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カスタマーサクセスのキャリアは本当に明るいのか

カスタマーサクセスとは何か――日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」

「カスタマーサクセスのキャリアは明るい」みたいな話がよく言われるようになりました。
 
例えば、日本で書かれたカスタマーサクセスの教科書として知られる「カスタマーサクセスとは何か」(通称「赤本」)でも
カスタマーサクセス職は
 ①引く手あまた!
 ②カッコいい!
 ③豊かな人生を送る!
 なんて書かれています。
 
実際、カスタマーサクセス関連の求人は増えていますし、「カスタマーサクセスのキャリアは明るい」一定の真理をついていると思います。
 
でも、それはホントに本当だろうか、と疑ってみるエントリを書いてみたいと思います。 

 

なぜ、カスタマーサクセスのキャリアは明るいと言われるのか

そもそも、なぜカスタマーサクセスのキャリアは明るいと言われるのでしょうか?
 

食いっぱぐれないし給料も上げやすそう

1つめは、カスタマーサクセスのスキルを身につければ、食いっぱぐれにくいし給料も上げやすそう、ということです。
 
青本で言えばサブスクリプションビジネスの発展により、
赤本で言えばリテンションモデルの進展により
要は、継続率を重要指標とするビジネスモデルが発展することによって、継続率を向上させる方法論としてのカスタマーサクセスはビジネス上の重要性を増しています。
ビジネス上の重要性を増しているので、求人が増えます。なので、カスタマーサクセスのスキルを身につければ食いっぱぐれる機会がない。
さらに、カスタマーサクセスは(コストセンターではなく)プロフィットセンターなので、お給料も上げやすい。
そんなロジックだと思います。
 
実際、LTVと対峙してLTVベースで物事を考える経験というのは、ビジネスパーソンとして貴重な経験だと思います。 
 

「顧客の成功」をミッションとする気持ちよさ・豊かさ

2つめは、「顧客の成功」をミッションとする気持ちよさ・豊かさです。
 
カスタマーサクセスが生まれる前も、他に儲かる職種はたくさんあったし、求人が拡大する職種なんてのはたくさんあったわけです。
例えば、SEとか今で言えばデータサイエンティストとか。
それらと比べて、カスタマーサクセスの魅力的なところは「顧客の成功に自社の(自分の)成功を重ねる」と言う、青臭くも気持ち良いコンセプトだと思います。
赤本風に言えば「豊かな人生を送る!」わけです。
 
昔から、肉食っぽい人が稼げるフルコミッション・成果給のポジションとか、データを扱えるタイプの人が稼げるポジションというのはたくさんあったと思うのです。
しかし、「共感性が高かったり優しい」を特性とした人たちが、その特性を発揮して稼げる職種というのは、必ずしも多くなかった気がします。
そういった人たちに希望を与える職種がカスタマーサクセスという職種なのかな、なんて思います。
 

SaaS・サブスクが拡大し、カスタマーサクセスが進化すると何が起きるのか

ところで、SaaS・サブスクが拡大し、カスタマーサクセスが進化すると何が起きるのでしょうか。
 

さらに進む分業と定型化

すでに一定規模以上になってるSaaSを見ていると分かりますが、事業が大きくなりカスタマーサクセス組織が大きくなると分業が進みます。
 
マーケティングインサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスというTHE MODEL自体も分業ですが、カスタマーサクセスの中の分業がさらに進むのです。
 
例えば、最初は1人とか2人とかで「カスタマーサクセス」とか「CSM」とか大きくくくっていたものが
8人とか超えたあたりから「オンボーディング」「アダプション」「リアクティブ」「リニューアルセールス」みたいな感じで、分業されていきます。
 
なぜ分業が起きるかというと、その方が効率的だからです。
そして、さらなる効率を追求して「オペレーションの定型化」が進みます
 
どの会社でもこれ自体は不可避だと思いますが、
特に「SMB寄りだが完全テックタッチにもできない」みたいなビジネスを抱えているほど顕著だと思います。
実際に、一定規模以上のSaaS企業のカスタマーサクセスの組織図を調べてもらえば、一定の確率で分業が進んでいることがわかると思います。
 

分業・定型化が生む新たな問題

ここで新たな問題が生じます。
分業が進み、オペレーションの整理が進んでいくと、現場で働く人たちはぶつ切りにされた仕組みを実行するだけの「オペレーター」になってしまうのです。
 
オペレーターになってしまうと、以下2点問題が生じます。
 
1つめは、単純にスキルが身に付きづらいことです。一定出来上がった仕組みを実行するだけの人になるからです。
仕組みを実行するだけなら、正直カスタマーサクセス経験者である必要もないし、給料も上がりにくい。
となると、「職種自体が拡大していて食いっぱぐれもないし給料あがりやすい」というカスタマーサクセスのキャリアが明るい根拠の一つめが崩れてきます。
 
2つめは、楽しくないことです。
想像してみてください。ものすごく定型化されたオンボーディングを毎日5件捌き続ける日々を。
「顧客の成功に自社(自分の)成功を重ねる」という、青臭く・人間臭く気持ちいいカスタマーサクセスとはちょっと違う感じになって来ませんか?
 
ぶつ切りになっているから全体も見えにくいし。
  
ちなみに昔、楽天がECを始めた時も同じような問題が発生したと聞いています。
当初「ECコンサルタント」は、ECに入る店舗を獲得する営業と獲得した店舗をサポートするカスタマーサクセスを兼ねていた(カスタマーサクセスなんて言葉は当時なかったと思うけど)。
それが一定の規模を超えたタイミングで新規獲得チームと既存サポートチームを分けた。これは、仕事が膨れ上がった現場からの要請だった。経営の要請じゃなくて現場の要請ってのが面白いですね。聞いた話だと、三木谷さんは「お前らはそういう分業された大企業が嫌でベンチャーに来たんだろう」と一度は突っぱねたらしい。
でもいよいよ規模が拡大して分業されることになった。これによって効率化は進んだけど、全体見られる人材が育ちにくくなった。仕事の楽しさはちょっと失われた。そんなストーリーです。
 
かくして、
カスタマーサクセスが拡大することにより、逆にカスタマーサクセス職の未来が明るくなくなる、ということになる可能性があります。
 

それでもカスタマーサクセスのキャリアは明るい

以上を考えると
「なんとなく流行りのカスタマーサクセス職になったら未来開けそう」みたいなケースは、ちょっとキャリアを大外ししてしまうことがあり得そうな気がします。
それを避けるためには
  • 一定の裁量があるポジションに行く
  • 定型化された業務をやりながらも自分なりの工夫を意識的にする
のいずれかが必要になってくると思います。両方程度問題ですが。
 
「一定の裁量があるポジションに行く」という意味だと
例えば、
「これからカスタマーサクセスを作っていく1人目」とか魅力的ですし、
そこまで極端だと自信ない方でも
「まだ5人ぐらいしかいなくて、これから業務拡大していく」みたいなポジションとか入るのは良いかもしれません。
「分業進んでるけど、完全テックタッチを志向していてそのPDCAを回すポジション」とかもいいですね。
 
逆にすでに数十人規模に大きくなったカスタマーサクセス組織や定形オペレーションを持ったカスタマーサクセスでも、しっかり自分なりの工夫をすることは可能です。
そして、重要なポイントとして、現時点で大きなカスタマーサクセス組織を持っているような会社は、
カスタマーサクセス職に自分なりの工夫を推奨する文化と仕組みを持っていると思うし、マネージャーもそういうマネジメントをしてくれると思います。
実際、某SaaS企業のCSの偉い人が「オンボーディング専属チームを作ってすごく効率的になったけど辞めた。そこで働くメンバーのキャリアを描けなくて。」なんて言ってました。
一定の揺さぶりはありつつも、メンバーのキャリアを青臭く考える「いい人」が多いのも、カスタマーサクセスの特徴かもしれませんね。
 
そんなこんなで、
  • 分業促進によるオペレーター化という、カスタマーサクセス職の未来を奪いかねない課題はある
  • でも、小さな組織に行けばとりあえず回避できそう
  • 今の所、大きな組織もオペレーター化を推奨していない
というロジックで、結局カスタマーサクセス職の未来は、現時点でそれなりに明るいと思います。

とは言え、「自分なりの工夫ができているか」「仕組みを作る側に回れそうか」という投げかけは自分なりに持っていた方が良いんじゃないかな、なんて思ってます。 どんな仕事でも同じだと思いますが。
 
<これからカスタマーサクセスに転職しようという方へ>
こちらのエントリーもどうぞ。
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