本記事は、人事じゃない人が「人事評価制度」について「なんとなくわかった気になる」ことをゴールにしています。
別記事 で解説の通り、「評価制度」は「等級制度」「賃金制度」と並んで、人事制度の根幹をなすものです。
以下では、人事制度の目的、現場での運用上のポイントについて、解説をしていきます。
評価制度の目的
評価制度が何のためにあるかは、評価結果が何に使われるか、という観点で考えるとわかりやすいです。
教科書的には色々あるところと思いますが、非人事の現場としては、まず以下3点を押さえておきたいところです。
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給料を決める
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等級を決める
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人材育成・能力開発
人事評価の目的① :賃金を決める
人事評価の目的の一つは、賃金を決めることです。
ここで、評価結果が賃金に影響するメカニズムは大きく2つあることを理解することが大切です。
1つ目は、評価結果がそのまま賃金に返ってくるパターン。
例えば、賃金制度として成果給や業績給を導入している場合、人事評価の結果として「150%達成のS評価。なのでボーナスXX万円」みたいな感じで、直接的にお給料が変わってきます。
これはわかりやすいパターン。
2つ目は、等級の昇格降格を通して、賃金に返ってくるパターン。
これについては後述します。
人事評価の目的② :等級を決める
人事評価は、直接的に給料を決めるだけでなく、(給料以外にも配置の決定などに使われる)等級を決めるためにも使われます。
「人事評価の結果、昇級した」ってのはこれですね。
人事評価の目的③ :人材育成・能力開発
評価を人材育成に使う、というとちょっと違和感がある人もいるかもしれません。
が、評価制度の重要な目的の一つは、人材育成・能力開発です。
これは、人事評価というプロセスを考えてみるとわかりやすい。
多くの人事評価は、期初に目標を立てて、それに対する達成度を評価する、という形で行われます。
で、この前半の「目標を立てる」というプロセスを通して、上司と部下は
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現時点での能力や成果に対する見立て
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今後期待したい/求められる能力開発や役割、成果
をすり合わせていきます。そして、その目標に向かって努力し、期末に評価をしてフィードバックをする。
このサイクルを回していくことで、評価制度は人材育成に活かされます。
以上のうち、①②は広い意味での「処遇」に括れますので、図示するとこんな感じになります。
評価制度を運用する上で、知っておいた方が良い知識群
人事評価というのは、メンバーにとってもマネージャーにとっても、およそ組織人にとって重要な関心事です。
関心ありすぎるゆえに、みんな納得するように運用というのはメンバーもマネージャーも難しいです。が、そんな失敗を人類は百年以上繰り返してきたわけで、その中で抽出された経験則とか原理原則みたいなものが存在します。
難しい理論はさておき、こういうのをTIPS的に知っていると現場的には結構役立ったりします。
なぜ、目標設定が必要なのか
そもそも、人事評価は目標設定とセットで「目標に対する達成度」的な形をとることが多いです。
MBO(Management By Objectives)とか言ったりするのですが、多分これに対する一番本質的な問いは「目標って本当に必要?」だと思います。
これに対する答えは、2つあります。
①会社と個人で目標の方向を揃えるため(少なくとも相互認識するため)
②人間って、目標があったほうが頑張って結果として成果が出るから
これだけでも熱く語れるテーマですが、評価制度がうまく運用されない背景には、「そもそもなぜ目標セットするんだろう?」というそもそも論が腹落ちできていないケースが多いです。ですので、そこに対してまずは自分なりの解を出すことが肝要です。
目標設定の基本
目標設定の仕方の鉄板といえば”SMART” です。
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Specific :具体的
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Measurable :測定可能
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Achievable :達成可能な
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Related :上位目標に関連した
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Time-bound:期限が定められている
上記を意識することで、良い目標が立てられる、というフレームワークです。
このフレームワークについては、いろんなところに解説記事がありますね。
まぁ、暗記する必要はなく、目標設定の時に「なんかSMARTってフレームワークあったな」ってググれるレベルで知っておけば十分な気がします。
よくある運用ミス:「評価エラー」
人事評価の運用にあたっては、以下のような運用上のミスが知られており、
「評価エラー」と呼ばれています。これらを「知っていて、意識する」だけでも結構評価運用のミスは防げます。
ハロー効果
一つの象徴的な良いこと/悪いことに引きずられて、ある個人の評価が全体としての良く/悪くなること。
超有名企業を受注したからって、他の商談のスキルも高いとは限らない。
一つの事実でたくさんの項目を評価しているときは、「ハロー効果」が起きている可能性が高いので要注意
寛大化/中心化/厳格化傾向
実際の評価基準に照らさずに、メンバー全体を全体的にゆるく/真ん中あたりに寄せて/厳しく評価してしまうこと。
寛大化は、部下に嫌われたくないなどの動機で起こりがち。
中心化は、事なかれ主義だったり自分の評価に自信がないと起こりがち。
厳格化は、厳しい上司や昇進したての管理職で起こりがち。
イメージ評価
事実に基づかず、イメージで評価してしまうこと。
評価1つ1つに事実をつけるようにすれば結構回避できる。
期末効果
評価を行う期末に近い出来事に評価が引っ張られること。
人間最近起こったことの方が印象強いですもんね、という話。
アンカリング
最初に示された評価が、基準となってしまうこと。
例えば、自己評価で「S」ってつけられるとCとかDつけにくくて、「B」で妥結しちゃうことありますよね。
でもこれって、本当は変じゃないですか。評価は客観的であるべきなのに、最初に言ったもん勝ちみたいな。
人事評価というのは、評価する側/される側のすり合わせプロセスも重要ですので、そこは大変だけどちゃんとフィードバックして認識を合わせましょうね、という話です。
現場で使える3つのポイント
以上のように、評価制度に関する理屈や方法論は色々あります。
が、個人的には以下3つに気をつけるだけで、相当運用が楽になると思っています。
評価する側/される側ともに使えるノウハウです。
ポイント①:期初の段階で「こうなったらB評価だよね」を握っておく
結局、評価の段階ではなく、目標を立てた段階で評価する側/される側がどれだけすり合っているかが評価制度の肝だと思うのです。
なので、目標設定ミーティングの段階で、目標設定だけでなく
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期末でこんな感じになってたら、文句なしにS評価をつけるよ
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逆にこんな感じだったら、B評価にされても文句言えないよね
みたいに、評価されるタイミングまで視点を飛ばして評価する側/される側で目線を合わせておくと、期末の評価がとっても楽になる気がします。
ポイント②:期初 に「現時点での見立て」を揃える。
ポイント①と関連して、そもそも期初の時点で「今の時点での立ち位置はココ」というのが揃っていないと目標設定もクソもありません。
例えば、「いま自分はグレードⅣで処遇されているが、それに納得していない」のか「いま自分のグレードはここで適切だと思う」なのかで目標設定の出発点はだいぶ変わってきます。
意外とこのポイントを理解していない人が多いのですが、目標設定の前提として「現時点での見立て」をしっかり揃えることが大切です。
ポイント③:S評価には、A評価じゃない理由を書く
コンサル時代に習った評価のtipsで、事業会社に来て一番役に立ってるのがこれです。
SMARTとか言っても、結局定性的な評価は残るのですが
特に定性的な目標について、S評価をつける時は「A評価だとダメな理由/Aを超えている理由」を書くようにすると、とっても納得感が出ます。
B評価をつける時は、AでもCでもない理由をつける。
これは、等級を説明するときも応用できる考え方ですね。
この「A評価じゃない理由」を考えることで、自分の評価を客観的に見ることもでき、評価の納得感がとても高まると思います。
以上、評価の現場で困る方々のお役に立てば幸いです。