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コンサル→ベンチャー。ビジネス系のネタ。

「よいイシュー」と「ウケる感覚」

イシューからはじめよ:解く前に見極める

イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」

名著「イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」」のヒットにより、「『解くべき課題の見極め』が重要である」ということは、なんとなくビジネスの世界で常識になりつつある気がします。
 
しかし、実感を持って「よし、俺は今いいイシューの見極めができてる!」って感覚で毎日をご機嫌に過ごせている人は多くないと思います。
 
このギャップを埋めるにあたり、「ウケる感覚」ってコンセプトが役に立つと思っています。
 

「よいイシュー」とは

前提として、「イシューからはじめよ」は、課題解決の中で「解の質」よりも「解く課題の見極め」が重要であることを説いた名著です。
 
そこで定義されている「よいイシュー」(=本当に解くべき問い)とは、以下の条件を満たすものを指します。
  • 「本質的な選択肢である」こと。つまり「それに答えが出るとそこから先の検討方向性に大きく影響を与えるもの」であること。
  • 「深い仮説がある」こと。例えば、「常識を覆すような洞察」がある、あるいは「新しい構造」で世の中を説明しているようなこと。
  • 「答えを出せる」こと。
 

「よいイシュー」にたどり着く手順

では、どうやったら「よいイシュー」にたどり着けるか。
 
イシューからはじめよの中では、「よいイシュー」にたどり着く方法として、イシュー特定のための3つのコツとイシュー特定の5つのアプローチを紹介しています。
 
すなわち
  • イシュー特定のための情報収集のコツ
    • 一次情報に触れる
    • 基本情報をスキャンする
    • 集めすぎない・知りすぎない
  • (情報を集めてもイシューにたどり着かないときの)イシュー特定の5つのアプローチ
    • 変数を削る
    • 視覚化する
    • 最終形からたどる
    • so what?」を繰り返す
    • 極端な事例を考える
といった情報収集方法・アプローチを紹介しています。
 

イシューとウケる感覚

ここからが本題です。
よいイシューの定義とそこに至るアプローチは上記の通りで、異論ありません。
 
ところが、です。
イシュー度を高められない人が上記のアプローチだけを学んでも「なんかうまくいくイメージがない」のです。
 
実際、イシュー本めちゃくちゃ売れてますけど、本を読んでよいイシュー設定できるようになった人ってどれくらいいます?
 
そんな時、自分として大切にしている問いは、
「それ、お客さんにウケる?」
ただ一つです。これがコツだと思っています。
 
ここで言っているお客さんは、場合によって社長だったり上司・部下だったり同僚だったりすることもあります。要は、そのアウトプットの価値提供先(これを誰と置くかはとても大切)。
 
イシューをうまくとらえた時、そのアウトプットには客さんが頷く、ポンと膝を打つ感覚があります。
「刺さる」「ウケる」感覚、あるいは
「そうこれだよ、俺が欲しかったのは」「なるほど、それは思いつかなかった」と言わせしめる感覚です。
 
イシューをとらえたアウトプットというのはつまるところ、この意味で「ウケる」場面が想定できる/実際「ウケる」アウトプットだと思うのです。
 
そして、自分の仕事に「これはウケるか」を必死に問い、お客さんにぶつけ、感覚を研ぎ澄ましていく。その結果として「イシューからはじめよ」的な仕事の仕方ができるようになると思うのです。
 

「イシューからはじめよ」の著者も似たことを言っている

実は「イシューからはじめよ」の安宅さん自身も、別のところでこんなことも言っています。
 マンツーマンでフィードバックをもらう以外に、イシューを立てる能力は訓練のしようがない。研究者育成は1000年前から徒弟制度で成り立っているが、ほかに方法がないからだ。自分が立てたイシューに対し、「それは価値がない。なぜならこうだからだ」とフィードバックをもらい、「ああ、そうか」と納得する。この「そうか」の繰り返しでだんだん能力が磨かれていく。
 その意味では、サッカーの本田圭佑選手などは、恐ろしいほどにイシュードリブンな(イシューありきの)仕事をしている。「ここでパスを出したら得点につながるのではないか」などと、一瞬ごとに判断を行なっている。そして、その結果は即座にフィードバックを受ける。これはイシュードリブンな思考力を身に付ける理想的な環境と言える。 
日本を支配するマッキンゼー人脈―週刊東洋経済eビジネス新書No.24 より
 
確かにこれができたら、イシューを立てる能力が高まる気がします。
しかし、実際はこの話の前段のように
自分が立てたイシューに対し、「それは価値がない。なぜならこうだからだ」とフィードバックをもらい、「ああ、そうか」と納得する。この「そうか」の繰り返しでだんだん能力が磨かれていく。

なんて恵まれた環境にいる人はほとんどいない。

 
これが、冒頭に述べた
実感を持って「よし、俺は今いいイシューの見極めができてる!」って感覚で毎日をご機嫌に過ごせている人は多くない

 という現象の大きな原因だと思うのです。

 
そこで、次善策として
「お客さんにウケるか」の感覚に重きを置き、「こうすればウケるんじゃないか」の判断を積み重ね、実際にぶつけて「ウケる感覚」を日々の業務で磨いていく、というのがいいと思うのです。
 

「ウケる感覚」を大事にするコンサルは意外と多いかも

ここで「イシュー」を「ウケる感覚」と言い換えると、ものすごく雑に感じる方もいるかもしれないと思います。
 
しかし、BCG→ドリームインキュベーターと堀紘一の懐刀と呼ばれた(らしい)古谷さんという方も、ご自身の著書の中で以下のようなことを言っています。
意外とコンサルでこういう感覚持っている人多いんじゃないかな、と思っています。
 たしか海外関係のプロジェクトだったと思う。コンサルタント時代のあるとき、私は外国人オフィサーの下で仕事をすることになった。とはいえ、お客さんは日本人である。その外国人オフィサーはかなり上のレベルにいる経営コンサルタントだったが、日本語はまったくわからない。したがって、私がプレゼンをやることになった。
 正面にお客さん、脇にはそのオフィサーが控えている。
 このときは、話し終えてみて、私としてはウケたと思った。ちなみにこれは、バカウケというのとは違って、話が通った、伝わった、こちらのペースに引き込んだ、といった感触に近いものである。
 すると、会社に帰る道すがら、上司のオフィサーがいった。
 「今日のおまえのプレゼンは大変よかった。お客さんに絶対に通じているよ」
 この上司は日本語がわからない。私がプレゼンでどんな内容を喋ったか、理解できてはいないのである。それでも大いに満足してほめてくれたのだ。
 これは嬉しかった。あのとき私は、二重の意味で喜んだ。
 一つは、一流の経営コンサルタントに自分のプレゼン能力を認めてもらえたことに対する素直な喜び。そしてもう一つは、ほめてくれた彼もまた、プレゼンのときの言葉がうまいとか下手というのではなく、私がお客さんにウケているか否か、という感覚的なものを判断基準にしていたのを知った喜びである。

古谷 昇. 「もっと早く、もっと楽しく、仕事の成果をあげる法 知恵がどんどん湧く「戦略的思考力」を身につけよ」より

 
なんとなく、ここで言ってる「お客さんにウケているか否か、という感覚的なもの」と イシューを捉えているアウトプットをお客さんに見せている時の感覚って近い気がするんですよね(正確にはイシュー捉えててもプレゼン下手とかの理由でウケないこともあると思うけど、そこまでプレゼン下手な人って「イシュー」とかいう言葉使う人にはあんまりいないと思う)。
 

「よいイシュー」と「ウケる感覚」

というわけで、「よいイシュー」の定義や「よいイシューへのたどり着き方」をロジカルに、あるいは手順的に説明すると「イシューからはじめよ」の通りだと思うのですが、それだけだと、よいイシューにたどり着かない人も多い。
 
本当は、イシュー度に関する高次元のフィードバックが必要。
でも多くの人は、それが可能な環境にない。
 
そこで次善策として、「こうすればウケるんじゃないか」の判断を自分の中で積み重ね、実際にぶつけて「ウケる感覚」を日々の業務で磨いていく。
 
言ってみたら、イシュー・ドリブンならぬ、ウケる・ドリブンです。
 
これがイシュー度を高める訓練として、いいんじゃないかと思うのです。

 

イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」

イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」

  • 作者:安宅和人
  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2010/11/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)