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「既知」と「未知」を区別する

ロジカルシンキングや問題解決、プレゼンテーションの良書は数多あるのですが、MECEとかツリー構造とかに偏っていて、
意外と一般的に認識されていない重要なポイントが一つあると思っています。
 
それは「既知と未知」を区別すること。
 
これは後述するように、アカデミックな世界やビジネスの現場でとても大切なのですが、
特に、いわゆる文系の人で、この能力が身についていないケースが多くみられます。
 
ビジネスの現場で、出くわす
  • セミナー出てみたけど、超つまんない
  • エライ人への説明で、序盤の反応が悪い / 最後まで聞いてくれない
  • 頑張って分析したExcel、グラフも綺麗でロジカルなのに全然刺さらない
こんな現象たちは、「既知と未知の分類」を正しく行うことで、結構な確率で回避ができます。
 
 

既知と未知とは

定義するまでもないですが、
既知:相手ないし世間が、すでに知っている事項
未知:相手ないし世間が、まだ知らない事項
ということです。
 

「既知」「未知」は、研究論文の基本的お作法

「既知」と「未知」というのは、大学などで学術研究の教育を受けていると、割と普通に使いこなされる概念です。
というのも、研究論文のお作法として、以下のような形で始まるのが一般的だからです。
  • XXXという課題は、〜〜〜という理由でとっても重要。
  • 重要なので、先人の研究はたくさんある。例えば、■■博士による<論文名>はXXXについて〜〜〜を明らかにし、▲▲博士による<論文名>はXXXについて〜〜〜を明らかにし、・・・・という感じである。 ←「既知」の定義
  • しかし、「YYYの場合にXXXがどうなるか」は、結構重要なのにまだ研究されていない。 ←「未知」の定義
  • そこで、「YYYの場合にXXXがどうなるか」を、ZZZという手法で検証した。
 
こんな感じで、研究論文を書くときは(「世の中で一番詳しい人」を前提に)、「既知と未知」を切り分けるという作業が最初に来ます。
 

ビジネスに使える「既知と未知」の具体例

この「既知と未知」の切り分けは、ビジネスの現場でも結構使えます。
 

セミナーでの「既知と未知」

特にわかりやすいのが、セミナーです。
 
「ものすごくつまらない」「得るものがほとんどない」ビジネスセミナーって正直ありますよね。
 
つまらないセミナーは 
「伝えるメッセージ自体が、聴講者にとって既知」 
という次元での間違えを犯していることが多い、というのが私の見立てです。
 
例えば、介護業界の経営者を集めたセミナーで
  • 介護業界では人材が不足していて、大変な課題です。
  • この新聞記事でも、介護業界で人材が不足していると書いてあります。
  • この厚労省のデータでも、介護業界の人材不足がわかります。
  • アンケートでも、介護業界の人材不足が叫ばれています。
  • ・・・
 
と、「介護業界は人材不足」という日本人の8割が知ってるようなメッセージを、いろいろなデータや事例を交えて15分とか説明しちゃう
 
だから「そんなん知ってるわ。解決策を聞きに来とるんや!」
となっちゃう。
 
そうじゃない。
セミナーは聞き手にとっての「未知」をくすぐらなくてはいけない。
 
例えば、以下のようなストーリーなら成立するはず。
  • 介護の人材不足は、周知の事実です。(さらっと) ←既知の定義
  • でも、周りにうまく採用できてる法人もありません?そういうとこがどうやってるのか、知りたいですよね? ←聞き手にとって未知かつ重要な事項の定義
  • 実は、私が全国1,000社を支援する中で、採用で成功しやすい法人の特徴がわかってきました。その方法論を今日はご紹介します。
とか
  • 介護業界で人が集まらないのは超前提ですが、その理由は低賃金だと思ってません?
  • でも、うちが運営する求人媒体のデータ分析したら、ぶっちゃけ賃金があんまり関係ない可能性が出てきました。 ←聞き手にとって既知だと思っていたことが実は嘘だと否定する
  • じゃ、賃金じゃなくて何が具体的に影響しているのか、データを使って説明します。 ←新たな未知の定義。
とか
  • 採用活動のステップは、一般的に①〜〜、②〜〜、③〜〜、と進みます。これは知ってますよね? ←既知の定義
  • じゃ、②のステップでXXXをやってる人ってどれだけいます?いないですよね?実はこれが大切なんです。 ←意表を突く未知の定義
  • なぜそれが重要なのか、具体的にどうすればいいのか、これから説明します。
とか。
面白いセミナーはすべからく、結果としてちゃんと聴衆の「未知」をくすぐっているのです。
 
 
エライ人向けの説明とかでも同じです。
「そのエライ人」にとって、既知の事項に時間を割くと嫌われる。
ロジカルかつ綺麗なグラフで既知の事項を説明されても、全然価値を感じない。
「未知」=新しい何か、を提供しないといけない。
 
多くの人が関与するプロジェクトのプロマネとかでも、それぞれの人にとっての既知と未知を整理してあげることで、結構取り組むべきイシューが明確になったりする。
 

実は名著の中では触れられている

そんなこんなで、「既知と未知」の区別が大切だと思うのですが、
「既知と未知」の話は、実はロジカルシンキングの名著の中では触れられています。
 
超名著 イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」 では、イシューの定義で「常識に反する」というのがあるのですが、これも「既知と未知」の話のうち、「既知と思われているものを否定する」ということだと思うんです。
そして、これまた超名著 思考の整理学 (ちくま文庫)では「既知と未知」ってタイトルの章があったりする。
 
ツリー構造とかMECEとかも重要なんですが、それ以前に「既知と未知の分類」大切。
そこを押さえないでグラフやパワポを綺麗にしても、さらにいうと問題の分析しても意味ないと思うのです。
 
ということで、以下2冊は手元に置いておいて読み返したいものです。

 

イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」

イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」

 
思考の整理学 (ちくま文庫)

思考の整理学 (ちくま文庫)