B-log

コンサル→ベンチャー。ビジネス系のネタ。

カスタマーサクセスが辞めるとき 〜CSの退職理由を列挙していく

 

f:id:f-bun:20210323162038p:plain

インターネットとかITに関わる業種、特にSaaS系のスタートアップを中心に、「カスタマーサクセス」という名を冠する組織・職種が定着してきました。
 
定着してきたことで、カスタマーサクセス職が退職するケースも増えてきました。
 
表向きは
「新たなチャレンジをしたくて、わがままをいって『卒業』させてもらいます」
と、いかにもスタートアップらしく綺麗に語られがちなのですが、、、
そんなキレイゴトばかりなワケないやん、と。
 
そこで、まだうまく整理できないものの、カスタマーサクセスの退職パターンを列挙していこうと思います。
・・MECEなまとめというより、あるあるな話をゆるくツラツラと。

パターン1 : プロダクトを信じられなくなる

カスタマーサクセス職は
「プロダクトを通してお客さん・社会の役に立ちたい」という動機が強めな人が多いです。
 
なので、その裏返しとして「このプロダクトでは顧客を成功に導けない」と思った時、退職していくケースがあります。
 
プロダクトフィードバックループが小気味よく回っているうちはいいです。しかし、そもそもSaaSはじめカスタマーサクセスチームを持つ組織の多くは、まだスタートアップです。開発が追いつかないこともあります。大きな組織でも、大きい故に開発スピードが追いつかないこともあります。あるいは、破壊的な他社プロダクトの参入によって、自社のプロダクトの価値が相対的に弱まるかもしれません。
 
そんな時お客さんからの「競合のプロダクトにはこの機能があるのに!」「全然だめだ!」「騙された!」といった要求・クレームに直接晒されるのもカスタマーサクセス職です。
 
顧客の声の矢面になりながら、一向に改善されないプロダクトを見ていると
「このプロダクトでは、お客さんの役に立てない。ダメだ。辛い。辞めたい。」となり、退職。
元々の理想が高いからこそ、カスタマーサクセスの退職理由の一つにプロダクトはあると思います。プロダクト大切。

 

パターン2 : 会社を信じられなくなる

プロダクトは悪くなくても、会社を信じられなくなることがあります。
 
特に「プロダクトを通してお客さん・社会の役に立ちたい」という思いが強いが故に、会社が金儲けに寄った判断をしたときに
  • 「これってお客さんのためになるんだろうか?」
  • 「うちの会社はカスタマーファーストじゃない」
  • 「売上拡大を求めて『正しい顧客』に売っていない。カスタマーサクセスが実践されていない。」
と辞めるケース、多いと思います。
 
基本的に気持ちはわかるし、一度こうなってしまうと持ち直すのは難しい気がします。
しかし実は、カスタマーサクセスの教科書として知られる通称「青本」の第一原則「正しい顧客に販売しよう」の章にも、こんなことが書いてあるということをご紹介したいと思います。

理想の世界なら、会社は理想的な顧客だけに販売すればいい。だがもちろん、成長企業には収益を伸ばさないといけないという途方もないプレッシャーがあるものだ。そのため、効果的に成長するには、理想的な顧客の定義を拡大せざるを得ない場合もある。 

成長企業の経営陣というのも大変なのです。
 

 

 

パターン3:顧客を愛せなくなる

カスタマーサクセスは、顧客の成功をミッションとします。
そのために、時にハードワークも厭わない姿勢が求められます。
 
が、お客さんもいい人ばかりじゃない。
エンタープライズ(大企業)なら、当事者意識のない官僚的な中間管理職に嫌気が刺すかもしれませんし、
SMB(中小企業)でも、当事者意識はあるけど頑固・ワガママな中小企業の親父に嫌気が差すかもしれません。
業界・企業規模問わず、意地悪な人・自分とちょっと合わない人というのはどこにでもいます。時に、無茶な要求や心ない言葉も浴びせられます。
 
嫌な人がいるのは別にどんな仕事だって同じはずです。が、カスタマーサクセスの<顧客の成功と自分の成功を重ね合わせる>という理念に共感している人ほど
  • 「私はお客を愛せない、ダメだ」
  • 「こんな人のために、私は頑張ってるのか」
と思い悩んでしまうケースがあるようです。
 
個人的にこれで退職する人を見るとすごく悲しいです。とはいえ、このパターンで辞める人は2社目くらいで「どの会社に行ったってお客さんはいい人ばかりじゃない」と悟るか、カスタマーサクセス職自体をやめて他の職種になる気がします。

 

パターン4:スタートアップのカオスに耐えられない

スタートアップは、カオスです。
業務フローや社内ルールなど、仕事の土台となる部分が整っていません。
 「スタートアップってそういうものでしょ。」とも思うのですが、スタートアップで働く人の中でもカオスの許容度は人によって違うようです。
 
CSの現場でも
  • プロダクトの理念やCSチームのトップが語る理念・戦略も美しいんだけど、オペレーション設計が全然追いついてなくて現場がカオス
  • 元々はちゃんとやってたけど、その結果ユーザー急増。ユーザー増にCSの採用&育成が追いつかなくて現場がカオス
みたいなケース、ある気がします。
 
いまカスタマーサクセスに流入している人材の中には、カスタマーサクセスのキラキラした面に強く惹かれすぎて、この種のカオスに対する想像・覚悟がいまいちな人も一部いる気がします。
 
「組織がめちゃくちゃでついていけない」「なんかちょっと疲れた」みたいな表現で語られやつはコレだと思っています。
 

パターン5:キャリアが拓けない

「キャリアが拓けなくなる」というのもあります。
キャリアが拓けなくなるのは、4パターンくらいに細分化できる気がします。
 

①オペレーター化してしまう

別のエントリーでも書いたのですが、カスタマーサクセス組織が大きくなると、分業が進みがちです。
そもそも、マーケ > インサイドセールス  > フィールドセールス > カスタマーサクセス というTHE MODEL自体も分業です。
これに加えて、カスタマーサクセスの中でも分業が進むのです。
オンボーディング担当とか、リニューアルセールス(更新タイミングのフォロー担当)とか。
 
分業が進むのは、その方が効率的だからです。そして、さらなる効率化を求めて、オペレーションの型化が進みます。
 
効率化自体は望ましいことですが、その中でカスタマーサクセス職自体がオペレーター化してしまうことがあります。
そうなると、当然スキルも身に付かず、キャリアが拓けなくなる。
 
「オペレーターじゃない仕事を勝ち取れていない」という意味で、実は本人にも問題があるケースが多い気がするのですが、実際に「この仕事をずっと続けていても先が見えないなと思って」と辞める若手、見たことないでしょうか。
 
私は、採用面接で求職者から直接これを言われたことがあります。「A社のカスタマーサクセスは確かに有名だけど既に出来上がってそう。入ったところでオペレーターになりそう。(だからA社には行かない)」と。
このケースは退職理由ではないですが、オペレーター化を避けたいカスタマーサクセス職というのは結構いることを示す事例の一つだと思います。
 

②フェーズが合わなくなる

一般論として、企業のフェーズとそれに合う人材というのはいます。
「0→1 / 1→10 / 10→100のフェーズで、それぞれ得意な人は別」というアレです。
これはカスタマーサクセス職でも、当てはまります。
 
0→1 / 1→10の功労者がポンと抜けるケース、たまにありますよね。
 

③上が詰まってる

「フェーズが合わなくなる」とは逆の話として、
初期メンバーがカスタマーサクセスの不動の責任者として鎮座してると「ここにいても、しばらく偉くなれないな」と転職するケースが結構ある気がします。
スタートアップ界隈で働いていると、できれば二十代、遅くとも三十代のうちにはマネージャー経験したくなりますもんね。
 

④上がいなくなる

「上が詰まってる」とまた逆ですが。
採用ではアツイコトを語るスタートアップですが、基本的に常に人材不足です。
なので、採用において、[質]より[量]を優先しちゃう場面はあります。
そこに優秀な人が入ると、すごく成果を出します。で、すぐ偉くなります。
若くして偉くなって気付くのです「あれヤバイ、競争相手がいない。なんか退化が始まっている気がする」と。
これで辞めていくケース、たまにある気がします。

パターン6 : プロダクト系の仕事をやりたくなる

「カスタマーサクセスでやれることは限界がある。プロダクトオーナーやPMMに向けてキャリアを積みたい」と辞めるケースもある気がします。
 
社内にとどまった方がドメイン知識が活かせるので、ホントは転職せずに社内で小さいプロダクトのオーナーになれたりするといいのだと思います。
しかし、ポジションが空いてなかったり、あるいはそれに必要な実力を示せなかったりすると、退職して外に活躍の場を求めていきます。 

 <関連記事> 

 

まとめ

つらつらと書きましたが、カスタマーサクセスの退職理由は上記の複合で起きているケースが多い気がします。
特に、
  • <カスタマーサクセスという職種> と <スタートアップという組織形態>が、実はちょっと相性悪い部分があり、それが露呈すると退職が発生
  • <カスタマーサクセスの理想イメージ>と<顧客接点という職種の現実・辛い部分>が乖離することがあり、それが深刻化すると退職が発生
みたいなパターンが一定ある気がしています。
 (なので単純に、スタートアップや顧客接点の一般的な退職理由≒カスタマーサクセスの退職理由、なのかもしれません)
 
  論語と算盤」で言ったら、カスタマーサクセスは「論語」が強調されすぎてきたという話かもしれません。
 
ぶっちゃけ、成長過程の会社や顧客接点が楽しい事ばかりなわけないです。
スタートアップや顧客接点ってそういうものでしょ、とも思うのですが人によってイメージや許容レベルは異なる、ということのようです。
 
ミスマッチを防ぐためにも「キレイゴトは並べますがスタートアップですよ。覚悟はいいですか?」とか採用の時にしっかり確認したり、日々の業務の中で(ポジティブな面の共有は当然するとして)ツラミはツラミで受け止めたりすることも特に必要なんだろうなぁ、などと思います。 
随時追記していきたいと思います。