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「カスタマーサクセス」とは、3つの意味・概念を含む言葉である

青本」のヒットもあり、SaaS界隈を中心に一般的な用語になりつつある「カスタマーサクセス」。
色々なところに定義が転がっていますが、『「カスタマーサクセス」とは、実はまったく異なるが密接に関わる3つの意味合いで使われる言葉だ』ということは、意外と浸透していない気がします。
 

カスタマーサクセスは3つの概念を含む

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「カスタマーサクセス」の3つの意味合い
前提扱いなのか、なんかあまり引用される機会少ない気がするのですが、
実は、カスタマーサクセスの教科書である通称「青本」には以下の記載があります。
「カスタマーサクセス」という言葉を使うとき、そこはまったく異なるものの密接に関係する3つの概念がある。
①組織
②原理原則
③理念

 「まったく異なる」が「密接に関係する」というのもポイント。

この3つの概念で捉えることで、世の中で使われている「カスタマーサクセス」という言葉をしっかり理解できると思います。

①「組織」としてのカスタマーサクセス

「カスタマーサクセス」という言葉には、組織としての側面があります。
 
これはもうシンプルで「カスタマーサクセス部」「カスタマーサクセスチーム」とかと呼ばれる組織です。
 
「営業とカスタマーサクセスのつなぎ」「カスタマーサクセスに迷惑かかる」とか言うときは、組織としてのカスタマーサクセスですね。
 
リテンション率とLTVを最大化することを目的として、カスタマーエクスペリエンスに特化した組織のことです。
 

②「原理原則」としてのカスタマーサクセス

「カスタマーサクセス」という言葉には、原理原則としての側面があります。
 
例えば、
  • タイムトゥバリューが大切
  • カスタマーヘルススコアを見る必要がある
  • 正しい顧客に売る
とか、要は青本に10の原則として書かれているような事項です。
 
「カスタマーサクセスのやり方に即してないよね」とか言うときは、原理原則としてのカスタマーサクセスを指しています。
 

③「理念」としてのカスタマーサクセス

「カスタマーサクセス」という言葉には、理念としての側面があります。
 
これは「顧客の成功と自社の成功を重ねる」というような意味で、
社長が「当社でもカスタマーサクセスを推進したい」とか言ってるときは、理念としてのカスタマーサクセスを指していることが多いですね。
 

カスタマーサクセスじゃない人にこそ理解してほしい「カスタマーサクセス」の意味

というわけで、
「カスタマーサクセス」という言葉には
  • 組織
  • 原理原則
  • 理念
という3つの側面があります。そしてこの3つは青本によると、「まったく違う」ものの「密接に関係する」、というのもポイント。
 
カスタマーサクセスに直接関わっている人やしっかりしたSaaSでセールスとかしている人は、少なくとも直感的にこの3つの概念を理解していると思います。
例えば、SaaSでセールスマネージャーをしている人が、最近「SaaSのセールスで活躍する人は?」の問いに「カスタマーサクセスできる人」と答えているのを見ました。
このやり取りでの「カスタマーサクセス」は、「原理原則」としてのカスタマーサクセスであり、あるいは「組織」や「理念」としてのカスタマーサクセスでもあり、3つの側面が密接不可分であることをよく表していると思います。
 
だけど、ぜんぜん違う業界からセールスとして転職してきた人とか、今いる会社に突然「カスタマーサクセスチーム」ができた人からすると、この違いはちょっとわかりづらい。
 
なので、事業部長が
「うちの事業部も今期は(理念としての)カスタマーサクセスに注力していきたい!」
とか言っても、セールスメンバーは
「俺は関係ないや。(組織としての)カスタマーサポートに投資すんのかな?」
くらいに思いがち。
 
でも、そうじゃない。
カスタマーサクセスは理念であり原理原則でもあるので
カスタマーサクセスを推進するときは、マーケやセールスなど他部署も当事者としてまさに「トップダウンかつ全社で」推し進める必要がある。
 
こういうやりとりの為にも、青本とかに載ってる方法論以前に、「カスタマーサクセスは3つの側面を持つ」という共通理解が必要だと思うのです。
カスタマーサクセスとは何か――日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」

カスタマーサクセスとは何か――日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」

 
THE MODEL(MarkeZine BOOKS) マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス
 

 

【解説】「世界一やさしい問題解決の授業」を問題解決・ロジカルシンキングの本としてオススメする理由

 
ロジカルシンキング・問題解決でオススメの本は?」というのは世の中でよくされる質問の一つだと思います。
 
色々答えがあっていいと思うのですが、自分としてはまずは「世界一やさしい問題解決の授業」と答えるようにしています。
 
<目次>
世界一やさしい問題解決の授業―自分で考え、行動する力が身につく

世界一やさしい問題解決の授業―自分で考え、行動する力が身につく

 

 

要約 「世界一やさしい問題解決の授業」とはどんな本か

「世界一やさしい問題解決の授業」は、元マッキンゼーの渡辺健介さんがロジカルシンキング・問題解決の考え方を中高生にもわかるように解説した本です。
 
目次としては
1限目 問題解決力を身につけよう
2限目 問題の原因を見極め、打ち手を考える
3限目 目標を設定し、達成する方法を考える

 の3つの章からなる、正味100ページほどの本です。

中身としては

  • 中学生バンドが客を集めるには?
  • 中学生がパソコンを買うには?
みたいな具体的なケースを使って、問題解決・ロジカルシンキングの基本を教えています。
 
約100ページ(しかも空白や絵が多く文字少ない)の薄い本ですが、MECE・ロジックツリーなどの基本は十二分に押さえられています。
2007年の発行以来、30刷以上を重ねる大ベストセラーです。
 

「世界一やさしい問題解決の授業」がオススメの3つの理由

ロジカルシンキング・問題解決でオススメの本は?」という質問に対して、「世界一やさしい問題解決の授業」がオススメな理由は大きく3つあります。
  • 薄くてわかりやすい
  • 内容的には十分で、10年以上支持され続けている
  • そもそも本で身につけられる「問題解決・ロジカルシンキング」には限界がある(実践が重要)
以下、順に説明していきます。
 

理由1: 薄くてわかりやすい

この本、分量が少ない上にわかりやすいので普段読書習慣がない人でも2時間くらいで読めるんじゃないかと思います。
 
そもそも「ロジカルシンキング・問題解決でオススメの本は?」という問いに対する答えを本当に必要としている人って、
普段から本を読んでインプットする習慣があまりない人が多いと思うんです。
 
「毎月ビジネス書20冊読みます!」って人から「ロジカルシンキング・問題解決でオススメの本って何ですか?」って本気で聞かれることって想像できなくないですか?
 
あまり本を読む習慣がない人に厚い本・難しい本を勧めても、高確率で挫折してしまいます。控えめに言って、読むのにとても時間がかかることが多い。
 
(余談ですが、たくさん本を読む人にとっての「厚い・難しい」と本を読まない人の「厚い・難しい」の基準は全然違います。 150ページ以上の本は「厚い・難しい」判定される率が高い。「本好きな上司・同僚が本を読まない部下・同僚に『この本オススメだよ』って本を貸したけど数週間以上返ってこない。結果読んでもいない」って現象、周りにありませんか?)
 
だったら、薄くてわかりやすい「世界一やさしい問題解決の授業」をまず読んで実践して、興味を持った人だけが次の一冊に進めばいいと思うのです。 
1-2時間で読み終わるので、何日も読み終わらなくて「あーあの本読めてないなー」とストレスを抱えることもない。
 
しかもこの本、万一途中の第2章までで挫折しちゃっても問題解決の基本はなんとなく押さえられるという優れものです。これだったら1時間で行ける。
 

理由2: 内容的には十分 (10年以上支持され続けている)

もちろん、ただ薄いだけの本ではオススメできません。内容が十分でないといけない。
 
その点、「世界一やさしい問題解決の授業」は、ロジックツリーやMECE、さらには実行計画の立て方や課題分析の仕方といった内容もしっかりと押さえており、「基礎的な内容はこれで十分」と言える内容です。
 
10年以上前に出版され、その間色々な人の目に晒されながらも今もなおamazonのカテゴリ上位に名を連ね続けていることが、流行に左右されず良い意味で基礎的な内容を押さえていることの表れだと思います。
 
薄くてわかりやすい本は他にもあるのですが、
「10年以上(時代が変わり、いろいろな人の目に触れてもなお)売れ筋のまま生き残っている」
というのが、この本を自信を持ってオススメできるポイントだと思っています。
 

理由3: 本で身につけられる「問題解決・ロジカルシンキング」には限界がある(実践が重要)

「オススメ本は?」という質問に対して若干身も蓋もないことを言うのですが、
そもそも問題解決・ロジカルシンキングって「知ってる」と「できる」に結構大きな溝があると思うんです。
知識をインプットした上で、実践に実践を重ねて少しずつ身についてくるものです。
例えば"MECE"って言葉を知っている人は世の中にたくさんいますが、実際のケースで意味あるMECEな切り口で分析・問題解決できてる人って少なくないですか?
 
この溝を埋めるために、本を読んだ上で素早く実践に移る必要があります。
 
「オススメ本は?」と聞く以上、その瞬間は実際何か実務で不自由を感じている熱量のある状態のはずなのですが、
上述の通りロジカルシンキングの「名著」と呼ばれる本は難しかったり長いものが多く、本を読むのに慣れていない人は時間がかかる。
結果として、本当に大切な実践まで熱量を保てない。
 
だったら、素早く「世界一やさしい問題解決の授業」で基本をインプットして実践に移った方がいいと思うのです。
 

迷ったら「世界一やさしい問題解決の授業」

世界一やさしい問題解決の授業―自分で考え、行動する力が身につく

世界一やさしい問題解決の授業―自分で考え、行動する力が身につく

 

 そんなわけで

  • 薄くてわかりやすい
  • 内容的には十分で、10年以上支持され続けている
  • そもそも本で身につけられる「問題解決・ロジカルシンキング」には限界がある(実践が重要)
の3点から「世界一やさしい問題解決の授業」はオススメです。
 
問題解決やロジカルシンキングの名著はいくらでもあります。例えば、
 
でも、↑の本を読んで理解できる人ってそもそも「ロジカルシンキング・問題解決でオススメの本は?」って質問に切実に困ってる人とはちょっと層が違う気がするのです。
こういう本を読んで理解・実践できる人は、ネット情報とかから勝手に自分で本を見つけて読んでることが多い気がする。
 
そして、問題解決・ロジカルシンキングって「知ってる」と「できる」の間に結構大きな溝があります。
本を読んだだけで身につくほど簡単なものではなく、実践に実践を重ねて少しずつ身についてくるもの。
素早くインプットして、アウトプットにつなげるという意味でも「世界一やさしい問題解決の授業」はオススメです。

関連記事 

 とはいえ他の本も探したい方へ

 

非人事向け 賃金・給与制度がサクッとわかった気になる記事

本記事は、人事じゃない人が「賃金制度」「給与制度」について「なんとなくわかった気になる」ことをゴールにしています。
 
別記事で解説の通り、「賃金」は「等級」「評価」と並んで、人事制度の根幹をなすものです。
以下では、賃金制度の仕組みについて、主に「給料がどうやって決まるのか」という観点から解説をしていきます。
 

賃金の4つの要素

実は賃金制度というのは色々な説明があって、意外と「これがスタンダード!」的な体系の説明がない気がします
 
その前提で、私は以下の4つに分けるとわかりやすいんじゃないかな、と思っています。
  • 基本給と残業代
  • 賞与
  • 手当
  • その他
 
そして、もう一つ重要なポイントは、給与制度は上記のいろいろな仕組みの「組み合わせ」だということです。
以下、それぞれについて解説していきます。
 

基本給と残業代

基本給というのは、「月20万円」のように、基本的に毎月支給額が決まっている給与です。
基本給はどうやって決まるかというと、多くの場合、等級制度で決まった等級(グレード)によって決まります。
言い方を変えると、
  • 等級制度が「能力」等級なら、基本給は「能力」で決まる
  • 等級制度が「役割」等級なら、基本給は「役割」で決まる
これは働いていれば、なんとなくわかる話ですね。
 
そして残業代は、基本給とセットで考えた方が覚えやすいと思っています。
理由は2つありまして、
1つ目は、そもそも残業代は、基本給から時給を計算して、それに割増分を掛け算して算出されるものだから。
2つ目は、スタートアップ界隈だと「みなし残業」がめっちゃ多くて(是非はともかく)、基本給と残業代を分けて考えること自体少ないから。
 
そんなこんなで、等級とセットで決まるものとして、基本給と残業代があります。
 

賞与

賞与というのは、年1-2回程度支給される賃金です。要はボーナス。
 
賞与の決まり方は大雑把に2つあります。
 
1つ目は、個人のパフォーマンスによって決めるやり方。
例えば、能力等級や役割等級をベースとしている会社だと、個人の業績・成果を人事評価を経てボーナスとして支給することが多いですね。
  • 今年は個人目標を130%達成した →賞与10万円
  • 今年は個人目標は75%で未達   →賞与5万円
みたいな。
(セールスとかだと個人のパフォーマンスを月次の給与に反映させるところもあって、これは基本給とか手当に近い扱いになるかと思います。)
 
2つ目は、会社や組織のパフォーマンスによって決めるやり方。
  • 会社(事業部)の業績が良い → ボーナスはドンと5ヶ月分
  • 会社(事業部)の業績が悪い → ボーナスはなし
みたいな。
(この場合も「●ヵ月分」のベースになる1ヵ月分の給与は基本給(←等級で決まる)なので、等級によって決まっている部分は大きいですね。)
 
多くの会社は上記2つ(個人の業績と組織の業績)を組み合わせて使っているような気がします。
 

手当

手当は、3つに分けるとわかりやすい気がします。
 
1つ目は、実質的に基本給とセットになるものです。
例えば、能力等級の会社で「役職手当」が支払われているケースとか。これは、能力等級の弱点を補うために基本給的な性格で支給されている意味合いが非常に強いです。
セールスにインセンティブを手当として毎月払うようなケースも、変動の大きい基本給というイメージですね。
 
2つ目は、福利厚生的な意味合いのもの。
例えば、住宅手当、家族手当、自転車通勤手当・・。こういった手当は、従業員の生活を保証する福利厚生的な意味合いが強いです。
(より厳密にいうと、給料の決め方に能力給とかの他に「生活給」って考え方があって、それに基づくものだったりします。が、まぁ大雑把に福利厚生でいったんいいと思います。ベンチャーでよく見る「近距離限定の住宅手当」と大企業の「住宅手当」はちょっと意味合い違うし。)
こういった手当は、一定の人事政策的な意味合い(例えば、長く努めてほしい、健康に過ごしてほしい、、、)を受けて設定されることが多いです。
 
3つ目は、必要経費の建て替え的性質のもの。
通勤手当、交通費ですね。会社命令で単身赴任させる時の住宅手当などもこの意味合いが強いと思います。
 

その他の報酬制度

ストックオプション、退職金、企業年金、従業員割引など
これらは、会社によって有無が激しい。
福利厚生的意味合いのものもあれば、労働力の前借り的な意味合いを持つものもある。
この辺は、一つ一つの施策の意味を読み解くことが大切ですね。
 

重要な「比率」の話

そして、冒頭述べたとおり、多くの給与制度は上記のいろいろな仕組みの組み合わせです。
実際自分の給与明細を見てみれば、以上の「組み合わせ」で給与が決まっているということがわかると思います。
そして、押さえておきたいポイントはその会社における「比率」です。
 
例えば、私がコンサル会社にいた時は、その年にあげた成果(売上)によって数百万円単位で年収(ボーナス)が変動する世界で生きていました。「個人成果と連動する賞与の比率が極めて高い」賃金制度だったわけです。
等級制度は役割等級ベースではあったのですが、自分のグレードの売上ノルマをクリアしないと次のグレードにチャレンジさえさせてもらえませんでした。
プロフェッショナルファームとして、結果責任的・成果主義の考え方が徹底されており、給料あげたいと思ったら成果上げることが全てだったわけです。
 
他方で、事業会社に移ってからは能力等級や役割等級の中で生きています。そして、「成果連動型の報酬はなかったり、あっても比率がすごく少ない世界」の中で生きています。
能力を測るにあたって、その人が出している成果を見ることは見るのですが、
特にマネージャーにあげる時などは「マネジメントできる能力があるか」というところを結構シビアに見ることが多いです。そうなると、単純に個人として成果を出していれば給料を上がるという構造でもなくなってくる。
 
こういったわけで、自分の会社が以上の考え方をどういう比率でミックスした賃金制度にしているかを見るのはとても大切だと思うのです。
 

まとめ

以上の通り、賃金制度・給与制度について簡単にまとめました。
つまり、以下の4つに分けるとわかりやすいんじゃないかな、という話。
  • 基本給と残業代
  • 賞与
  • 手当
  • その他
 
加えて、以上をどういう比率でミックスしているかが重要だという話。
 
そして、以上の話で概ね理解いただけたと思うのですが、等級制度・評価制度が前提となっているので、それらとセットで全体像を持って理解することが特に重要です。
 
以下の記事も参考になれば幸いです。

非人事向け「人事評価」がサクッとわかった気になる記事

本記事は、人事じゃない人が「人事評価制度」について「なんとなくわかった気になる」ことをゴールにしています。
 
 
別記事 で解説の通り、「評価制度」は「等級制度」「賃金制度」と並んで、人事制度の根幹をなすものです。
以下では、人事制度の目的、現場での運用上のポイントについて、解説をしていきます。
 

評価制度の目的

評価制度が何のためにあるかは、評価結果が何に使われるか、という観点で考えるとわかりやすいです。
教科書的には色々あるところと思いますが、非人事の現場としては、まず以下3点を押さえておきたいところです。
  • 給料を決める
  • 等級を決める
  • 人材育成・能力開発
 

人事評価の目的① :賃金を決める

人事評価の目的の一つは、賃金を決めることです。
ここで、評価結果が賃金に影響するメカニズムは大きく2つあることを理解することが大切です。
 
1つ目は、評価結果がそのまま賃金に返ってくるパターン。
例えば、賃金制度として成果給や業績給を導入している場合、人事評価の結果として「150%達成のS評価。なのでボーナスXX万円」みたいな感じで、直接的にお給料が変わってきます。
これはわかりやすいパターン。
 
2つ目は、等級の昇格降格を通して、賃金に返ってくるパターン。
これについては後述します。
 

人事評価の目的② :等級を決める

人事評価は、直接的に給料を決めるだけでなく、(給料以外にも配置の決定などに使われる)等級を決めるためにも使われます。
「人事評価の結果、昇級した」ってのはこれですね。
 

人事評価の目的③ :人材育成・能力開発

評価を人材育成に使う、というとちょっと違和感がある人もいるかもしれません。
が、評価制度の重要な目的の一つは、人材育成・能力開発です。
 
これは、人事評価というプロセスを考えてみるとわかりやすい。
多くの人事評価は、期初に目標を立てて、それに対する達成度を評価する、という形で行われます。
で、この前半の「目標を立てる」というプロセスを通して、上司と部下は
  • 現時点での能力や成果に対する見立て
  • 今後期待したい/求められる能力開発や役割、成果
をすり合わせていきます。そして、その目標に向かって努力し、期末に評価をしてフィードバックをする。
このサイクルを回していくことで、評価制度は人材育成に活かされます。
 
 
以上のうち、①②は広い意味での「処遇」に括れますので、図示するとこんな感じになります。

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評価制度の目的
 

評価制度を運用する上で、知っておいた方が良い知識群

人事評価というのは、メンバーにとってもマネージャーにとっても、およそ組織人にとって重要な関心事です。
関心ありすぎるゆえに、みんな納得するように運用というのはメンバーもマネージャーも難しいです。が、そんな失敗を人類は百年以上繰り返してきたわけで、その中で抽出された経験則とか原理原則みたいなものが存在します。
難しい理論はさておき、こういうのをTIPS的に知っていると現場的には結構役立ったりします。
 

なぜ、目標設定が必要なのか

そもそも、人事評価は目標設定とセットで「目標に対する達成度」的な形をとることが多いです。
MBO(Management By Objectives)とか言ったりするのですが、多分これに対する一番本質的な問いは「目標って本当に必要?」だと思います。
 
これに対する答えは、2つあります。
 ①会社と個人で目標の方向を揃えるため(少なくとも相互認識するため)
 ②人間って、目標があったほうが頑張って結果として成果が出るから
これだけでも熱く語れるテーマですが、評価制度がうまく運用されない背景には、「そもそもなぜ目標セットするんだろう?」というそもそも論が腹落ちできていないケースが多いです。ですので、そこに対してまずは自分なりの解を出すことが肝要です。
 

目標設定の基本

目標設定の仕方の鉄板といえば”SMART” です。
  • Specific :具体的
  • Measurable :測定可能
  • Achievable :達成可能な
  • Related :上位目標に関連した
  • Time-bound:期限が定められている
上記を意識することで、良い目標が立てられる、というフレームワークです。
 
このフレームワークについては、いろんなところに解説記事がありますね。
まぁ、暗記する必要はなく、目標設定の時に「なんかSMARTってフレームワークあったな」ってググれるレベルで知っておけば十分な気がします。
 

よくある運用ミス:「評価エラー」

人事評価の運用にあたっては、以下のような運用上のミスが知られており、
「評価エラー」と呼ばれています。これらを「知っていて、意識する」だけでも結構評価運用のミスは防げます。
 
ハロー効果
一つの象徴的な良いこと/悪いことに引きずられて、ある個人の評価が全体としての良く/悪くなること。
超有名企業を受注したからって、他の商談のスキルも高いとは限らない。
一つの事実でたくさんの項目を評価しているときは、「ハロー効果」が起きている可能性が高いので要注意
 
寛大化/中心化/厳格化傾向
実際の評価基準に照らさずに、メンバー全体を全体的にゆるく/真ん中あたりに寄せて/厳しく評価してしまうこと。
寛大化は、部下に嫌われたくないなどの動機で起こりがち。
中心化は、事なかれ主義だったり自分の評価に自信がないと起こりがち。
厳格化は、厳しい上司や昇進したての管理職で起こりがち。
 
イメージ評価
事実に基づかず、イメージで評価してしまうこと。
評価1つ1つに事実をつけるようにすれば結構回避できる。
 
期末効果
評価を行う期末に近い出来事に評価が引っ張られること。
人間最近起こったことの方が印象強いですもんね、という話。
 
アンカリング
最初に示された評価が、基準となってしまうこと。
例えば、自己評価で「S」ってつけられるとCとかDつけにくくて、「B」で妥結しちゃうことありますよね。
でもこれって、本当は変じゃないですか。評価は客観的であるべきなのに、最初に言ったもん勝ちみたいな。
人事評価というのは、評価する側/される側のすり合わせプロセスも重要ですので、そこは大変だけどちゃんとフィードバックして認識を合わせましょうね、という話です。
 

現場で使える3つのポイント

以上のように、評価制度に関する理屈や方法論は色々あります。
が、個人的には以下3つに気をつけるだけで、相当運用が楽になると思っています。
評価する側/される側ともに使えるノウハウです。
 

ポイント①:期初の段階で「こうなったらB評価だよね」を握っておく

結局、評価の段階ではなく、目標を立てた段階で評価する側/される側がどれだけすり合っているかが評価制度の肝だと思うのです。
なので、目標設定ミーティングの段階で、目標設定だけでなく
  • 期末でこんな感じになってたら、文句なしにS評価をつけるよ
  • 逆にこんな感じだったら、B評価にされても文句言えないよね
みたいに、評価されるタイミングまで視点を飛ばして評価する側/される側で目線を合わせておくと、期末の評価がとっても楽になる気がします。
 

ポイント②:期初 に「現時点での見立て」を揃える。

ポイント①と関連して、そもそも期初の時点で「今の時点での立ち位置はココ」というのが揃っていないと目標設定もクソもありません。
例えば、「いま自分はグレードⅣで処遇されているが、それに納得していない」のか「いま自分のグレードはここで適切だと思う」なのかで目標設定の出発点はだいぶ変わってきます。
意外とこのポイントを理解していない人が多いのですが、目標設定の前提として「現時点での見立て」をしっかり揃えることが大切です。
 

ポイント③:S評価には、A評価じゃない理由を書く

コンサル時代に習った評価のtipsで、事業会社に来て一番役に立ってるのがこれです。
SMARTとか言っても、結局定性的な評価は残るのですが
特に定性的な目標について、S評価をつける時は「A評価だとダメな理由/Aを超えている理由」を書くようにすると、とっても納得感が出ます。
B評価をつける時は、AでもCでもない理由をつける。
これは、等級を説明するときも応用できる考え方ですね。
この「A評価じゃない理由」を考えることで、自分の評価を客観的に見ることもでき、評価の納得感がとても高まると思います。

  

以上、評価の現場で困る方々のお役に立てば幸いです。
 

非人事向け「等級制度」がサクッとわかった気になる (2)能力等級と役割等級

本記事は、非人事の人が「能力等級」と「役割等級」について「なんとなくわかった気になる」ことをゴールにしています。
 
 
別記事で説明した通り、「等級制度」は色々歴史があるのですが、その試行錯誤を経て
今ある等級制度の多くは
  • 能力等級
  • 役割等級
に集約されている気がします。感覚としては7-8割くらい。
 
なので本記事では、それぞれの等級制度について説明していきます。
 
先に雑に要約すると、
  • 能力等級と役割等級のそれぞれ中身は言葉のイメージ通りだが、「人基準」と「仕事基準」という大きな違いがある
  • この差は、マネージャーの昇格降格で具体化されやすい
  • 育成・能力開発には活用しやすいので、グレードに対応する能力をしっかり理解することが大切
といったところをミニマム理解すればいいと思っています。
(いや、色々細かい理屈があるのは重々承知しいているのですが「大雑把にいうと」という話で。)
何れにせよ、等級制度の主な目的は処遇(評価)と育成にあるわけで、その辺を抑えながら運用することが大切そうです。
 
 ※そもそもの「等級制度とは」を知りたい方はこちら↓

 

能力等級制度

能力等級とは

名前の通り、社員の「能力」で等級を分ける仕組みです。
 
スタートアップ界隈でよくある能力等級のイメージとしては
  • グレードⅠ :指示を受けて自身の業務推進できる
  • グレードⅡ :自律的に自身の業務推進できる
  • グレードⅢ :小さなチームを率いて仕事を進めることができる
  • グレードⅣ :グループを率いて仕事を進めることができる
  • グレードⅤ :部を率いて業務を推進できる
みたいな。実際はもっと細かく設定しますが。
 
ポイントとしては「できる」という能力自体が評価基準であって、役職や成果と等級が理屈上は切り離されているということです。
なので、上記の例でも例えば「グレードはメンバーだけど、役職はチームリーダー」「等級上はマネージャー級だけど部下なし」みたいなことが起きます。
 

能力等級制度のポイント① :能力を何で測るの問題

以上の通り、能力で等級を決めるというのが理屈ではあるものの、能力等級において「『能力』ってどうやって測るの?」というのが結局問題になります。
資格試験などで測れる場合を除くと結局仕事の成果ないしアウトプットで測るしかないわけです
 
そして、成果や役割を参考に能力を測ることは否定されないので、人事評価シート上は
「〇〇や△△という成果を出している。その中で〜〜という役割を果たしている。これは、自身の業務を超えて『小さなチームを超えて仕事を進めることができる』能力の証である」
みたいな書き方が鉄板になるんだと思います。
 
ここで、「運用がうまくいかないと年功序列的になってしまう」というのが、
教科書的に指摘される能力等級の問題です。
実際、新卒一括採用の古い会社だとそういう問題が発生しがちなので、後述の役割等級が導入されたりします。
でも、中途部隊で構成されて歴史も浅い(よって年功序列にするほど社歴長い人いない)スタートアップ界隈だと、年功序列になっちゃう問題はあまり発生しない気がします。
 

能力等級制度のポイント② :マネージャーの昇降格対応

また、一旦マネージャーにあげたけど「組織改編でポジション減った」みたいな時に、等級を下げずに組織改編ができるのは能力等級の特徴です(組織改編があっても能力自体が下がるわけでは無いから)。
他方で、一旦マネージャーにあげたけど「ちょっと違った」みたいなケースで降格するとき、グレード上は降格させにくい(給料も下げにくい)というのも能力等級の特徴だと思います。
とはいえ、理屈上はちゃんと降格できますので、結構容赦なしに降格する会社も増えている気がします。
 
ただ、あくまで人の能力が基準で、仕事内容基準じゃない等級制度なので「マネージャーの等級で役職なしが一番得する」みたいな状況は起き得るのも能力等級の特徴です。
これを回避するため、賃金制度の側で「役職手当」などを付けて役職者に報いるなんて制度設計もありますね。
 

能力等級制度のポイント③ :育成へ活用

能力等級だと、「こういう能力を身につけたら基本給が上がる」という構造になります。
なので、能力開発・育成がとてもしやすいです。
結構職種ごとに細かく能力が定義されている会社もあって、そうするとなおさらなのかな、と思います。
(逆にいうと、自分が評価される側の時は、グレード定義に沿った能力開発をすると、昇格しやすくなります)
 

育成・能力開発についてオススメの書籍はこちら↓ 

 

役割等級制度

役割等級とは

役割等級というのは、名前の通り、社員の役割(とそのアウトプット)で等級を分ける仕組みです。
 
例えば、
  • 部長級
  • グループマネージャー級
  • チームリーダー級
  • メンバー級
みたいな。※実際はもっと細かく定義されます。
 
能力等級と一見似ているのですが、
  • 能力等級 →  人基準
  • 役割等級 →  仕事基準
という基本的な考え方の違いがあると説明されます。
 

役割等級のポイント①:マネージャーの昇降格への対応

能力等級と役割等級で、理屈上一番違いが出るのが、マネージャーが役職を外れた(もしくはその逆)の時の対応です。
 
能力等級では、役職を外れたところでその人の能力自体は変わらないので等級は変わらない、というのが原則になります。
それに対して、役割等級では、役職を外れれば(あるいは役職に就けば)役割・仕事が変わるので、当然等級も変わるというのが理屈上の原則になります。
 
でも、役割下がればグレードも給料も下がるという役割等級の原則は、そのままだと不都合なケースも多いと思います。
例えば、組織戦略上2つのチームをまとめたいときに、片方のマネージャーを降格しなくちゃいけなくなる。
これを回避するため、各社色々な工夫をしています。例えば、「マネージャーと同じくらいのミッションを個人で負えるエキスパート」みたいなグレードを用意したり、グレードは下げるんだけど給料減らないように調整手当をいれたり。
 
とはいえ、日本の雇用法制の下、役割等級の弱点が最も分かりやすく露呈するのがこのマネージャーの降格時の対応だと思います。
 

役割等級制度のポイント② :役割の大きさを何で測るの問題

また、能力よりは測りやすそうな「役割」の大きさですが、それでもなお「何で測るの?」問題は残ります。
一般的には「グループマネージャー」「部長」みたいな感じで定義されることが多いですが、XX部の部長とYY部の部長って本当に同列なんだっけ?みたいな。
これは意外と小さな組織でも起きる問題ですね。 

役割等級制度のポイント③ :育成へ活用

「役割」を基準とする役割等級ですが、育成への活用も比較的しやすいです。
というのも「一つ上の役割を今後担ってほしい。そのためには、こんな能力が求められる」と、等級に紐づいた「求められる能力」を定義してあげるだけで、育成のポイントが明確にできるからです。(実際「能力開発項目一覧」みたいなのを用意している会社は多いと思います)
 

補足

補足①:マネジメントラインとエキスパートライン

能力等級にせよ、役割等級にせよ、よくある問題の一つは「マネジメントを志向しないスペシャリストをどう処遇するか」です。
 
マネージャーを志向しない人も多いエンジニアとかでよく発生しがちな問題ですね。(セールスでも同じ現象が発生しうるのですが、そういう場合グレードというより賃金制度でインセンを大きくすることで解決するケースも多いと思います)
 
そこで、マネージャーと同レベルに「エキスパート」と呼ばれる道筋を作って、スペシャリストを処遇することが多いです。
つまり、こんな感じ。

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マネジメントラインとエキスパートライン

補足②:職種別能力(役割)等級

  • グレードⅠ :指示を受けて自身の業務推進できる
  • グレードⅡ :自律的に自身の業務推進できる
  • グレードⅢ :小さなチームを率いて仕事を進めることができる
  • グレードⅣ :グループを率いて仕事を進めることができる
  • グレードⅤ :部を率いて業務を推進できる
等級定義のサンプルとして、↑のようなものを出したわけですが、流石にこれだと大雑把すぎて評価の時に迷ったりするわけです。そうすると細かく書こうという話になる。
 
でも、会社というのは、セールスもいればディレクターやエンジニア、コーポレートスタッフもいるわけで、統一的にこれ以上ブレイクダウンするのは至難の技だったりします。
 
そんな時には、セールスとかエンジニアとかいう職種別に能力(もしくは役割)がブレイクダウンされたりすることはよくあります(だいたいこのブレイクダウンを作る段階で事業部側が人事制度作りに巻き込まれる。で混乱が始まる。笑)。
この辺はあんまり細かくしても運用が追いつかないので「いい塩梅」が求められるポイントかと思います。
 

補足③:入学方式と卒業方式

特に能力等級で注意したいのは、紙に書いてあるグレード定義が、そのグレードの「入学」の条件なのか「卒業」の条件なのか、という点です。
 
例えば、
  • グレードⅡ :自律的に自身の業務推進できる
  • グレードⅢ :小さなチームを率いて仕事を進めることができる
という定義だった時に、グレードⅡ→Ⅲに上がるときに
  • 「自律的に自身の業務推進できる」(Ⅱを満たす)能力を示せばⅢに上がれるのか(卒業方式)
  • 「小さなチームを率いて」ができる(Ⅲを満たす)能力を示さないとⅢに上がれないのか(入学方式)

という違いです。

実際上は「入学方式と卒業方式ってそんな綺麗に分けられるんだっけ?」という問題はあるのですが、まぁ、この辺の理屈を理解しておかないと能力開発目標がとんちんかんになりますし、自分が昇格したい/部下を昇格させたい時に、的外れな推薦をしてしまうので、知っていて損はないと思います。

 

まとめ

以上、「能力等級」と「役割等級」について簡単に説明してきました。
 
色々理屈はあるのですが、非人事の現場マネージャー・メンバーとしては
  • 能力等級と役割等級のそれぞれの中身は言葉のイメージ通りだが、「人基準」と「仕事基準」という大きな違いがある
  • この差は、マネージャーの昇格降格で具体化されやすい
  • 育成・能力開発には活用しやすいので、グレードに対応する能力をしっかり理解することが大切
といったところだけ踏まえれば、いい気がしています。
 
何れにせよ、等級制度の主な目的は処遇(評価)と育成にあるわけで、その辺を抑えながら運用することが大切そうです。
 

非人事向け「等級制度」がサクッとわかった気になる (1)等級制度のパターンと歴史

 
この記事では、人事じゃない人を対象に、「人事制度」の核の一つである「等級制度」について、基本的なパターンと歴史を「なんとなくわかった気になる」状態をゴールに設定しています。
 

等級制度とは

別記事 で解説の通り、狭い意味で人事制度というと以下の3つを指すことが多いです。
  • 等級制度
  • 評価制度
  • 賃金制度
この中で、等級制度は、社員を能力や役割などによって区分する制度を言います。
横文字で「グレード」とか呼ばれるやつですね。
 

等級制度の目的

等級制度は何のためにあるのか?
これは、等級制度が「ない」状態を考えるとわかりやすいです。
 
等級制度が「ない」状態を想定すると、以下のような不都合が生じるはずです。
  • 給与(特に基本給)を決めにくい。
  • 会社から、各人への期待(例えば、このグレードだからこれくらいやってほしい)が伝わりにくい。結果、育成もしにくい。
  • 社員から見て、給与含むキャリアプランが描きにくい。
  • 配置にあたっての公平感が出にくい。
社員5人くらいだったら、別に等級制度なんてなくてもこんな問題発生しないと思います。
でも、20人30人くらいを超えてくると、全社としての「基準」を明示しておかないと上記のような不都合が生じると思います。
公正公平な人事のために等級制度が必要ということです。
 

等級制度のパターン

「等級制度」には、実は基本的なパターンがあり、それを知っておくと転職した時とか人事制度が変わった時にその運用にすぐアジャストできるようになります。
 
教科書で説明される等級制度は、以下の3つです。
  • 能力等級
  • 職務等級
  • 役割等級
 
が、ぶっちゃけ、人事じゃない人は
  • 超雑に要約した等級制度の歴史
  • 能力等級
  • 役割等級
だけ理解していれば十分だと思っていて、以下ではそれを説明していきます。
 

等級制度の歴史

等級制度の歴史について理解するには、上記3つに加えて年齢等級まで含めて考えるとわかりやすいです。
 
先に要約すると、こういうことです。(細かい正確さは捨てた説明です)

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等級制度の歴史
 
上の絵を文章で説明すると、以下の感じです。
  • 大昔は、年功序列年齢とか勤続年数が等級や給料を決めていました。
  • それじゃ良くないよねってことで生まれたのが能力等級。「成果主義」とか言われた時代の話。
  • ところが、「能力等級」は、以下の2つの問題を発生させました。
    • 1つ目は、「能力」という見えないものを基準にする結果として、結局年功序列的な運用がされてしまうケース
    • 2つ目は、当時「コンピテンシー理論」とか言って、その会社で活躍する人の特性を何十とかいう項目で定義するってのが流行ったのですが、複雑すぎて現場の運用に乗らなかったケース
  • 上記2つの問題は、表面上は別の事象ですが、根本的には「人の内面にある能力って測りにくいよね。」って問題がある。
  • そこで導入が検討されたのが、「職務等級」アメリカとかで主流だった各人の仕事内容(=職務)を基準に等級を決める制度です。
  • 「職務等級」は、等級の基準を「人」基準から「仕事」基準に変えるという意味で画期的でした。
  • しかし、「職務等級」は、職務の詳細な記述を前提とするところ、ゼネラリスト前提の日本企業では運用が難しく、ほとんど導入に至りませんでした。
  • そこで、導入されたのが「役割等級」。ミッショングレードとか呼ばれる制度。
  • 「役割等級」は、「仕事基準」を維持しながら、職務よりももう少し緩い「役割」での記述を許容しました。例えば、「小さなチームを率いて職務を遂行する」とか。
  • そして、今(特にスタートアップ界隈で)みる等級制度のほとんどは、能力等級か役割等級。
 
大枠の人事制度の歴史はこんな感じです。
 
で、最後に書いた通り、いま多くの会社は「能力等級」「役割等級」のどちらかです。
 
なぜこの2つか。 
まず、役割等級(ミッショングレード)については、上記の歴史の中を見るとなんとなくわかると思います。
能力等級については、「能力」が測りにくいというところが問題だったのですが、そこをどうにかうまく運用して年功的運用を避ければ、ちゃんと機能する制度です。その辺運用の工夫を編み出したりして、(また役割等級には役割等級で問題があるので)能力等級も一定の支持を得ながら生き残っている、という次第です。
 
というわけで、次回、「能力等級」「役割等級」について説明をしていきます。
 
 
 

非人事向け「人事制度とは」の全体像がサクッとわかった気になる記事

コンサル時代、人事制度を作ったりする仕事もしていました。
そして、今、ベンチャー界隈で働いていて思うことの一つは
「人事制度という仕組みに関する理解度のバラつきが大きい」
ということです。
 
この記事では、非人事の人を対象に、そもそも「人事制度」とは何なのかを簡単に解説したいと思います。
 
 

広義の人事制度と狭義の人事制度がある

「人事制度」という言葉は、色々なものを指して使われるのですが、大きく2つに分けるとわかりやすいです。
 
つまり
  • 狭義の人事制度
  • 広義の人事制度
の2つに分けると理解しやすいです。
 

狭義の人事制度

狭い意味で「人事制度」というと以下の3つを指すことが多いです。
  • 等級制度
  • 評価制度
  • 賃金制度
そして、3つの関係を図示するとこんな感じです。

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「等級」「賃金」「評価」の関係
3つの制度を定義しながら説明すると、こんな感じです。
等級制度:社員を(能力や役割などによって)区分する制度。グレード制度。等級によってお給料や配置が決まる。
評価制度:社員の能力や成果を評価する制度。評価結果は等級やお給料に反映される。
賃金制度:社員のお給料を決める制度。等級や評価によって決まる。

 

広義の人事制度

他方で、上記の狭い意味での人事制度以外にも「人事制度」と呼ばれるものがたくさんあります。
例えば、以下のようなものです。
  • 教育制度
  • 福利厚生
  • 社内異動制度
  • MVPとかの表彰制度
  • 1on1みたいな日常のマネジメントの仕組み
この辺を「人事制度」と呼ぶこと自体は、全然間違えではないと思うのですが、
ものすごく雑にいえばオプションみたいなものなので、一旦「等級」「評価」「賃金」の3つとは分けて考えた方が良いように思います。
 

まとめ

というわけで、「人事制度という仕組み」を理解するには、以下の2点を理解するのがポイントだと思います。
 

①狭義と広義の人事制度がある

つまりこういうこと

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2つの「人事制度」

②狭義の人事制度の中での相互に影響する

つまりこういうこと

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「等級」「賃金」「評価」の関係
 
ものすごーく雑な説明ではあるのですが、まずは以上のようなところを理解することが大切だと思うのです。