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プロダクトの提供価値が下がる時、カスタマーサクセスができること

本当に「プロダクトは良くなる一方」なのか

カスタマーサクセスの教科書「青本」も第6原則で「本当に拡張可能な差別化要因は製品だけだ」と謳う通り、
カスタマーサクセスにおけるプロダクト自体の価値の重要性は、色々なところで語られている通りです。
 
実際に、多くのカスタマーサクセスがプロダクトフィードバックに力を入れ、プロダクトの価値の向上に取り組んでいます。
なので、なんとなく「プロダクトの提供価値は上がる一方」というのがカスタマーサクセスの前提になっているような気がします。
 
しかし、カスタマーサクセスをしていると稀に
「プロダクトの価値が下がる時」というのに遭遇する気がします。
が、あまりそれについて語られない気がする。
 
そこで以下では
  • プロダクトの価値が下がるパターン
  • カスタマーサクセスとしてできること
について整理を試みたいと思います。
 

プロダクトの価値が下がるパターン

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「プロダクトの価値が下がる」と言ったとき、大きくは2つのパターンがあると思います。
  • 絶対的価値の低下
  • 相対的価値の低下
です。
 

絶対的価値の低下

ここで「絶対的」は、「他社と比較することなく」という意味です。
 
例えば、ホットペッパー食べログといった飲食店向けの集客サイトにおいて、
「顧客の成功」とは、「顧客の集客における成功」であることは容易に想像がつきます。
なので、サイト経由での送客数(ないしCPA)などの指標が、ヘルススコアの一つとして採用されているはずです。
 
しかし、きっとこういった集客サイトからの送客数は、月単位・年単位で結構上下しているはずです。
というのも、集客サイトの送客数は例えば
「(A)消費者の飲食店利用回数×(B)うち、当該サイトを利用する率」と因数分解できますが
  • (A)飲食店利用回数 ▶︎例えば景気や感染症の状況などによって上下する
  • (B)当該サイトの利用率 ▶︎(ぐるなびなどの競合との取り合いだけでなく)Google、紙・口コミ含む他チャネルとの取り合いで上下する、Googleアルゴリズムアップデートによる検索順位変動とかの影響も受けるかも
からです。
「競合と比べて、送客数(≒提供価値)で負ける」のではなく
「自社の送客数自体が減る」事態が発生するのです。
 
そして、サイト全体としてその瞬間の送客の総量は決まっているはずなので、カスタマーサクセスの努力しても事業全体では基本的にゼロ・サムゲームとなり(誰かへの送客が増えれば誰かへの送客が減るので)、全員は救えません。
 
これ以外にも、例えば
  • マーケット自体が変わる(例:在宅勤務が進み、オフィス勤務を支える各種ツールの価値が下がる)
  • ツールの前提が変わる(例:法改正に対応しきれず、顧客が一部作業をExcelですることになり、これまで提供していた業務効率化の効果が落ちる)
  • プロダクト自体の経年劣化(例:コードが最新ブラウザに対応できない / スパゲッティ化してバグで止まることが多くなる / デザインが古い感じなってなんとなく使いにくくなる)
みたいなケースもあると思います。
 
そんなわけで、プロダクトや状況によっては、
大した仕様変更とかしていないのに「プロダクトの価値が絶対的に低下する」ということがあります。
 

相対的価値の低下

ここで「相対的」は、「他社と比較して」という意味です。
競争力の低下と言った方が適切かもしれません。
 
例えば、
  • 月額3万円が相場の市場に、月額数千円で後発企業が参入してきた
    • 機能は若干劣るが、価格が1/10レベル。
    • 先行企業を参考にしているので、UI・UXはいい意味でシンプルに仕上がっている。
こうなると、高機能・多機能が必要ない顧客は一気に後発企業に流れてきます。
同価格帯で高機能のプロダクトに参入された場合も同様です。
 
元々その市場にいるプレイヤーから見ると、
一切プロダクトの仕様とか変えていなくて、顧客のヘルススコアも大して変わっていないはずなのですが、チャーンだけがグッとあがる現象が発生している、
そんな感じに見えるかもしれません。
 

プロダクトの価値の低下にどう向き合うか

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具体的な方向

具体的な方向として、例えば、以下が考えられると思います。
1)従量課金に寄せる
例えば、先ほどの集客サイトの例で行けば、
送客数に応じた課金にすれば、顧客の離脱自体は防げるかもしれません。
提供する成功の量が増えれば自社の売上も増える構造になるので、カスタマーサクセスの理念にも沿っているように思います。
他方で、ビジネスとしては売上・成長の安定性は失われますし、価値が下がる局面でこの手を打つと、実質的には次の「値下げ」と同じくなることが多いと思います。
 
2)値下げ
これは基本的には悪手となることが多いですね。
 
既存プロダクトの値下げはもちろん、
既存プロダクトの下位に「ライトプラン」を出すオプションも失敗に終わることが多い気がします。
以前いた業界で、競合がこの「ライトプランによる顧客囲い込み」戦略を採用したことがあるのですが、結果は
  • 顧客流出も獲得も大して変わらない
  • むしろ既存顧客のダウンセルが大量発生して、顧客単価が大崩れ
  • 結果として決算大崩れ
と散々なものでした。
 
3)プロダクト改善
なので、提供価値を上げる取り組みとしてプロダクト改善が重要になります。
これは王道ですね。
が、特に「絶対的な提供価値の低下」のパターンのうちマーケット自体の変化等を伴うケースはこれでは対応できないですね。(例えば、在宅勤務でオフィスツールのニーズが下がってる局面で、既存プロダクトを改善しても限界がある。)
 
4)複合プロダクトを目指す
そこで考えられるのが、複合プロダクトを目指すことです。
例えば、集客サイト(ホットペッパー)単体で見れば提供価値は下がることもあるかもしれないが、
などのサービスを複合的に(できればパッケージとして)提供することで、単価も顧客も維持する戦略です。
 
最近、この戦略を採用する企業が増えてきたような気がします。なんとなくですが。
 
複合プロダクトは、値上げによる単価向上とセットで検討されることが多い戦略な気がしますが
カスタマーサクセス観点で見ると
「サービスの中でポートフォリオを組んで、一時的にどれかのサービスの提供価値が下がっても他でカバーすることで解約率を下げる」みたいな働きをすることがあると思います。
 

カスタマーサクセスに何ができるか

こうやってみると、「商品の提供価値が下がる時」に必要なのは事業戦略レベルの見直しであり、
カスタマーサクセス単体でできることってあまりないような気がしますが、どうでしょうか?プロダクトフィードバックくらい?
 
ただ、
商品の価値が下がる予兆があるときにいち早くそれに気付き、
プロダクトや経営陣に適切な情報を提供をすることは、カスタマーサクセスの責任だと思います。
 
プロダクトフィードバックに乗せる事はもちろん、
  • 従来の解約理由区分だとわかりにくいが、実は在宅勤務移管に起因する解約がこの半年でXX件発生している。さらに〜〜社の調査だと在宅勤務「検討中」がまだ30%も残っている。このまま世の中の在宅勤務がX%まで進むと、チャーンがこれくらい悪化する可能性がある。(ので、それを前提に予算組み直した方がいい)
  • 解約のうち、新規参入のX社への乗り換えが、前年比較でXX%->XX%まで増えた。乗り換え顧客の主な意思決定理由は〜〜〜であり、そこの部分へのテコ入れが必要。
みたいな、戦略に有意義な示唆を与えるレベルまで情報を深堀・整理して、プロダクトや経営に提供する責任があるんじゃないかと思います。
 
そのためには、目の前の顧客に向き合うことはもちろん(←これは得意な人が多いのがCS)
ビジネス一般や競合情報への感度、ビジネス的な数字の扱い能力(←これは苦手な人もいるのがCS)を高めておく必要もあるのかな、なんて思います。
 
(おまけ)
・・・なんて記事を書いていたら、「青本」原著者のN.メータ氏が「10の原則」をアップデートして、2021年版の 10の原則では
3.Constantly Drive More Value, Or Expect Churn
 (価値を常に磨け、さもなくば解約)
だそうです。
停滞はもはや価値が落ちるのと同じってことかもしれませんね。