり理解することが大切
といったところをミニマム理解すればいいと思っています。
(いや、色々細かい理屈があるのは重々承知しいているのですが「大雑把にいうと」という話で。)
何れにせよ、等級制度の主な目的は処遇(評価)と育成にあるわけで、その辺を抑えながら運用することが大切そうです。
 
 ※そもそもの「等級制度とは」を知りたい方はこちら↓

 

能力等級制度

能力等級とは

名前の通り、社員の「能力」で等級を分ける仕組みです。
 
スタートアップ界隈でよくある能力等級のイメージとしては
  • グレードⅠ :指示を受けて自身の業務推進できる
  • グレードⅡ :自律的に自身の業務推進できる
  • グレードⅢ :小さなチームを率いて仕事を進めることができる
  • グレードⅣ :グループを率いて仕事を進めることができる
  • グレードⅤ :部を率いて業務を推進できる
みたいな。実際はもっと細かく設定しますが。
 
ポイントとしては「できる」という能力自体が評価基準であって、役職や成果と等級が理屈上は切り離されているということです。
なので、上記の例でも例えば「グレードはメンバーだけど、役職はチームリーダー」「等級上はマネージャー級だけど部下なし」みたいなことが起きます。
 

能力等級制度のポイント① :能力を何で測るの問題

以上の通り、能力で等級を決めるというのが理屈ではあるものの、能力等級において「『能力』ってどうやって測るの?」というのが結局問題になります。
資格試験などで測れる場合を除くと結局仕事の成果ないしアウトプットで測るしかないわけです
 
そして、成果や役割を参考に能力を測ることは否定されないので、人事評価シート上は
「〇〇や△△という成果を出している。その中で〜〜という役割を果たしている。これは、自身の業務を超えて『小さなチームを超えて仕事を進めることができる』能力の証である」
みたいな書き方が鉄板になるんだと思います。
 
ここで、「運用がうまくいかないと年功序列的になってしまう」というのが、
教科書的に指摘される能力等級の問題です。
実際、新卒一括採用の古い会社だとそういう問題が発生しがちなので、後述の役割等級が導入されたりします。
でも、中途部隊で構成されて歴史も浅い(よって年功序列にするほど社歴長い人いない)スタートアップ界隈だと、年功序列になっちゃう問題はあまり発生しない気がします。
 

能力等級制度のポイント② :マネージャーの昇降格対応

また、一旦マネージャーにあげたけど「組織改編でポジション減った」みたいな時に、等級を下げずに組織改編ができるのは能力等級の特徴です(組織改編があっても能力自体が下がるわけでは無いから)。
他方で、一旦マネージャーにあげたけど「ちょっと違った」みたいなケースで降格するとき、グレード上は降格させにくい(給料も下げにくい)というのも能力等級の特徴だと思います。
とはいえ、理屈上はちゃんと降格できますので、結構容赦なしに降格する会社も増えている気がします。
 
ただ、あくまで人の能力が基準で、仕事内容基準じゃない等級制度なので「マネージャーの等級で役職なしが一番得する」みたいな状況は起き得るのも能力等級の特徴です。
これを回避するため、賃金制度の側で「役職手当」などを付けて役職者に報いるなんて制度設計もありますね。
 

能力等級制度のポイント③ :育成へ活用

能力等級だと、「こういう能力を身につけたら基本給が上がる」という構造になります。
なので、能力開発・育成がとてもしやすいです。
結構職種ごとに細かく能力が定義されている会社もあって、そうするとなおさらなのかな、と思います。
(逆にいうと、自分が評価される側の時は、グレード定義に沿った能力開発をすると、昇格しやすくなります)
 

育成・能力開発についてオススメの書籍はこちら↓ 

 

役割等級制度

役割等級とは

役割等級というのは、名前の通り、社員の役割(とそのアウトプット)で等級を分ける仕組みです。
 
例えば、
  • 部長級
  • グループマネージャー級
  • チームリーダー級
  • メンバー級
みたいな。※実際はもっと細かく定義されます。
 
能力等級と一見似ているのですが、
  • 能力等級 →  人基準
  • 役割等級 →  仕事基準
という基本的な考え方の違いがあると説明されます。
 

役割等級のポイント①:マネージャーの昇降格への対応

能力等級と役割等級で、理屈上一番違いが出るのが、マネージャーが役職を外れた(もしくはその逆)の時の対応です。
 
能力等級では、役職を外れたところでその人の能力自体は変わらないので等級は変わらない、というのが原則になります。
それに対して、役割等級では、役職を外れれば(あるいは役職に就けば)役割・仕事が変わるので、当然等級も変わるというのが理屈上の原則になります。
 
でも、役割下がればグレードも給料も下がるという役割等級の原則は、そのままだと不都合なケースも多いと思います。
例えば、組織戦略上2つのチームをまとめたいときに、片方のマネージャーを降格しなくちゃいけなくなる。
これを回避するため、各社色々な工夫をしています。例えば、「マネージャーと同じくらいのミッションを個人で負えるエキスパート」みたいなグレードを用意したり、グレードは下げるんだけど給料減らないように調整手当をいれたり。
 
とはいえ、日本の雇用法制の下、役割等級の弱点が最も分かりやすく露呈するのがこのマネージャーの降格時の対応だと思います。
 

役割等級制度のポイント② :役割の大きさを何で測るの問題

また、能力よりは測りやすそうな「役割」の大きさですが、それでもなお「何で測るの?」問題は残ります。
一般的には「グループマネージャー」「部長」みたいな感じで定義されることが多いですが、XX部の部長とYY部の部長って本当に同列なんだっけ?みたいな。
これは意外と小さな組織でも起きる問題ですね。 

役割等級制度のポイント③ :育成へ活用

「役割」を基準とする役割等級ですが、育成への活用も比較的しやすいです。
というのも「一つ上の役割を今後担ってほしい。そのためには、こんな能力が求められる」と、等級に紐づいた「求められる能力」を定義してあげるだけで、育成のポイントが明確にできるからです。(実際「能力開発項目一覧」みたいなのを用意している会社は多いと思います)
 

補足

補足①:マネジメントラインとエキスパートライン

能力等級にせよ、役割等級にせよ、よくある問題の一つは「マネジメントを志向しないスペシャリストをどう処遇するか」です。
 
マネージャーを志向しない人も多いエンジニアとかでよく発生しがちな問題ですね。(セールスでも同じ現象が発生しうるのですが、そういう場合グレードというより賃金制度でインセンを大きくすることで解決するケースも多いと思います)
 
そこで、マネージャーと同レベルに「エキスパート」と呼ばれる道筋を作って、スペシャリストを処遇することが多いです。
つまり、こんな感じ。

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マネジメントラインとエキスパートライン

補足②:職種別能力(役割)等級

  • グレードⅠ :指示を受けて自身の業務推進できる
  • グレードⅡ :自律的に自身の業務推進できる
  • グレードⅢ :小さなチームを率いて仕事を進めることができる
  • グレードⅣ :グループを率いて仕事を進めることができる
  • グレードⅤ :部を率いて業務を推進できる
等級定義のサンプルとして、↑のようなものを出したわけですが、流石にこれだと大雑把すぎて評価の時に迷ったりするわけです。そうすると細かく書こうという話になる。
 
でも、会社というのは、セールスもいればディレクターやエンジニア、コーポレートスタッフもいるわけで、統一的にこれ以上ブレイクダウンするのは至難の技だったりします。
 
そんな時には、セールスとかエンジニアとかいう職種別に能力(もしくは役割)がブレイクダウンされたりすることはよくあります(だいたいこのブレイクダウンを作る段階で事業部側が人事制度作りに巻き込まれる。で混乱が始まる。笑)。
この辺はあんまり細かくしても運用が追いつかないので「いい塩梅」が求められるポイントかと思います。
 

補足③:入学方式と卒業方式

特に能力等級で注意したいのは、紙に書いてあるグレード定義が、そのグレードの「入学」の条件なのか「卒業」の条件なのか、という点です。
 
例えば、
  • グレードⅡ :自律的に自身の業務推進できる
  • グレードⅢ :小さなチームを率いて仕事を進めることができる
という定義だった時に、グレードⅡ→Ⅲに上がるときに
  • 「自律的に自身の業務推進できる」(Ⅱを満たす)能力を示せばⅢに上がれるのか(卒業方式)
  • 「小さなチームを率いて」ができる(Ⅲを満たす)能力を示さないとⅢに上がれないのか(入学方式)

という違いです。

実際上は「入学方式と卒業方式ってそんな綺麗に分けられるんだっけ?」という問題はあるのですが、まぁ、この辺の理屈を理解しておかないと能力開発目標がとんちんかんになりますし、自分が昇格したい/部下を昇格させたい時に、的外れな推薦をしてしまうので、知っていて損はないと思います。

 

まとめ

以上、「能力等級」と「役割等級」について簡単に説明してきました。
 
色々理屈はあるのですが、非人事の現場マネージャー・メンバーとしては
  • 能力等級と役割等級のそれぞれの中身は言葉のイメージ通りだが、「人基準」と「仕事基準」という大きな違いがある
  • この差は、マネージャーの昇格降格で具体化されやすい
  • 育成・能力開発には活用しやすいので、グレードに対応する能力をしっかり理解することが大切
といったところだけ踏まえれば、いい気がしています。
 
何れにせよ、等級制度の主な目的は処遇(評価)と育成にあるわけで、その辺を抑えながら運用することが大切そうです。